写真は明るくなってから撮ったものだが、到着時点ではまだ外は真っ暗だった。
東京からここまでの4時間がそのまま睡眠に充てられれば良かったのだが、途中でトイレ休憩が発生するので時間が非常に細切れにされてしまい、まともに寝てられなんていられなかった。
すでに今年のゴールデンウィークに夜行バスの過酷さを味わっていた僕としては、夜行バスは避けたかったのだが、、、
ここでバスを降りたのは僕のほかに十数人。その中で単独行なのは僕だけのようだ。
夜明けは5時頃なので、それまであと2時間もある。
気温は手元の温度計で13度。
2時間となると、わざわざ荷を解いてシュラフやらシュラフカバーやらまで引っ張り出すには時間が短い。が、そのままゴロ寝をするには寒い。
とりあえずフリースとダウンジャケットを着込み、今回初投入のサーマレストの「RidgeRest SOLite」を地面に敷いて、丸まってゴロ寝した。
寒い。が、ここで「RidgeRest SOLite」の真価を見た。地面の冷たさが全く伝わってこない。
これはスゴイ!
えらくカサ張るが、やはりそれだけの断熱効果があるということがこれで実感できた。
寝ていると、1匹の子猫が寄ってきた。
やたら人に慣れているのと、毛並みがキレいなのとから推察するに、どこかの飼い猫のようだ。
出発前の登山者に餌をねだって歩いている模様。
朝食のパンの切れ端をあげたところ、ガツガツと食べていた。
この猫、えらく懐いてくる割に、写真を撮ろうとすると逃げる。やっと絵に収めたのが下の1枚だ。(ねむい写真でお恥ずかしい。)
かわいい猫との名残は惜しいが、5時を過ぎてすっかり明るくなってきたので、5時半には出発した。
登山口は駐車場の端にある。
そこからまずは竹宇駒ヶ岳神社を目指す。
「熊出没注意」の看板も立てられていた。やはりこの辺にも出るんだなぁ、と、熊鈴を鳴らし始める。
なぜか道すがらの道標には「尾白川渓谷」とばかり書いてあり、「駒ヶ岳」の文字は全く現れない。
まさか入り口を間違えたかと不安になり通りすがりの人に聞いてみるが、道は合っているようだ。
10分も歩くと、竹宇駒ヶ岳神社に着いた。
入り口はいかにも山の中の神社という感じだが、境内に入ってみると普通の神社だ。
旅の無事を祈って参拝をする。
そのまま神社を抜けると、すぐ裏手に吊り橋が現れる。「定員5名」の看板がリアル感丸出しだ。
非常にしっかりした造りに見えたが、これが、歩くたびに揺れる揺れる。
この揺れこそが耐久性において重要なのだろうが、あまり気持ちの良いものではない。
下を流れるのは尾白川。
素敵な渓流だ。
吊り橋を渡ると、道標が現れる。
ここで初めて甲斐駒ヶ岳の名が道標に現れる。
ここからが黒戸尾根の始まりと思えば良いだろう。
しばらく、地味にキツい登りがひたすら続く。
『山と高原地図』のコースタイムによれば2時間半も歩けば横手・白須分岐に到着するはずなのに、8時を過ぎてもたどり着かない。
睡眠をロクにとれなかったため、歩いていても眠くて眠くて倒れこんでしまいそうになるため、全然足が進まないのだ。
もれはもう開き直って、大休止するべし。
荷物を降ろし、湯を沸かして、パンを食べ、コーヒーを飲んだ。気温は、なぜか未明より下がって10度。
場合によってはここで仮眠をとることも考えていたが、元気が出てきたのでこのまままた登り続けることにした。
今度はビックリするほど足が軽い。
単なるシャリバテだったのか??
やせ尾根ふうの登山道も現れ、少し気分も上がる。
8:45、横手・白須分岐到着。
休憩せずにそのまま歩き続ける。
次第にガスが濃くなってきた。木々がまばらな樹林帯が薄っすらと白んで、ややもすると幻想的な景色である。
前にも後ろにも人がいない中でこのような景色の中にいると、このまま違う世界に踏み込んでしまうのではないかという気がしてくるが、不思議と怖くはない。
そんな異空間な雰囲気をより一層強くさせるのが、登山道沿いの至るところに置かれている石仏や石碑だ。
もともとが修験道の修行の場であるようで、きっとこういう石仏・石碑を背負って奉納する修行なのだろう、と妄想する。本当のところはよく分からない。
少なくとも、この山全体がひとつの霊場なのだろう。
このあたりは「八丁登り」と言われるキツい傾斜で、しつこくしつこくキツい坂が続く。
もういい加減イヤになったころに、第一の難関「刃渡り」が現れる。
ここは、極端なまでのやせ尾根で、尖った岩の両脇は谷底まで切り立っているという無茶なルート。
手前の岩場をよじ登ると、いよいよその「刃渡り」部分に差し掛かる。
進行方向左手は木々の生い茂ったガケ。右手は何も無い岩盤のガケ。
この岩盤のガケ、下のほうはどうなっているかというと、
うーむ、どこまで落ちてるんだ、これは・・・。
そして、この先に、
こんな感じに続いて、
こんな感じになる。
歩いた印象としては、見た目ほどは怖くないし、足場もしっかりしていた。
ただ、これで風が強かったり、雨で滑ったりするような状況なら怖かっただろうなと。
刃渡りを渡り終えて、時刻は10:10。
その後20分ほど、再び地味な登りをジリジリ歩くと、今度は梯子が現れる。
登っていると梯子の下が丸見えなので、高度感がなかなかのものだ。
この梯子を終えると鎖場が現れ、
これを登りきると刀利天狗の土台になっている巨石が現れる。
巨石の下には奉納された石碑が、まるで岩を支えるかのように置かれている。
この岩を回り込むと、いよいよ刀利天狗の祠が現れる。
刀利天狗を後にすると、黒戸山の山頂直下まで登りが続く。
ここはキツ過ぎない気楽な道だ。
黒戸山の山頂直下と思われる場所までくると、山頂方面への踏み跡がわずかながらあるようだった。黒戸山には三角点もあるので、ちょっと見ておきたいような気もするが、先も長いのでやめておくことにする。
ここから五合目まではいったん下り。
下りに入って10分ほど歩くと、急に広場に出る。
これが五合目小屋の跡か?
