この岩に対する持て余したモチベーションをどこにぶつければいいのか。
といっても、行きたい気持ちはあるものの、この夏の諸遠征でお金を使い果たし、もはや新たに遠征を準備できる余力は無い。
そんなわけで、日帰りでギリギリ行ける岩の山、奥秩父の乾徳山に行くことにした。
標高は2,031m。雲取山より高い。
標高は2,031m。雲取山より高い。
乾徳山には初めて行くのだが、なかなか歯ごたえのある山だと聞いている。
険しい岩場が多く、鎖場もかなりタフだと。
が、それよりもなお、バスの時間に間に合うように下山するのが大変だということだ。
なんせ、コースタイムが概ね7時間のコースタイムなのに対して、始発のバスで登山口に到着するのが9:02、終バスの出発が16:08なのだ。
サクサク歩かないとメシを食う暇もない。
険しい岩場が多く、鎖場もかなりタフだと。
が、それよりもなお、バスの時間に間に合うように下山するのが大変だということだ。
なんせ、コースタイムが概ね7時間のコースタイムなのに対して、始発のバスで登山口に到着するのが9:02、終バスの出発が16:08なのだ。
サクサク歩かないとメシを食う暇もない。
このタイトな交通機関事情を考え、トレランスタイルで行くことにした。
ルートは道満尾根から上がり、いったん高原ヒュッテを経由して扇平から山頂へ。
山頂からは下山道を通り、徳和からバス停に戻る。
トレランスタイルであれば、このルートの標準コースタイムが約7時間のところを5時間ぐらいにできるだろう。
そうすれば終バスにも全然余裕で間に合うどころか、終バスの前のバスに乗ることも難しくない。
朝6時、新宿発の電車に乗って出発。
塩山駅に8:12着で、西沢渓谷行きの始発バスに乗る。
9時過ぎ、乾徳山登山口バス停に到着。
標高は830m。
ここから山頂まで、ちょうど1,200mの標高差だ。
準備をして出発。
ここから山頂まで、ちょうど1,200mの標高差だ。
準備をして出発。
道標に従って走っていたが、5分ほど進んだところで違和感を覚える。
こっちじゃない!
慌てて地図を確認すると、下山ルートにしようと考えていた徳和方面の道だった。
急いで引き返す。
同じバスに乗っていた人達とすれ違う。バツが悪い。
あらためて道満尾根方面に向かう。
正直、道満尾根方面の道標も分かりにくい。
この道標も、まるで右折を促すかのような角度で付いているが、地図と照合した結果、直進すべきであることが判明。
吉祥寺の前を通り、
このあとも、2万5000分の1の地形図に載っているショートカットを探して農道に入り込んでコケてみたり、行っては戻りを繰り返し、ナンとかカンとかそれらしい林道の入口にたどり着く。
ところが、この林道を登っていくと、いきなりゲートが封鎖されている。
よくある車止めのゲートとは違って、歩行者がすり抜けることさえできないゲートだ。
いったいどういうことなのかと近づいてみると、張り紙が掲示されていた。
あー、勝手に開けて入れってことね。。。
つーか、この辺、そんなにたくさん害獣がいるのね。。。
シカ? イノシシ? それとも、クマ・・・?
ゲートを抜けると、すぐにトレイルの入口が現れる。
茂みがすぐ両側まで迫ってくる道を、尾根筋に向かって登る。
と、9:28、あっけなく尾根筋に出る。
この頃から、急に便意をもよおし始めた。
登山中のトラブルあるあるネタみたいな展開だ。
お腹が痛いわけではないのだが、それなりの切迫感だ。
といって、登山口バス停まで戻るのではタイムロスが激しすぎる。
9:29、地図に無い分岐が現れる。
右に行くと尾根には向かわず巻道なのかどうかも不明。
地形図には左の尾根道しか載っていない。
そもそも、巻道なんか通らないぞということで、迷わず左に進む。
えぐれた登山道が現れる。
土手のようになった両サイドの向こう側には何が居るのか分からないので、こういう地形は嫌いだ。
実際、南アルプスでクマに出会ったのもこういう地形の場所だし。
が、すぐにこういう地形は解消され、普通の尾根道となる。
9:39、また分岐が現れる。
今回もまた、右が巻道、左が尾根道で、尾根道の方しか地形図に載っていない。
巻道の偵察もしてみたかったが、なんせ便意に急き立てられているので、寄り道をしている余裕がない。
そのまま尾根道をたどる。
尾根道は、道満山のピークに近付くごとに段々岩っぽい感じの道になってくる。
けっこう急登だ。
とてもじゃないが、便意を抱えたまま走れるような道じゃない。
というか、便意を抱えていなくても走れなかったと思う。。。
急登を振り返ると、なかなかの充実感ではあるが、写真では再現性が低いなぁ。。。
ひたすら登っていくと、10時頃にはピークの気配がしてきた。
この、「あー、もうすぐピークだ」という風景が好き。
でも、いつも偽ピークに騙されて、その向こうにさらに登り斜面が続いていたりする。地図読みが甘いせいだ。
だが、今回は正解だったようだ。
10:03、道満山の山頂に到着。
なんも無い、誰もいない山頂。
かろうじて、標識と、
四等三角点があった。
特に何があるわけでもないので、先を急ぐ。
むしろ、様々な意味で、急がなくてはならない。
10:12、車が通れる林道が見えてきた。
実はこの少し手前で、猟銃を持ったオジサンに出会った。
どこから来たのかと思っていたが、ここからだったんだなー。
それにしても、この時期に猟ということは、害獣駆除の人なんだろうな。
きっとこのへんの動物にも詳しいに違いないと思って
「このへん、クマはいますか?」
と聞いてみたところ、
「ああ、いるんじゃない?」
と鼻で笑われる。
なぜ?!
