(この記事は「計画概要」の続きです。)
登山に向かう朝、僕はいつも気が重い。
もっとベッドで寝ていたいし、エアコンの効いた室内で読書していたほうがどんなに楽なことか。
平日の酷務で体もしんどい。
僕は元々が引きこもり体質なので、出かけるにしても腰が重いほうなのだ。
それが今回については、さらにもっと気持ちを重くさせることがあった。
なにしろ、行く先はあの奥穂~西穂の一般ルート最難関(むしろ、岩のバリエーションルートとも言える)である。無事に帰れる保証も無い。
しかも、天気はしばらく、午後から不安定になり雷の恐れもあるとのこと。
もう、不安しかない。
それでも、せっかく有休も取ってしまった。各方面にかなり無理を押して取った休みである。今さら、「やっぱり行くのやめます」とも言えない。
意を決して家を出た。
駅までの道。
早朝にもかかわらず、東京はすでに不快なほど蒸し暑かった。
この蒸し暑さから逃れて避暑地に向かうと思えば、幾ばくか足取りも軽くなろうというもの。
が、避暑地を通り越して山岳地帯に入り込んでしまうわけだから、足取りの軽くなるはずもなかった。
好きでわざわざ登山をしているのに、この気の重さは何年経っても変わらない。
もしかしたら僕は、登山に向いていないのかもしれない。
そんなわけで、ややうつむき加減で特急あずさ、松本電鉄、アルピコバスを乗り継ぎ、13時過ぎに大正池の前を通過したとき、バスの窓から穂高連峰が目に飛び込んできた。
あそこを歩くのかと思うと、楽しみよりも恐怖のほうが先立ち、胃がせり上がってくる感じを覚えた。
結局、晴天とは裏腹に、重い気持ちで上高地バスターミナルに到着したのは13時半頃。
そこから小梨平のキャンプ場までは徒歩で10分ほどだ。
途中、河童橋を通る。
嗚呼、、、ホントに来てしまった。。。
呪わしいほどの好天。
いっそ土砂降りにでもなってくれれば、それを言い訳にして逃げ帰れるのに。
暗澹たる気持ちで河童橋前を通過し、小梨平キャンプ場へと向かった。
小梨平キャンプ場は、快適なキャンプ場だ。
まずは事務所で受付をし、テントを張る。
その時点でまだ14時過ぎ。時間はたっぷりある。
せっかくだから、本を持って河童橋周辺でのんびりしよう。
河童橋から穂高を眺め、
五千丈ロッジのアップルパイを食べながら本を読む。
ここでふと気付く。
夏の土曜の上高地で、オッサンが一人でアップルパイ食ってるのって、凍えるほどに寒い風景じゃないか?? まー、気にしないけど。
それにしても、観光客な人々を見ていて、なぜ自分もこういうところを観光するだけで満足するような人間になれなかったのかと、グチグチと考えた。
みんな楽しそうにしているじゃないか、と。
なんでわざわざ好きこのんで、汗まみれになって重い荷物を担ぎ、斜面を上がったり下ったりするのだろうか。もっと楽で楽しいことはたくさん有るんじゃないだろうか。
でも、結局今の自分に採り得る選択肢の中には、その「楽で楽しいこと」が見当たらなかった。
やはり山に登るしかないようだ。
その後、川沿いをブラブラしながらトリカブトの花を観賞したり。
いい加減ヒマを持て余し始め、17時前に夕飯にすることにした。
本当は、服部先生のフリーズドライのカレーを持参していたのだが、それを作ることすら面倒で、キャンプ場の食堂に向かった。
妙齢のキレイなオネーサンが提供してくれた生ビールとカレーで最後の晩餐。
いや、最後じゃない。ちゃんと生きて帰るの!
良い心持ちで食堂を出たものの、まだ時間が早いので、また河童橋まで行き、缶ビールを飲みながら景色を眺めた。
焼岳。
霞沢岳。
そして、穂高。
ビールを飲みながら穂高を見ていたら、なんだかイケそうな気がしてきた。
そう、僕は、酒を飲むと気が大きくなるのだ。
気分が良くなってテントに戻ると、ニホンザルがウロウロしていた。
随分人馴れしている様子だ。
夜中にテントを悪戯されないか不安だが、先方に先住権があるので、こればっかりは致し方ない。
明日の天気予報は晴れで、午後から雷になるかも、とのこと。
天気予報が外れて朝から土砂降りになることを願いつつ、就寝。
(「1日目その1 岳沢経由で前穂高まで」につづく)
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