(この記事は「1日目その1 岳沢経由で前穂高まで」の続きです。)
前穂高山頂からの眺めを堪能した僕は、早々に奥穂高に向かうことにした。
あまりのんびりしていると、雷雨に巻き込まれてしまうかもしれない。こんな隠れる場所も無い岩陵の尾根道で雷なんかに出くわしたら、生きて帰れる気がしない。
まずは急いで紀美子平に下りる。
道のりにして紀美子平まであと100m程度というところで、狭い登山道の真ん中にザックを下ろして座り込んでいるオッサンがいた。
僕がそこに至る直前、紀美子平に立っているお兄ちゃんに注意されても動こうとしない。
実際に、通行に支障をきたすような場所だし、そこを避けて歩こうとすると、こっちが危険な箇所に踏み込まなければならない。
そこで、どいてもらうことにした。
僕 「すみません、そこ登山道なんで、どいてもらえませんか」
オッサン 「そっち通れませんか?」
僕 「そっちは危ないんで通りたくないです。そもそもそこは登山道なんでどいてもらえませんか。このあともたくさん登山者が来るんですよ」
と、ここまで話をしたところで、さっきこのオッサンに注意していたお兄ちゃんも、追い討ちをかける。
お兄ちゃん 「ちょっとそこから降りて、こっちで休憩してください」
オッサン 「もうヘトヘトで動けませんわー」
お兄ちゃん 「じゃあ、なんでここまで来たんだって話ですよ」
オッサン 「余計なお世話ですわ、ほっといてください」
お兄ちゃん 「救助隊だから言ってるんですよ!」
あ、このお兄ちゃんは救助隊だったんだ!
ここまで言われてオッサンはやっと腰をあげ、なぜか前穂高の山頂へ向かっていった。ヘトヘトやったんちゃうんか?!
何らかの統計を取っているわけではなく、あくまで僕個人が受ける印象であるが、超メジャー級の高山には、夏になるとこのオッサンのように実力不足な上に利己的な立ち振る舞いをする人が増える気がする。
そんなこんなで、10:56、紀美子平らに無事帰還。
山頂方面を振り返ると、登山者が数珠つなぎになって歩いていた。
えらい混雑だな。。。
おそらく、このうちのかなりの割合の人は、このまま岳沢に降りるのだろう。
が、僕はデポしたザックを背負い、吊尾根に向かう。
吊尾根は、実際に尾根の上を歩くわけではない。
トラバースするように奥穂高に向かう。
吊尾根は怖いところだと聞いていたが、今のところそれほどでもない。
険しい箇所もあるが、ボルダリングジムの一番下のグレードよりも楽である。
この写真でも分かるとおり、ほとんどの場所は、普通に歩くだけの場所。
11:13、フォトジェニックな奇岩の横を通過。
なんとも雄大な景色が続く。
11:17、ハクサンイチゲ発見!
カンチコウゾリナとヨツバシオガマも。
次第に近付く奥穂高。
11:22、「分岐点」の文字が。
え、なんの分岐点???
と思って見回してみると、最低コルの分岐点だそうな。
「山と高原地図」をよーく見てみたら、なんと、前穂高の山頂からここまで、紀美子平を経由しないで降りてくる道が薄っすらと描かれているではないか。
そんな道あったんかい! いや、歩かないけど。
最低コルからすこし離れてから見てみると、たしかにルートが薄っすらと有るような無いような、、、
ここから先は、どんどん標高を上げていく。
真正面に伸びる岳沢。
涸沢カールに涸沢ヒュッテと涸沢小屋。
そして、その向こうに常念山脈。
振り向けば、前穂高と、その先に伸びる明神岳への稜線。
だんだん入道雲が育ってきた。
あいつが育ちきる前に、なんとしても穂高岳山荘に入らなければ。
でも、あのピークが奥穂高だから、それを越えれば30分で山小屋に逃げ込める。さすがに間に合うだろう。
と思いながら歩いていたところ、すれ違ったオジサンに、「奥穂高はあそこのもうちょっと先だ」と教えられ、愕然とする。
まじかー。。。
気は焦るが、険しい道が行く手を阻む。
だが、険しい道なだけあって、標高をぐんぐん稼げる。
おかげで、前穂高方面の景色がどんどん良くなっていく。
ますます惚れた。近い将来、明神岳に登ろう。
だが、まずは目の前の奥穂高岳だ。
とりあえず、奥穂高の手前のピークまではもう少しだ。
ちょっとだけボルダリング風味の鎖場。
淡々と越える。
12:38、僕が奥穂高の山頂だと誤認していたピークに到着。
南稜ノ頭というらしい。
槍ヶ岳も見える。
さあ、いよいよ奥穂高の山頂へ、あと少しだ。
稜線の反対側にジャンダルムが見えてきた。
まるで、同じクラスのマドンナに街中で不意に出会ってしまった思春期男子のように、心臓がバクバクする。
明日はあそこを越えていくのだ。
さらに進み、奥穂高岳山頂のすぐ手前、西穂高への分岐から見るジャンダルムは、チビリそうなほどの迫力だ。
12:53、奥穂高岳山頂に到着。
山頂には祠が建てられている。
山頂から見た涸沢岳、北穂高岳、槍ヶ岳。
ジャンダルム。
さあ、奥穂高岳は通過点に過ぎない。さっさと穂高岳山荘に向かおう。
地味に険しい斜面を下る。
山頂を振り返ると、こんな道。
13:16、穂高岳山荘が見えてきた。
穂高岳山荘の全容。
13:29、穂高岳山荘に到着。
今まさに下りてきた難所を仰ぎ見る。
穂高岳山荘から奥穂高岳山頂までの間で、一番キツいのは、小屋から見えているまさにこの部分なんじゃなかろうか。
なんにしても、天気が良いうちに小屋に着けて良かった。
ホッと胸をなでおろす。
小屋に入って受付をすると、今日は1人1枚の布団が確保できているそうで、これまたホッとした。
もし、2人で1枚と言われたらお金だけ払ってテントで幕営しようと思っていたので、大変安堵した。
部屋に荷物を置き、開放感に浸りながら、ビールとラーメンで一息つく。
持参した本も当たりだった。非常に面白い。
『動物たちの武器』という、観察系の生物学の本だ。
遺伝学系と違い、観察系の生物学は文系の僕にも取っ付きやすくて嬉しい。
その後、ビールをお替りして、そのうち休憩室の片隅で本を開いたまま寝オチ。
そうこうするうちに、17:40、夕食が始まる。
ビールを飲みすぎて食欲がイマイチ・・・。
こんなおいしい食事なのにバチ当たりだと、無理にでも詰め込み、流し込み、なんとか完食。
食事が終わり、19時頃、空は夕焼け。
だが、小屋付近はガスがかかったり切れたり。
幸い雷にはならなかったが、明日の天気は大丈夫だろうか。
明日は天気にもよるけれど、今日と同じぐらいの早出をしよう。
早々に就寝。
(「2日目その1 穂高岳山荘から西穂山荘まで」につづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