これまで会ったハンターは、もうちょっと親切だったぞ。
で、そんな会話を交わした数十メートル先には、こんな看板が。
なんだよ! いるんじゃんかよ!
こっちはここまでの行程でこんな看板見なかったから聞いたのに。
林道との接点を通り過ぎ、斜面は再び急勾配の登りとなる。
その急斜面をつづら折り状に登山道が付けられている。
途中、あきらかに最近ほじくり返されたような箇所もあった。
クマか?イノシシか?
どんぐりもたくさん落ちているので、とても怖い。
道満山は、そこらじゅうにどんぐりが落ちていて、山全体がクマの食卓のようだ。
いつクマに出くわすか、気が気じゃない。
そうこうするうちに、登山道がさらに岩っぽくなってきた。
乾徳山の近くだけあって、やはり地質が岩っぽいのだろう。
10:28、大平との分岐に出る。
コースタイム的には、高原ヒュッテまであと20分。
あと20分すればこの便意から解放されるんだ!
気持ちは急くが、下腹部に力を入れないようにして歩くため、スピードは出なかった。
ここから扇平まで尾根沿いを直接向かうコースと、高原ヒュッテを経由するコースの分岐まで、尾根を直登する細い道と、蛇行する林道のような広い道とが交差している。
直登する道は、この時の僕にはつらすぎたので、蛇行する広くなだらかな道を歩く。
これが、パッと見は広く整地された道のように見えるが、浮石だらけで非常に歩きにくい。下手な岩場よりも足首がグネりそうになる。
しかも、1週間前の台風の影響か、倒木がやたらたくさんある。
登山道を塞ぐ倒木は奥秩父名物だとは思っていたけれど、こんな前衛の山までそれが徹底されているとは、侮りがたし奥秩父。
10:41、「関東の富士見百景」という看板が現れる。
だが、乾徳山は見えるものの、
富士山は見えなかった。
雲がなかったとしても見える気がしないのだが、どうなのだろう・・・?
ここからは、かなりなだらかな道が続く。
走りやすそうな道だが、お腹に爆弾を抱えた状態では走ることなど一切できない。
それでも、途中で見かけた鹿の親子は写真に収めた。
やっぱり鹿が多いんだろうなぁ。。。
そりゃ木の皮も剥がされるわ。
10:48、ついに国師ヶ原の分岐に到着。
もう高原ヒュッテは目と鼻の先。
きっとそこにはトイレがあって、この苦しみから僕を解き放ってくれるに違いない。
そしてついに、10:51、高原ヒュッテに到着。
あれ、、、、これ、廃屋じゃねーの・・・?
