本書『日本アルプス』は、その小島烏水が明治時代に著した作品を取りまとめたものである。
著者は、映画ではキザったらしい人物のように描かれているが、本書『日本アルプス』の冒頭を読むと、やっぱりキザったらしいというか、夜郎自大というか、あまり友達になれそうな気がしないタイプのように感じた。
というのも、これまで僕はたくさんの明治文学を読んできた中で、こんなに大上段に構えた偉そうな文章を、小説や随筆で読んだことがないからである。
ただ、読み進むうちに、普通の山行記としての自然な文体に変わっていった。
単に文体が固まっていなかっただけなのだろうか。
文体のことはさておき、内容としては非常に興味深い点がいくつもあった。
まず1つめ。拳銃について。
登山道など存在しないころの北アルプス・槍ヶ岳の山行記「鎗ケ嶽探検記」の一節に、
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ただ腰に拳銃一梃を忍ばせたるは、驚破という場合に、田舎にて購い得べからざればなり。
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と書き記してあり、一般人が気軽に拳銃を持ち歩く社会だったんだなぁと、単純に驚いた次第だ。
たしかに拳銃があれば、僕だって何も熊にビクビクする必要もないのだ。
2つめ。「日本アルプス」の定義について。
白峰三山は、「日本アルプス」の範囲から漏れているかも?
これは、収録されている作品によって異なるような印象を受けるのだが、どうやら飛騨山脈のことを「日本アルプス」と称しているようで、木曽山脈や赤石山脈は含まれていないかのような書き方がされている箇所が、複数見受けられた。
3つめ。山の標高について。
現在は、日本の山を標高順に並べると、
- 富士山 (3,776m)
- 北岳 (3,192m)
- 奥穂高岳 (3,190m)
- 間ノ岳 (3,189m)
- 槍ヶ岳 (3,180m)
- 悪沢岳 (3,141)
- 赤石岳 (3,120m)
- 富士山
- 鎗ケ嶽
- 穂高山
- 常念嶽
- 大天井嶽
- 乗鞍嶽
- 御嶽
ということになっている。
そういえば、今年の夏に大天井岳の山頂から見た常念岳はバカでかかった。標高から考えれば間違いなく常念岳を見下ろす位置にいるはずなのに、自分の目の高さよりも上に常念岳の山頂があるように見えた。あそこに登るのかと思ってゲンナリしたのを実感としてよく覚えている。
そういう印象を、当時の人たちも抱いていたのだろうか。
そのほかにも、烏水の肖像画(というか、スケッチ)が載っていて、それがどうやっても仲村トオルには似ても似つかないハゲ・メガネ・出っ歯のヒゲオヤジだったりなど、衝撃を受ける内容がテンコ盛りである。
明治文語文に抵抗がなければ、話のタネとして読んでみることを強くおすすめする次第だ。
蛇足だが、服部文祥氏の『百年前の山を旅する』という作品があるが、今から100年前というと、ちょうどこの小島烏水の時代である。
残念ながら『百年前の山を旅する』は読んでいないのだが、本書の内容と符合するのかしないのか、じっくり検証してみるというのも意地悪くて面白いかもしれない。
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