(←「【2日目 その1】 金峰山編」へ)
金峰山の山頂を後にして、早く大弛小屋に向かわねば。
とはいえ、ここに来るまでにすれ違った人が、「トレースを追ったけど、ルートが分からなくなって引き返してきた」と言っていたので、トレースを過信してはいけない。ということは、ルートファインディングしながら歩かなくてはならないため、より時間がかかることを覚悟しなければならないだろう。
金峰山山頂のすぐ東側は石ばかりの広い広い尾根なのだが、全部雪に覆われてしまっていて、次のピークである鉄山への登山道を見て取ることはできない。
トレースは二手に分かれているが、どっちだろう?
あ、道標がある!!
いったん道標に向かっているトレースを追ってみる。
尾根をどんどん下っていく。
正午を過ぎたので、いいかげん雪がグズグズになってて、滑るように下る。
グングン下る。
あれ?!
いつの間にか、視界から鉄山や朝日岳が消えた!
12:20、尾根を間違えたことに気付く。
地形図を再確認したところ、違う支尾根を下っていたことが判明した。
急いで登り返す。
すでにグズグズの雪なので、非常に登りにくい。
先が思いやられる。
やっぱりトレースをアテにしちゃイカンと思い直し、鉄山と朝日岳が目視確認できる位置まで登り返した時点で、改めて地形図を確認。一昨年に通ったときの記憶とも照合して、下れそうなところをウロウロする。
ということで、トレースの無い樹林帯に突撃。
目指すは鉄山。
天気は曇りだったが視界は良好だったのが幸いして、目指す方角だけは見失わなくて済んだ。
地図とコンパスと鉄山のピークを見比べながら、ツボ足で進む。
アドレナリン出まくり。
トレースが無いのも気にせず、バンバン進む。
10歩に1回は、股までハマるツボ足になるが、気にせず歩く。
お! トレースに合流!
このトレースは信用できそうなので、しばらく辿ってみることにした。
すると、後ろから自分より少し年上な感じの男女の2人パーティが追いついてきた。
うーん、このトレースが正しいかどうか僕も自信が無いので、間違っていたとしても勘弁してくださいね、と心の中でつぶやきながら歩く。
トレースはあるものの、歩幅が合わないので結局自分でツボ足をつけながら歩かざるを得ない。
足跡から見ると、先行しているのは多くて3~4人(たぶん)。
やはり、この時期にこんなところを歩く人は少ないんだろう。
途中で、木に打ち付けられた黄色い矢印が道標であることに気付いた。
すごい安心感。これで道迷いの心配が霧散した。
13:50、鉄山と朝日岳の間の最鞍部に到着。
正午に山頂を出発して、すでに2時間近く経過してしまった。
無雪期のコースタイムなら、せいぜい30~40分の行程だ。
道間違いで30分近くロスしたにしても、ペースが遅すぎる・・・。
このペースでいくと、大弛小屋到着が16時を回ってしまう。下手したら17時以降になってしまうかもしれない。
日暮れまでに到着できるのだろうか。
ペースを上げたいのだが、荷物が肩に食い込んでしんどい・・・。
とにかく歩き続けるしかない。
鞍部から朝日岳までの登りは、途中まではとてもなだらかだが、最後の最後ですさまじい急登になる。
黙々と歩き続け、いよいよ朝日岳の急登が目前に迫ってきた。
逆モヒカンのように真ん中だけ樹木が無くて白くなっているのが登山道。
あそこはハンパなく急登で、夏でも怖い道なので、覚悟していかなくてはいけない。
この10分後には急斜面に取り付くが、場所によっては急斜面過ぎて、まるで岩登りをしているかのような角度。体を支えるのはグズグズの雪だけという状態。
ともすれば荷物の重みに引っ張られて背中側に重心を持っていかれそうになる。
もう、マジで勘弁してくれと思いながら、斜面につま先を蹴り込み、手刀を雪面に突き刺しながら体を確保して、なんとか登っていく。
背中の重みに引っ張られて落ちたら、並みの斜面ならザックの上に乗った状態で滑り落ちるんだろうけど、この斜面では多分、大車輪状態で落ちていくことになるんだろうな、と。
投げっぱなしジャーマンより怖えぇぇ。。。
14:54、なんとか登りきって朝日岳山頂到着。
来し方を見ると、金峰山の五丈岩がはっきり見えた。
上の画像左下、ここから登ってきた。ほとんど崖みたいなものである。
ここから大弛小屋までは、無雪期のコースタイムで1時間程度。
あとは大きな登りは無い(ちょっとした登りはあるが)ので、1時間半見ておけば到着できるかなー、などと思っていたが、時間の読みが甘かったことを後で思い知る。
(地形の読みが正しかったのだけが、かろうじて自尊心の支えだ・・・。)
16:00、朝日峠到着。
おかしい・・・。無雪期コースタイムで30分のところを、1時間以上かかっている。。。
いよいよ「日没」の2文字が迫ってきた。
とりあえず、朝日岳の山頂を通過したあとで僕を追い抜いていった人には、「暗くなったらビバークする」と伝えたので、遭難騒ぎになることはあるまい。
ただ、ビバークするには持っている水の残量が不安だ。この時期の雪を解かしても、ゴミが多そうでイヤだなぁ、と。
とにかく行けるところまで行こうと決める。
ところで、このあたりは立ち枯れした樹木が非常に多い。
鹿か? 鹿の食害なのか?
そんな立ち枯れ地帯を通り抜け、黙々と歩き続ける。
いや、「黙々と」ではない。「重い荷物とグズグズの雪に対する呪いの言葉をブツブツと吐きながら」である。
3歩進んではよろけ、5歩進んではツボり、10歩進んではコケるという体たらく。
まさかこんなに手こずるとは思わなかった。せめて、ストックのスノーバケットを忘れていなければ、ここまでヒドイ思いをしなくて済んだだろうに。。。
それでも一歩一歩前進すれば、それだけ目的地に近づくもので、17時過ぎにはついに目の前が開け、大弛峠に至った。
大弛峠にある、金峰山への道標。
道標によると、金峰山まで3.6km。
そうか、オレはたった3.6kmを歩くのに、5時間以上かかったのか。。。
大弛峠の川上牧丘林道沿いに立つ道標。
大弛小屋は、金峰山方面から川上牧丘林道を渡って、テント場を抜けてほんのちょっと入ったところに建っている。
大弛小屋のテント場。
4~5張のテントが既にあった。
本当は僕もここにテント泊するつもりだったが、すでに17時を過ぎ、とても今から雪上幕営する気力など無い。
予約はしていないが、小屋に泊めてもらおう。
登山でこんな打ちのめされた気分になったのは初めてだ。
17:14、大弛小屋到着。
ご主人に宿泊したい旨を伝えたところ、快くOKしてくれた。
ご主人といっても、僕と同年輩か、もしかしたらけっこう年下かもしれない。
そのご主人が僕の荷物の大きさを見て、引いていた。
あー、自分で歩荷とかやっちゃうような人から見ても、ちょっと荷物が多すぎるんだなー。。。
小屋の泊り客は、僕の他には2名、途中で先行した男女2人パーティだけだった。
「なんだー、あんまり遅いからビバークしてんのかと思ったー。笑」
という言葉で歓迎を受ける。
うん、実際ビバークも覚悟しましたよ・・・。
とにかく、日没前に辿り着けて本当に良かった。
この日の夜は手持ちの食料を食べ、小屋の暖かい布団で熟睡した。
もう翌日のことは一切考えずに。
(つづく)
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