いや、無人小屋だろうが廃屋だろうが、トイレぐらいあるはず。
金峰山手前の大日小屋にだってトイレはあるんだから、ここに無いわけがない。
中に入ってみる。
が、トイレらしきものはない。
ははぁ、さては小屋の裏手にあるな。
裏に回る。
何も無い。
えー、そんなわけないだろ。
近くで休憩しているおじさんに聞いてみると、
「あー、トイレは無いみたいだねぇ」
という、絶望的な返答。
嗚呼、僕は選択ミスをしてしまったようだ。あの時、素直にスタート地点に戻っていればこんなことにはならなかったのに。。。
どこか物陰でしてしまおうかとキョロキョロするも、意外なぐらいに疎林で、どこに行っても丸見えだ。
きっと鹿が食っちゃったんだ。
鹿のバカ野郎。
そんなとき、さっきのオジサンが、
「ほら、鹿がいるよ」
と話を振ってきた。
ごめん、オジサン、今それどころじゃないんだ・・・。
鹿のバカ野郎。
もうこうなったら、このまま乾徳山に登ってやろう。
あとは野となれ山となれ。まさにこんなシチュエーションにぴったりの慣用句ではないか。
そう思った瞬間に便意が引いた。
なんだこりゃ。
あまり健康に良いとはいえないし、こうやって便意を我慢すると便秘の元になるのだが、引っ込んだものは仕方がない。
気を取り直して先を急ぐことにする。
ここまで時間を掛け過ぎた。
できることなら、13:38のバスに乗りたいのだが、かなり厳しい。
急いで国師ヶ原の分岐まで戻り、扇平を目指す。
道は岩が多め。
斜度はそれほどキツくなく、それなりのスピードが出せるが、僕の実力では早歩きが精一杯だった。
登山道脇には、小さなケルンが数多く積まれていた。
目印代わりなのか、戯れなのか分からないが、それほど重い意味は無いと思われるものの、剱岳手前で死者に捧げる系のケルンをいくつも見てきた直後だったので、ちょっとビビる。
11:08、樹林帯を抜け、草地に出る。
このあたりが扇平と言われる場所なのだろう。
扇平の分岐点には、まさに要石のように月見岩がドカンと鎮座している。
せっかくなので登ってみる。
ボルダリングジムの最低難度課題よりもさらに容易だ。
岩の上から見た南側。
蒸気が多いのか、遠くまではハッキリとは見通せない。
東側。
この登山道は、道満山への直接ルートだろう。
北西方面。
今日の目的地の乾徳山が見える。
北東方面。
空だけ。
ちなみに、僕が登った月見岩は、南側のアプローチこそボルダーっぽいけれど、北側に回ると三点支持の必要も無い程なだらかになっている。
11:18、扇平から再び樹林帯へ。
いよいよ乾徳山の核心部に入るということで、登山道も岩がゴロゴロになってきた。
トレランスタイルで来たものの、とても走れるような場所ではない。
11:32、いよいよ三点支持の必要な岩場が現れる。
これこれ! 今日はこれをしに来たのだ。
抜けると、西側の展望が開けていた。
ルートがどんどん岩っぽくなるのかと思ったら、
この先は土と根っこの急斜面。
この急斜面を登りきると、髭剃岩という岩が現れる。
さすがにこの隙間を行け、ということではなく、登山道は右手に向かっていた。
ちなみに、この隙間を無理やり抜けたところで、その先にあるのは崖だ。
11:39、こんなところをよじ登ると、
こんなすばらしい景色を得られた。
まだまだ上もある。
が、ルートは、この岩を登るのではなく、この岩を巻くようにいったんハシゴで下る。
このあたりからルートは次第に、岩の迷宮のようになってくる。
あっちに行け、こっちに行けという、岩に書かれた矢印や、枝に巻かれた赤いテープを頼りに歩く。
この、岩に書かれた矢印が、かなり風化して見づらくなっているのがワナなので、慎重にルートを見極めなければならない。
ところどころある岩の切れ目からは、
絶好の展望を得られる。
11:43、こんな鎖場を乗り越える。
上から見下ろすとこんな感じ。
そして、まだまだ岩場が続きそうな予感。
が、実際にはここから先は、山頂直下まで鎖場は無い。
11:45、巨大な岩と、お約束のように添えられた棒っきれ。
この先、迷路っぽさが増す。
11:48、道が急になだらかになり、岩が無くなった。
が、しかし、登山道を山頂方面に向かう途中、ところどころ絶壁の上に立てるルートへの横道が用意されている。
こういった場所からの眺めはまさに絶景で、東京から日帰りで登れる、たかだか2,000mの山とは思えない程の気持ちよさだ。
こういった場所では、少人数ならば休憩をするのにもってこいなスペースもあり、ランチをとるなら山頂よりもこちらのほうがオススメだ。
山頂直下の断崖絶壁も眺め放題。
山頂も見える。
この周辺を見る限り、岩もしっかりしているし、斜度も緩いし、初心者向けのクライミングルートとして良いのではないかと思うのだが、実際のところはどうなのだろう?
