このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2014年10月2日木曜日

山行記 : 2014年9月27日~ 奥多摩テント泊縦走 1日目 鴨沢~奥多摩小屋テント場 (あるいは、山での読書について)



(この記事は「計画概要」の続きです。)


山の朝は早い。
でも、この日の朝は遅めに設定した。

ここ最近の業務繁多に加えて、前日に仕事関連の飲み会があって、いつもの山のようには出発できそうになかったからだ。

そんなわけで、新宿発8:44のホリデー快速おくたまに乗る。
もっと混んでいるかと思ったら、新宿を出た時点では空席もある程。
だが、中野駅で乗り込んできた乗客で、空席は完全に無くなった。

奥多摩駅に到着後、下山後の着替えだけコインロッカーに預けてバスに乗り込む。
バスは定刻どおり、10:30に出発した。
登山としてはかなり遅い出発なので、バスの中は登山者風と観光客風が半々の割合。車内はかなりの混雑だ。

11時過ぎに、鴨沢バス停に到着。
我々を含め10人程度の乗客が降りた。
人数が少ないのは、やはり雲取山まで行くには出発時間が遅いからだろう。
我々はコースタイムの七掛け程度の所要時間を想定していたので、15時には雲取山荘に到着できる予定ではあるのだが。

鴨沢バス停の横には、食堂がオープンしていた。
下山後にネットで調べてみたら、今年7月にオープンしたばかりのようで。
去年6月に来た時には、この近くの商店も店閉いしていた様子だったので、バスが来るまでの補給は自販機に頼るしかなかったのだが、こんなお店ができたのであれば鴨沢に下山するのも悪くない。

11:20、鴨沢バス停を出発。
はじめは舗装路を上がる。
小袖の登山口までは、ウォーミングアップを兼ねてコースタイム程度のスピードで歩く。
今回は連れにルートファインディング(というほどのルートでもないが・・・)とペース配分を任せてみた。これまでは、僕がペースコントロールやルートファインディングをして山に連れて行っていたので、そろそろそのへんも実地に学んでもらおうかと。
途中で、読図の練習なども入れつつの山行にする予定である。

空はこの上ないほどの秋晴れ。
このまま保ってくれれば、石尾根からの景色もさぞや美しいことだろう。

11:49、登山口に到着。
ちょうど下山してきたソロの年配の女性と出会う。
女性からは
「今から雲取?! えらい混んでるよ。100人ぐらいすれ違ったもの。」
という、ありがたい情報をいただく。

そう、雲取山、というか雲取山荘は、真夏以外は常に混むのだ。
昨年6月、今にも降り出しそうな曇天模様の日に登った時でさえ、テント場は非常に混雑し、急斜面やら登山道やらにまでテントが張られていたほどだ。(参照
果たして、我々のテントは張れるのだろうか。


さあ、ここからはコースタイムの七掛け程度のスピードで早歩きをすることにする。
残念ながら、僕は今年に入ってからの不調により、とても走る気にはならない。
前を行く連れのペース配分に対して、たまに声をかけながら、計画書にあらかじめ書いておいたチェックポイントの到着時刻と照らし合わせつつ歩く。

