長いばかりで決して難易度が高いわけでもない大峰奥駈道に失敗するなど、「趣味:登山」などと恥ずかしくて言えたものではない。
できればしばらく山には行かず、積読になっている大量の書籍を読んでしまいたいとも思っていた。できることなら、山にも仕事にも行かず部屋に引きこもって、1ヶ月間ぐらい読書しかしない生活を送りたいとすら思っていた。
不惑を過ぎた男が惑いまくりである。
が、5月17日には、初心者の40代男性を登山に連れて行く約束をしていた。
彼と知り合ったのは昨年の夏なのだが、僕が登山をやっていることを知ると、
「NHKドラマの『坂の上の雲』のエンディングで流れていた、あの山に行きたい。」
と言い出したのだ。
僕はそのドラマを見たことがなかったのだが、調べてみるとその風景は小蓮華山から白馬岳に向かう稜線のようだ。
そこで、連れて行くことを安請け合いしてしまったのが昨年の秋ごろ。
5月17日はその彼のトレーニング山行の第一回なのだ。
40代で、普段あまり運動もしている様子が無く、登山も全くの初めてという人に対して、一番最初はどの程度のコースを組めばいいのだろうか。
せいぜいコースタイム3~4時間程度で、あまり勾配がキツくなく、それでいて歩いていて楽しいコース。
しかも、万が一の場合のエスケープも楽な状態にしておきたい。
うーむ。
失意の真っ只中にいる僕には、全くコースに関するインスピレーションが沸かなかった。
山のことを考えようとしても、頭が働かなかったのである。
結局、コースを決めたのは出発の2日前。
一ノ尾尾根から陣場山に登り、陣場高原下バス停を目指して北東斜面を降りるというルート。
これならば、アプローチも楽だし、陣場山山頂までの状況を見て、北東斜面をやめて和田峠に降りる選択をすればエスケープ手段も確保できる。
しかも、山頂からの眺めも良いし、茶屋もある。
これなら、中高年の初めての登山にもピッタリである。
そんなわけで、当日。
JR藤野駅から陣場山登山口までタクシーで移動。
途中、何組かの登山者が路上を歩いているのを見かけたので、この程度はみんな歩くものなのかもしれない。
9:34、陣場山登山口に到着。
連れに登山靴の履き方を教えながら、身支度を整える。
最初はしばらくアスファルト歩きだ。
次第に道は、山の中へと入っていく。
道の脇に伸びすぎたタケノコが散見されるようになったころ、
いろんな意味で脆弱な道標が現れる。
9:52、分岐が現れ、左に行けとのこと。
しばらくは「登山道」というよりも「逍遥道」といった感じ。
たまに現れる、「登山道」という面構えの場所。
連れは早くも息が上がる。
ダラダラと緩やかに上る斜面。
広葉樹の新緑も多く、非常に気持ちが良い。
ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
大峰奥駈道と大違いだ。
なんだか、初めて登山をしたときのような、初期衝動というか、原体験というか、山に対するそういったポジティブな感覚が体の隅々まで戻ってくるのを感じる。
10:05、上沢井への道との分岐点が現れる。
新緑に気を取られすぎて足元がおろそかになるが、非常によく整備され踏み固められた道なので、つまづく心配も少ない。
コナラかな?
10:15、地図に無い分岐が現れる。
道標には「ふじの北小前バス停 20分」と書いてある。
ますます濃くなる新緑のトンネル。
つくづく気持ちが良い。
ルート上には、ところどころでベンチが用意されている。
10:46、和田へ降りる分岐が現れる。
ところどころで針葉樹林も現れ、根っこ道になる。
道端の花の名前は分からず。
11:00、急に道幅が狭くなり、ブッシュが迫ってきていた。
ものすごい草いきれを感じる。
11:03、分岐が現れた。
この分岐の先も、ブッシュが生い茂っていた。
11:15、階段が現れた。
きっとこの階段を登りきると山頂だろう。
登る登る。
当然、連れのペースが極端に落ちた。
開けた場所に出たと思ったら、茶屋が見えた。
11:20、清水茶屋に到着。
いったん茶屋をスルーして、11:22、陣場山の山頂に到着。
すごい混みよう。
生藤山や権現山方面の眺望がすばらしい。
信玄茶屋に降りて、ランチにする。
持参したおにぎりの他に、この界隈の名物なめこ汁と
ゆずシャーベット。
茶屋の席からの景色もすばらしい。
約1時間ほどのんびりして、12:20、下山開始。
木々の間から下界が見える。
北東斜面の入り口は、なだらかなトラバース。
が、次第に斜度が大きくなってくる。
大きなツヅジの木が、花を満開に咲かせていた。
下山を開始してまだ間が無いのに、連れが早くも「膝が痛い」と言い始める。
本人が言うには、過去に膝を痛めたせいだとのことだが、話をよくよく聞くと、単に筋肉が無さ過ぎるせいではないかと思う。痛む位置を考えてみても、体幹と内転筋を鍛えるようにお願いしつつ、とりあえず今のところはトレッキングポールを貸し与えて、それで乗り切ってもらうことにする。
12:32、分岐を通過。
100mほど進むと、また分岐が現れる。
ここからは、いよいよ針葉樹林帯。
斜面もややキツくなる。
一帯のスギの木には、「又」の時が。
方々の山で、木の幹に一文字(ほとんどの場合は漢字)が書かれているのは、なんの目印なのだろうか。
延々と下る。
12:54、地図に無い分岐が現れる。
道は思ったよりも険しい。
連れは痛みにあえぎながら歩いている。
ここまで来たらエスケープのしようもないし、もうすぐでアスファルトの道に出るので、そこまで辛抱してもらうしかない。
13:13、登ってきた登山者のうちの1人が悲鳴を上げた。
何事かと思ったら、かわいらしい蛇だった。
ジムグリの子供かな?
13:17、沢に至る。
沢沿いの道を行くと、
すぐに沢を渡る橋が現れた。
引き続き沢沿いを歩き、
13:23、アスファルトの道に合流。
13:42、陣場高原下バス停に到着。
バスが来るまでしばらく時間があるため、バス停近くのそば屋で時間をつぶす。
とりあえず、連れは、白馬云々のレベルではなく、かなりトレーニングを要することを理解してくれたようだ。
今回の収穫は、なによりそこに尽きる。
僕にとっての収穫は、やはり馴染みの山はホッとするということを再確認できたということだ。
今後も登山を続けていけそうな気がする。
まさに心のリハビリとなった。
(了)
0 件のコメント:
コメントを投稿