と思って、帰宅後調べてみたところ、中央岩稜と呼ばれる場所が比較的よく登られるようで。
(具体的にはこちらのブログに詳しいです。)
シングルピッチならトップロープでソロでやっちゃえる気もするが、マルチピッチはなぁ。。。
やっぱりクライミングをやるには、ソロでは限界があるなぁと痛感。
11:56、山頂直下の鎖場に到着。今日一番のアドレナリン放出ポイントだ。
岩の高さは10m以上はあろうか。
斜度は50~60度程度なので、大したことはない。
程よくクラックも入っており、鎖を使わなくても、手や足の置き場に困ることは無かった。
ボルダリングジムで、「次は水色の9だな」などとコツコツ課題を練習するよりも、こういうところを登っている方がやっぱり楽しいものだ。
だが、ボルダリングを下手なりにコツコツ練習しているからこそ、こういう場所で体が動くのだろう。
練習って大事。
この鎖場を上がると、目の前が山頂だ。
12:00、山頂に到着。
山頂からは360度ビュー。遮るものは何も無い。
久しぶりに甲武信ヶ岳の姿も拝めた。
残念だったのは、山頂に羽虫がやたらと多く、落ち着いてノンビリしにくかったこと。
ハエかと思ったら、でかい羽アリのような虫で、なぜこんな岩場に居るのかよく分からない。
それらの虫を追い払いながら、持参したおにぎりとクリームパンを食べる。
便意はもうどこかに去っていた。
景色の良い山頂には名残惜しいが、山頂滞在時間15分で下山しはじめる。
下山は、「山と高原地図」に「下山道」と書かれているルートを使うことにした。
まずは山頂の北側を下りる。
山頂直下の短いハシゴと、
長いはしご。
その先には鎖。
この鎖を降りたところまではルートがはっきり分かるのだが、この先のルートが分かりにくい。
森に入るのか、岩を進むのか。
地形図を見る。
「乾徳山」の表記が2016ピークの方に書いてあるので紛らわしいが、乾徳山のピークは2031のほうだ。
地形図によれば、崖に沿って山頂から北上し、崖を突っ切って西に下りる道があるはずだ。
その道は鞍部から出ているのだが、現場に立ってみるとイマイチどこが入口なのかよく分からない。
岩を進んでみたが、どう考えても一般ルートじゃないだろ、という感じだし、このままでは2016ピークに向かって上がってしまう。
地形から考えても、次のピークに行く前に西側の斜面を下りるはずなのだ。
うーむ、入口はどこなのだ。
もしかしたら、いったん稜線の東に出て、岩の隙間を通って西に出るのかもしれない。
見ると、たしかに東側へ下りる踏み跡もあるし、入口には意味ありげなタオルが結びつけられていた。
ちょっとこれを下りてみるか。
で、樹林の中を50mほど進んでみたが、西側に出られる気配が全くない。
それどころか、どう考えてもこれは道じゃない。道だったとしても間違いなく破線ルートだ。
やむなく引き返す。
再度、暗部の西側を見ると、もしかしたらこれが道なのか?という場所が見つかる。
下りてみると、どうやら道っぽい。
進んでいくと、すぐに道標が見えた。
よかった、これで無事下りられる!
12:31、黒金山へのルートと下山道との分岐点に到着。
喜んだのも束の間、この下山道が登りの道よりキツいかもしれない感じだった。
まずは、ほぼ崖のようなところを下り、
斜度40度ぐらいの斜面を、赤いテープの誘導だけを頼りに、足場を探しながら下り、
さらに、スラブ状の岩場を慎重に下りる。
このスラブが本当にイヤラシイところで、乾いているのに滑る。
しかも、40度ぐらいの斜度と一直線で凹凸の少ない岩で、コケたら遥か下まで転がっていってしまうのではないかという恐怖心が湧いてくる。
しかもものスラブ、逆層なのだ。
このスラブをなんとか切り抜け、風化しつつある節理などを横目に、土と岩の入り交じったキツイ斜面をさらに下る。
12:49、急斜面の途中でまたもやケルン。
このケルンを過ぎたあたりで、この下山道に入って初めて人と出会った。
僕と同じく乾徳山から下山する、年配の男性だった。
その男性は僕が挨拶をすると、
「あー、こっちに下りてきてたんだ。どこ行っちゃったかと思ったよ」
と言う。
聞くと、この年配の男性よりも先に僕は下山を開始していたらしい。
ところが、いつの間にか男性の前方から僕の姿は消え、どこに行ったのか分からなくなってしまったのだそうだ。
たしかに、このあたりの森は比較的見通しの効くので、急に消えるのはおかしいわけで。
その年配の男性が言うには、先週遭難騒ぎがあったそうで、山頂直下を東に下りてしまって進退極まっての遭難だったそうな。まさに僕が迷ったポイントだ。僕が同じように道に迷ってしまったのではないかと心配してくれていたそうだ。
やはり、迷いやすい場所というのは、迷うのは僕だけではないのだ。
男性に別れを告げ、先を急ぐ。
13:01、下山道唯一の鎖場にたどり着く。
その先は、斜面がだいぶ緩やかになり、いくらか走りやすくなる。