堂所までの道は相変わらずだが、秋晴れの爽やかな空気の中で歩くと、非常に気分が良い。

12:01、廃屋の前を通過。
初めて見たときよりも、だいぶ朽ちてきたなぁ。

12:31、水場。

それを過ぎると、次第に周辺には広葉樹が増えてくる。
こうなってくる、俄然気持ちが上向いてくる。

12:50、堂所に到着。

ここからしばらく、木漏れ日の眩しい尾根道。

13:15、七ツ石小屋への分岐。
七ツ石小屋へのルートは斜面がキツいので、巻道へ向かう。
が、こちらも地味にキツい上りがつづく。

13:27、七ツ石小屋への2回目の分岐。
ちょっと前まで、七ツ石小屋に促す看板がやたら立っていたイメージだったのだが、そういう看板が見当たらなかった。

崩れた谷を通る木道も真新しい。

道端にはトリカブトの花。
9月だなぁという感慨が湧いてくる。

巻道はまだまだつづく。

13:42、道から少し入ったところに、作業小屋のようなものを見かけた。
何の小屋なのかは確認せず。

13:47、七ツ石小屋への3回目の分岐。
ここまで来れば、ブナ坂はもうすぐだ。

13:55、ブナ坂に到着。
ブナ坂から見た七ツ石山方面。
同じく、奥多摩小屋方面。
どっちも奥多摩らしい穏やかな尾根道だ。

が、石尾根に出る頃から、空に雲が多くなってきた。
うーん、天気は保つのだろうか。。。

石尾根のマルバダケブキ地帯まで来ると、黄色い花が咲いていた。(枯れかけだったが。)
マルバダケブキってこんな花を咲かせるんだ・・・。デカいな。。。

ナナカマドの実は真っ赤。葉もだいぶ色付いてきていた。

14:11、セクシーな木。
今年もこの木を見ることができた。
なんだかホッとする。

ここまで来ると、石尾根からの風景は劇的に素晴らしくなる。
が、雲がかかっていて富士山は見えない。
昼までの好天が嘘のようだ。。。

14:24、ヘリポートが見えてきた。
見ると、テントは張られていない。

本当はこのヘリコプターはテント設営禁止なのだが、奥多摩小屋のテント場がいっぱいになると、ここまで流れてくる人がけっこういるのだ。
逆に言えば、ここにテントが張られていないということは、まだ奥多摩小屋のテント場には余裕があるということ。

ヘリポートを過ぎ、テント場が見えてくると、それがハッキリした。
けっこう良さそうな場所が空いている。

ここで相棒と思案した。
このまま雲取山荘まで行くべきか。それとも、この良さそうな場所にテントを張ってしまうか。

正直なところ、このまま雲取山荘まで行ってもテント場に空きがあるか非常に心もとない。
加えて、雲取山荘のテント場がそれほど整備されているということもなく、また、テント場からの眺望も全く無い。
一方、奥多摩小屋のテント場は眺望も素晴らしく、個人的には奥多摩・奥秩父界隈では一番のテント場ではないかと思っている。
このため、奥多摩小屋テント泊にどうしても心が傾いてしまう。

だが、明日、本当に長沢背稜に行くのならば、奥多摩小屋のテント場に停滞するわけにはいかない。今日のうちに雲取山荘まで行っておきたい。

2人で思案した結果、「ストイック」とは真逆の結論に達した。

  • 今晩は奥多摩小屋のテント場泊
  • テント設営後に空身で雲取山に登り、そのまま雲取山荘に行く。
  • 雲取山荘で明日の飲み水を購入し、カップラーメンを食う。
  • 巻道を辿って奥多摩小屋へ。
  • 奥多摩小屋でビールを買って、テントに戻る。
  • 明日は石尾根を伝って鷹ノ巣山まで行き、稲村岩尾根を降りて東日原に下山する。
という、完全にスケールダウンした内容となった。
そうと決めたら、奥多摩小屋でテント泊の受付をさっさと済ませる。
お誂え向けに、奥多摩小屋では缶ビールだけは売っていた。(他は何も売っていない。)
テント場の使用料を払い、テントを張る。
石ころだらけなのが気になるが、快適な立地条件ではある。
これが、登山道の東側の樹林地帯にテントを張ると、ハサミムシなどが多くて少々閉口するのだ。

と、そうこうするうち、急にガスってきた。
これでは山頂に行っても残念なだけなので、この日は山頂に行くことすら止めた。
カップラーメンは残念だが、諦めることにした。
代わりにコーヒーを飲む。