見回してみたが、それらしい標識は無い。
この黒戸尾根を歩いていて思うのは、標識の類が非常に少ないことである。
一応登山道には「登山道」という、そのまんまな標識が木の幹などにつけられていたりはするのだが、『山と高原地図』に記載されているような地名、たとえば「前屏風の頭」なども特に案内は無く、結局どこがそれなのかが分からなかった。
この五合目小屋の跡地らしきものも、あくまで「らしい」ことしか分からない。
もしかしたら、この場所に隣接している祠の前の広場のほうが小屋跡かもしれない。
まあ、どっちでもいいけど。
というわけでこの祠、やはり巨石の張り付くように立てられており、周りには石仏や石碑が立てられている。
この祠の向かって右側に登山道は続いている。
そしてすぐに連続して現れる梯子。
この梯子を登りきったところで12時になったので、軽くメシを食うべく、大休止とした。
コンビニで買った、チョココロネとクリームコロネが一緒になったパンを持ってきていたのだが、ザックの中で潰れて、無残な姿に・・・。
チョコとクリームが渾然一体となって、なんだかよく分からない甘いものになっていた。
それでも美味しくいただくのが山の鉄則。
潰れたコロネをお腹に叩き込んだところで、再び歩き出す。
しばらく歩くと橋が現れた。
この向こうには、また幾つもの梯子が続く。
そして、その梯子の極め付けが、垂直の梯子。
上の写真は、垂直の梯子を上りきって、上から撮ったところ。
こんな断崖を20kgの荷物を背負って、確保も無しに登らなくてはならないとは・・・。
と思っていたら、すぐ後に、今度は足場も微妙な垂直の壁が現れた。今度は梯子も無く、鎖が1本垂れているだけ。
非常に分かりにくいと思いますが、垂直な岩場を登りきったところで、上から覗き込むようにして撮った写真である。この鎖は、垂直に垂れ下がっているものだ。
この辺が『山と高原地図』に記載のある「屏風岩」だろうか。。。
そんなことすら判然としない。
とにかく、だいぶ怖かった。空身であれば、ボルダリング経験があるので何の問題も無いのだが、背中に20kg以上を背負ってこんなところを登るのは始めての経験なので、かなりスリリングである。
この難所を乗り切ってしまえば、七丈小屋はもうすぐだ。
12:55、七丈小屋到着。
看板には、いろいろな注意事項が。
小屋でテント場を借りる受付をする際に、明日の目的地として「北沢峠」と書いたところ、小屋の親父が「北沢峠行ってどうすんの?! バスなんか来ねぇぞ。」と言いだした。
どうやら台風15号の影響で広河原の先で土砂崩れがあり、通行止めになっているということらしい。
諦めがつかなくて、テント場からバス会社各社に電話をして聞いてみたが、伊那方面にも甲府方面にもバスは動いていないとのこと。
ということは、またあの黒戸尾根を通らなきゃいけないのか。。。
とりあえず、テント場にテントを張って、ちょっと落ち着いてみた。
近所のテントの人と情報交換をしながら酒を酌み交わし、午後の4時には寒さのあまりにテントに引き篭もって眠りについてしまった。
夜9時、トイレに行きたくなって目が覚め、テントからのそのそと這い出した。
トイレに行く道すがら、眼下には韮崎の街だろうか、煌煌たる街明かりが広がっていた。
それを見ていると、自分はこのクソ寒い中、いったい何をしているのだろうかと情けなくなった。下界に居れば、なんの苦労もなく美味いものを食べ、飲みたいものを飲み、温かい布団で眠れるのに、寒さに震えながら夜をやり過ごすのは何故なのか。
ほとほと嫌気が差したとき、ふと視線を頭上に向けてみた。
そこには満天の星空。
そうだ、思い出した。山には山でしか見られないものがある。だからこそ、わざわざ登るのだ。
暗闇のなかで、登山の醍醐味を思い出したのであった。
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