が、相変わらず足元は岩が多いので、油断できない。
13:15、高原ヒュッテに到着。
特に用事も無いので素通り。
13:17、国師ヶ原の分岐に到着。
ここから徳和方面に向かう。
国師ヶ原から下は、道もなだらかで気持ちよく走れるルートだ。
13:39、林道との交差の1回目。
林道を横切って、再び登山道を進む。
この後しばらくして、再度林道との交差点がある。
13:43、銀晶水に到着。
時期的なものか、それとも通年なのかは分からないが、水の出は非常に乏しく、チョロチョロだった。
13:55、急に登山道から岩が消えた。
これはもう登山口が近いのか?と思っていたら、13:56、登山口に到着。
ここからは林道歩きだ。
登山口には不思議な張り紙があった。
無視するのもなんだなぁ、とは思ったものの、登山口に着いた途端に便意がぶり返してきたので、100gの石を探す余裕も無く、そのまま素通りすることにした。
林道は、さすがに整地されて、斜面も緩やかだ。
コースタイム20分の道のりを、便意を我慢しながら歩く。
もう走ることはできない。
しばらく歩くと、林道の脇に作業着を着た年配の男性がチンマリと座り込んでいた。
男性は、野菜やキノコを売っているのだという。
その量たるや、1パックがスーパーのレジ袋のLLサイズぐらいある。
1人暮らしの僕ではとても消費しきれないので断ったが、なんとなく心温まる瞬間だった。
14:11、乾徳神社に到着。
お参りをして、山行の無事についてお礼を伝える。
その後すぐ、道がアスファルトになり、民家が現れ始めた。
しばらくトボトボと歩き、14:20、乾徳山登山口バス停に到着。
さっそく、バス停近くの公衆トイレに駆け込み、事なきを得た。本当に苦しい戦いだった(便意との)。
この便意との戦いや、道迷いによるタイムロスを考えれば、休憩込みで約5時間というのはまぁまぁのタイムではなかっただろうか。
バス停に置かれたソファに座り、コカ・コーラを飲みながらゆったりとバスを待つ。
次第に曇りゆく空を眺めつつ、この日の山行の幕を閉じた。
(了)
と、9:28、あっけなく尾根筋に出る。
この頃から、急に便意をもよおし始めた。
登山中のトラブルあるあるネタみたいな展開だ。
お腹が痛いわけではないのだが、それなりの切迫感だ。
といって、登山口バス停まで戻るのではタイムロスが激しすぎる。
9:29、地図に無い分岐が現れる。
右に行くと尾根には向かわず巻道なのかどうかも不明。
地形図には左の尾根道しか載っていない。
そもそも、巻道なんか通らないぞということで、迷わず左に進む。
えぐれた登山道が現れる。
土手のようになった両サイドの向こう側には何が居るのか分からないので、こういう地形は嫌いだ。
実際、南アルプスでクマに出会ったのもこういう地形の場所だし。
が、すぐにこういう地形は解消され、普通の尾根道となる。
9:39、また分岐が現れる。
今回もまた、右が巻道、左が尾根道で、尾根道の方しか地形図に載っていない。
巻道の偵察もしてみたかったが、なんせ便意に急き立てられているので、寄り道をしている余裕がない。
そのまま尾根道をたどる。
尾根道は、道満山のピークに近付くごとに段々岩っぽい感じの道になってくる。
けっこう急登だ。
とてもじゃないが、便意を抱えたまま走れるような道じゃない。
というか、便意を抱えていなくても走れなかったと思う。。。
急登を振り返ると、なかなかの充実感ではあるが、写真では再現性が低いなぁ。。。
ひたすら登っていくと、10時頃にはピークの気配がしてきた。
この、「あー、もうすぐピークだ」という風景が好き。
でも、いつも偽ピークに騙されて、その向こうにさらに登り斜面が続いていたりする。地図読みが甘いせいだ。
だが、今回は正解だったようだ。
10:03、道満山の山頂に到着。
なんも無い、誰もいない山頂。
かろうじて、標識と、
四等三角点があった。
特に何があるわけでもないので、先を急ぐ。
むしろ、様々な意味で、急がなくてはならない。
10:12、車が通れる林道が見えてきた。
実はこの少し手前で、猟銃を持ったオジサンに出会った。
どこから来たのかと思っていたが、ここからだったんだなー。
それにしても、この時期に猟ということは、害獣駆除の人なんだろうな。
きっとこのへんの動物にも詳しいに違いないと思って
「このへん、クマはいますか?」
と聞いてみたところ、
「ああ、いるんじゃない?」
と鼻で笑われる。
なぜ?!
これまで会ったハンターは、もうちょっと親切だったぞ。
で、そんな会話を交わした数十メートル先には、こんな看板が。
なんだよ! いるんじゃんかよ!
こっちはここまでの行程でこんな看板見なかったから聞いたのに。
林道との接点を通り過ぎ、斜面は再び急勾配の登りとなる。
その急斜面をつづら折り状に登山道が付けられている。
途中、あきらかに最近ほじくり返されたような箇所もあった。
クマか?イノシシか?