まずは水場に行ってコーヒー用の水を用意する。
水場への道はやや急斜面ではあるものの、歩きにくくはない。

水場到着。片道5分ということだが、もう少し近いかもしれない。

戻って、コーヒーを沸かす。
お湯を沸かすのはチタンのマグカップで十分。煮炊きするのではないのでコッヘルは不要。
連れはコーヒーが苦手だそうで、フリーズドライの味噌汁を持ってきていた。こちらも同様に、カップ(シェラカップだったが)で湯を沸かしていた。

温かいものを飲むと人心地がついた。
コーヒーを飲みながら、ナッツバーを食う。これが食事。
まだ時刻は16時ぐらい。

今度は奥多摩小屋でビールを買い、飲み始めた。

飲みながら登山道を見るともなしに見ていると、登山口付近で見かけた人たちが通っていく。
祖父、父、子の男3人での家族登山風や、大きな荷物を背負ったカップル、19人の年配男女のパーティなど。
19人の年配男女が奥多摩小屋に到着したのは17時近くなっていたが、それでも、山頂方面に向かって歩いて行った。今夜は雲取山荘泊なのだろうけれど、巻道を通ってもあのペースでは到着が18時を過ぎるのは目に見えている。このガスの中、大丈夫なのだろうか。

17時をすぎたあたりから、連れがウツラウツラし始めたので、テント内に撤収。
爆睡する連れを横目に読書にいそしもうとしたが3ページで撃沈。

19時頃に目が覚めると、さっきまで空き地だったところにテントが立ったようで、男女2名ずつのパーティの話し声が聞こえてくる。
随分遅い到着だったようで、いまから夕飯のようだ。
会話の内容を聞きたいわけでもないのだが、声を潜めるでもなく話しているわけで、否応なしに耳に入ってくる。おかげで、年齢、職業、夕飯の献立まで把握できてしまった。
テント場では個人情報に気を付けないとだね!

目が覚めてからは、再び読書に勤しみ、文庫本をほぼ読了。
今回は塩野七生『海の都の物語』文庫版の第3巻だ。
塩野七生の作品はテント場での読書に非常にマッチする。

山の夜は暇なので、登山の時は1泊につき1冊の本を持っていくようにしているのだが、この本選びがなかなかに難しい。
いろいろなジャンルを試してみた中で、最悪なのがビジネス書や経済書、法学書など、社会科学系の本だ。読もうと思っても全く頭に入ってこない。

次いで、社会問題を扱ったノンフィクション。これは、頭には入ってくるものの、気持ちが暗くなるので、せっかくの山の夜を楽しめなくなる。

また、熊の生態を追った動物学の本や、怪談本などは決して読んではいけない。
うっかり読んでしまうと、そのあと、ちょっとした物音にもビクビクすることになる。

山について書いた本も、山にいるときは意外と頭に入ってこない。
目の前の山のことで頭がいっぱいな時に、別な山の情報を入れようと思ってもなかなか集中出来ないものだ。

文学に関しても、けっこう当たり外れがある。
昭和初期の陰気臭い自堕落で退廃的な作品も悪くないが、やや気力を吸い取られるので注意が必要だ。
去年、山で堀辰雄と坂口安吾と梶井基次郎を読んだが、なんだかとても疲れた。

文学といえば、好みの問題はあるだろうけれど、意外と合うなぁと思ったのが村上春樹だった。
村上春樹のモチーフは、より深いところ深いところ(「井戸」として表現されることもしばしば)へと降りていくものが多いのだが、その感じが、シンと静まり返ったテント場の空気感と良くマッチする。
ただ、読書に集中しすぎて、寝付くのが遅くなってしまうというデメリットもある。

僕個人のオススメは、歴史系の本だ。
塩野七生の作品もその系統に属する。
時の流れに思いを馳せながら、その時代からここに存在するであろう山や谷の気配を感じるというのは悪くないものだ。

閑話休題。

そうして本を読み終わる頃、テントのフライシートを叩く微かな雨音が聞こえるようになってきた。
なんだよ、今日は雨の予報なんか出てなかったぞ。

21時頃、明朝の天気を心配しながら本を閉じ、就寝。






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