どんぐりもたくさん落ちているので、とても怖い。
道満山は、そこらじゅうにどんぐりが落ちていて、山全体がクマの食卓のようだ。
いつクマに出くわすか、気が気じゃない。
そうこうするうちに、登山道がさらに岩っぽくなってきた。
乾徳山の近くだけあって、やはり地質が岩っぽいのだろう。
10:28、大平との分岐に出る。
コースタイム的には、高原ヒュッテまであと20分。
あと20分すればこの便意から解放されるんだ!
気持ちは急くが、下腹部に力を入れないようにして歩くため、スピードは出なかった。
ここから扇平まで尾根沿いを直接向かうコースと、高原ヒュッテを経由するコースの分岐まで、尾根を直登する細い道と、蛇行する林道のような広い道とが交差している。
直登する道は、この時の僕にはつらすぎたので、蛇行する広くなだらかな道を歩く。
これが、パッと見は広く整地された道のように見えるが、浮石だらけで非常に歩きにくい。下手な岩場よりも足首がグネりそうになる。
しかも、1週間前の台風の影響か、倒木がやたらたくさんある。
登山道を塞ぐ倒木は奥秩父名物だとは思っていたけれど、こんな前衛の山までそれが徹底されているとは、侮りがたし奥秩父。
10:41、「関東の富士見百景」という看板が現れる。
だが、乾徳山は見えるものの、
富士山は見えなかった。
雲がなかったとしても見える気がしないのだが、どうなのだろう・・・?
ここからは、かなりなだらかな道が続く。
走りやすそうな道だが、お腹に爆弾を抱えた状態では走ることなど一切できない。
それでも、途中で見かけた鹿の親子は写真に収めた。
やっぱり鹿が多いんだろうなぁ。。。
そりゃ木の皮も剥がされるわ。
10:48、ついに国師ヶ原の分岐に到着。
もう高原ヒュッテは目と鼻の先。
きっとそこにはトイレがあって、この苦しみから僕を解き放ってくれるに違いない。
そしてついに、10:51、高原ヒュッテに到着。
あれ、、、、これ、廃屋じゃねーの・・・?
いや、無人小屋だろうが廃屋だろうが、トイレぐらいあるはず。
金峰山手前の大日小屋にだってトイレはあるんだから、ここに無いわけがない。
中に入ってみる。
が、トイレらしきものはない。
ははぁ、さては小屋の裏手にあるな。
裏に回る。
何も無い。
えー、そんなわけないだろ。
近くで休憩しているおじさんに聞いてみると、
「あー、トイレは無いみたいだねぇ」
という、絶望的な返答。
嗚呼、僕は選択ミスをしてしまったようだ。あの時、素直にスタート地点に戻っていればこんなことにはならなかったのに。。。
どこか物陰でしてしまおうかとキョロキョロするも、意外なぐらいに疎林で、どこに行っても丸見えだ。
きっと鹿が食っちゃったんだ。
鹿のバカ野郎。
そんなとき、さっきのオジサンが、
「ほら、鹿がいるよ」
と話を振ってきた。
ごめん、オジサン、今それどころじゃないんだ・・・。
鹿のバカ野郎。
もうこうなったら、このまま乾徳山に登ってやろう。
あとは野となれ山となれ。まさにこんなシチュエーションにぴったりの慣用句ではないか。
そう思った瞬間に便意が引いた。
なんだこりゃ。
あまり健康に良いとはいえないし、こうやって便意を我慢すると便秘の元になるのだが、引っ込んだものは仕方がない。
気を取り直して先を急ぐことにする。
ここまで時間を掛け過ぎた。
できることなら、13:38のバスに乗りたいのだが、かなり厳しい。
急いで国師ヶ原の分岐まで戻り、扇平を目指す。
道は岩が多め。
斜度はそれほどキツくなく、それなりのスピードが出せるが、僕の実力では早歩きが精一杯だった。
登山道脇には、小さなケルンが数多く積まれていた。
目印代わりなのか、戯れなのか分からないが、それほど重い意味は無いと思われるものの、剱岳手前で死者に捧げる系のケルンをいくつも見てきた直後だったので、ちょっとビビる。
11:08、樹林帯を抜け、草地に出る。
このあたりが扇平と言われる場所なのだろう。
扇平の分岐点には、まさに要石のように月見岩がドカンと鎮座している。
せっかくなので登ってみる。
ボルダリングジムの最低難度課題よりもさらに容易だ。
岩の上から見た南側。
蒸気が多いのか、遠くまではハッキリとは見通せない。
東側。
この登山道は、道満山への直接ルートだろう。
北西方面。
今日の目的地の乾徳山が見える。
北東方面。
空だけ。
ちなみに、僕が登った月見岩は、南側のアプローチこそボルダーっぽいけれど、北側に回ると三点支持の必要も無い程なだらかになっている。
11:18、扇平から再び樹林帯へ。
いよいよ乾徳山の核心部に入るということで、登山道も岩がゴロゴロになってきた。
トレランスタイルで来たものの、とても走れるような場所ではない。
11:32、いよいよ三点支持の必要な岩場が現れる。
これこれ! 今日はこれをしに来たのだ。
抜けると、西側の展望が開けていた。
ルートがどんどん岩っぽくなるのかと思ったら、
この先は土と根っこの急斜面。
この急斜面を登りきると、髭剃岩という岩が現れる。
さすがにこの隙間を行け、ということではなく、登山道は右手に向かっていた。
ちなみに、この隙間を無理やり抜けたところで、その先にあるのは崖だ。
11:39、こんなところをよじ登ると、
こんなすばらしい景色を得られた。
まだまだ上もある。
が、ルートは、この岩を登るのではなく、この岩を巻くようにいったんハシゴで下る。
このあたりからルートは次第に、岩の迷宮のようになってくる。
あっちに行け、こっちに行けという、岩に書かれた矢印や、枝に巻かれた赤いテープを頼りに歩く。
この、岩に書かれた矢印が、かなり風化して見づらくなっているのがワナなので、慎重にルートを見極めなければならない。
ところどころある岩の切れ目からは、
絶好の展望を得られる。
11:43、こんな鎖場を乗り越える。
上から見下ろすとこんな感じ。
そして、まだまだ岩場が続きそうな予感。
が、実際にはここから先は、山頂直下まで鎖場は無い。
11:45、巨大な岩と、お約束のように添えられた棒っきれ。
この先、迷路っぽさが増す。
11:48、道が急になだらかになり、岩が無くなった。
が、しかし、登山道を山頂方面に向かう途中、ところどころ絶壁の上に立てるルートへの横道が用意されている。
こういった場所からの眺めはまさに絶景で、東京から日帰りで登れる、たかだか2,000mの山とは思えない程の気持ちよさだ。
こういった場所では、少人数ならば休憩をするのにもってこいなスペースもあり、ランチをとるなら山頂よりもこちらのほうがオススメだ。
山頂直下の断崖絶壁も眺め放題。
山頂も見える。
この周辺を見る限り、岩もしっかりしているし、斜度も緩いし、初心者向けのクライミングルートとして良いのではないかと思うのだが、実際のところはどうなのだろう?
と思って、帰宅後調べてみたところ、中央岩稜と呼ばれる場所が比較的よく登られるようで。
(具体的にはこちらのブログに詳しいです。)
シングルピッチならトップロープでソロでやっちゃえる気もするが、マルチピッチはなぁ。。。
やっぱりクライミングをやるには、ソロでは限界があるなぁと痛感。
11:56、山頂直下の鎖場に到着。今日一番のアドレナリン放出ポイントだ。
岩の高さは10m以上はあろうか。
斜度は50~60度程度なので、大したことはない。
程よくクラックも入っており、鎖を使わなくても、手や足の置き場に困ることは無かった。
ボルダリングジムで、「次は水色の9だな」などとコツコツ課題を練習するよりも、こういうところを登っている方がやっぱり楽しいものだ。
だが、ボルダリングを下手なりにコツコツ練習しているからこそ、こういう場所で体が動くのだろう。
練習って大事。
この鎖場を上がると、目の前が山頂だ。
12:00、山頂に到着。
山頂からは360度ビュー。遮るものは何も無い。
久しぶりに甲武信ヶ岳の姿も拝めた。
残念だったのは、山頂に羽虫がやたらと多く、落ち着いてノンビリしにくかったこと。
ハエかと思ったら、でかい羽アリのような虫で、なぜこんな岩場に居るのかよく分からない。
それらの虫を追い払いながら、持参したおにぎりとクリームパンを食べる。
便意はもうどこかに去っていた。
景色の良い山頂には名残惜しいが、山頂滞在時間15分で下山しはじめる。
下山は、「山と高原地図」に「下山道」と書かれているルートを使うことにした。
まずは山頂の北側を下りる。
山頂直下の短いハシゴと、
長いはしご。
その先には鎖。
この鎖を降りたところまではルートがはっきり分かるのだが、この先のルートが分かりにくい。
森に入るのか、岩を進むのか。
地形図を見る。
「乾徳山」の表記が2016ピークの方に書いてあるので紛らわしいが、乾徳山のピークは2031のほうだ。
地形図によれば、崖に沿って山頂から北上し、崖を突っ切って西に下りる道があるはずだ。
その道は鞍部から出ているのだが、現場に立ってみるとイマイチどこが入口なのかよく分からない。
岩を進んでみたが、どう考えても一般ルートじゃないだろ、という感じだし、このままでは2016ピークに向かって上がってしまう。
地形から考えても、次のピークに行く前に西側の斜面を下りるはずなのだ。
うーむ、入口はどこなのだ。
もしかしたら、いったん稜線の東に出て、岩の隙間を通って西に出るのかもしれない。
見ると、たしかに東側へ下りる踏み跡もあるし、入口には意味ありげなタオルが結びつけられていた。
ちょっとこれを下りてみるか。
で、樹林の中を50mほど進んでみたが、西側に出られる気配が全くない。
それどころか、どう考えてもこれは道じゃない。道だったとしても間違いなく破線ルートだ。
やむなく引き返す。
再度、暗部の西側を見ると、もしかしたらこれが道なのか?という場所が見つかる。
下りてみると、どうやら道っぽい。
進んでいくと、すぐに道標が見えた。
よかった、これで無事下りられる!
12:31、黒金山へのルートと下山道との分岐点に到着。
喜んだのも束の間、この下山道が登りの道よりキツいかもしれない感じだった。
まずは、ほぼ崖のようなところを下り、
斜度40度ぐらいの斜面を、赤いテープの誘導だけを頼りに、足場を探しながら下り、
さらに、スラブ状の岩場を慎重に下りる。
このスラブが本当にイヤラシイところで、乾いているのに滑る。
しかも、40度ぐらいの斜度と一直線で凹凸の少ない岩で、コケたら遥か下まで転がっていってしまうのではないかという恐怖心が湧いてくる。
しかもものスラブ、逆層なのだ。
このスラブをなんとか切り抜け、風化しつつある節理などを横目に、土と岩の入り交じったキツイ斜面をさらに下る。
12:49、急斜面の途中でまたもやケルン。
このケルンを過ぎたあたりで、この下山道に入って初めて人と出会った。
僕と同じく乾徳山から下山する、年配の男性だった。
その男性は僕が挨拶をすると、
「あー、こっちに下りてきてたんだ。どこ行っちゃったかと思ったよ」
と言う。
聞くと、この年配の男性よりも先に僕は下山を開始していたらしい。
ところが、いつの間にか男性の前方から僕の姿は消え、どこに行ったのか分からなくなってしまったのだそうだ。
たしかに、このあたりの森は比較的見通しの効くので、急に消えるのはおかしいわけで。
その年配の男性が言うには、先週遭難騒ぎがあったそうで、山頂直下を東に下りてしまって進退極まっての遭難だったそうな。まさに僕が迷ったポイントだ。僕が同じように道に迷ってしまったのではないかと心配してくれていたそうだ。
やはり、迷いやすい場所というのは、迷うのは僕だけではないのだ。
男性に別れを告げ、先を急ぐ。
13:01、下山道唯一の鎖場にたどり着く。
その先は、斜面がだいぶ緩やかになり、いくらか走りやすくなる。
が、相変わらず足元は岩が多いので、油断できない。
13:15、高原ヒュッテに到着。
特に用事も無いので素通り。
13:17、国師ヶ原の分岐に到着。
ここから徳和方面に向かう。
国師ヶ原から下は、道もなだらかで気持ちよく走れるルートだ。
13:39、林道との交差の1回目。
林道を横切って、再び登山道を進む。
この後しばらくして、再度林道との交差点がある。
13:43、銀晶水に到着。
時期的なものか、それとも通年なのかは分からないが、水の出は非常に乏しく、チョロチョロだった。
13:55、急に登山道から岩が消えた。
これはもう登山口が近いのか?と思っていたら、13:56、登山口に到着。
ここからは林道歩きだ。
登山口には不思議な張り紙があった。
無視するのもなんだなぁ、とは思ったものの、登山口に着いた途端に便意がぶり返してきたので、100gの石を探す余裕も無く、そのまま素通りすることにした。
林道は、さすがに整地されて、斜面も緩やかだ。
コースタイム20分の道のりを、便意を我慢しながら歩く。
もう走ることはできない。
しばらく歩くと、林道の脇に作業着を着た年配の男性がチンマリと座り込んでいた。
男性は、野菜やキノコを売っているのだという。
その量たるや、1パックがスーパーのレジ袋のLLサイズぐらいある。
1人暮らしの僕ではとても消費しきれないので断ったが、なんとなく心温まる瞬間だった。
14:11、乾徳神社に到着。
お参りをして、山行の無事についてお礼を伝える。
その後すぐ、道がアスファルトになり、民家が現れ始めた。
しばらくトボトボと歩き、14:20、乾徳山登山口バス停に到着。
さっそく、バス停近くの公衆トイレに駆け込み、事なきを得た。本当に苦しい戦いだった(便意との)。
この便意との戦いや、道迷いによるタイムロスを考えれば、休憩込みで約5時間というのはまぁまぁのタイムではなかっただろうか。
バス停に置かれたソファに座り、コカ・コーラを飲みながらゆったりとバスを待つ。
次第に曇りゆく空を眺めつつ、この日の山行の幕を閉じた。
(了)
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