このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2014年9月20日土曜日

山行記 : 2014年9月13日~ 剱岳リベンジ 2日目 登頂!



(この記事は「1日目 剱沢キャンプ場まで」の続きです。)


山の朝は早い。

特に、剱岳の別山尾根のように激しい渋滞が予想されるようなルートでは、できるだけ早く出発して他者に先んじ、渋滞を回避することが肝要である。

だからといって早ければ良いというものでもない。
暗い中を歩くのは、やはり一定の危険を伴う行為ではあるので、果たしてその折り合いをどうつけるかが勝負となる。

そこで我々は、日が昇る前の朝5時にテント場を出発することにした。
そうすれば、少なくとも剱澤小屋や剣山荘に泊まっているツアーの団体客には先んじることができるだろうという読みだ。
逆に、それより早いと足元が見えにくく危険と判断した。


朝3時半、シュラフから這い出してテントを出ると、そこは満天の星空だった。
月明かりに浮かび上がる黒々とした剱岳のシルエットが、嫌が応にも僕達の心を煽る。
その剱岳には、早くもヘッドライトの行列が。
いったい何時に出たんだ・・・。

そんな様子を横目でチラチラ見つつ、寒さに震えながらお湯を沸かし、飯を無理矢理胃袋に詰め込む。

出発前にフライシートに付いた水滴を払っておこうかと思い、素手でフライシートの表面を撫でてみると、大量の突起物がザラザラと手に触れた。
びっくりしてよく見てみると、それは水滴ではなく氷の粒だった。
夜中に降った雨が凍ってしまったのだろう。
完全に氷点下である。
まだ9月中旬なのに。。。


そうこうするうちに、空が少しづつ白んできた。
そして、5:07、ついに我々は剱岳の山頂に向かって歩き始めた。

空にはほとんど雲が無く、この上ない晴天。風もほぼ無く、剱岳に登るのにこれほどまでのコンディションはそうそう望めないような天候である。
この時のために、1年半前から面倒なトレーニング山行を企画し、メンバーを育てて来たのだ。心ゆくまで堪能しようじゃないか。


次第に白んでくる空は、刻々と剱岳の表情を変えていった。

後立山方面の空が、オレンジ色を帯びてくる。

その光が当たる場所は、明るくなるのも早い。
剣山荘は早くも朝のたたずまいだ。

一方、剱御前は先っぽのほうがモルゲンロート。

秒単位で変わる空模様。

5:35、剣山荘に到着。

剣御前の上には月がかかっていた。

剣山荘を通過し、一服剱を目指す。

5:40、いよいよ日の出だ。

剣御前も全体が赤く染まる。

別山の影になって、剱澤小屋やテント場には、まだ陽は当たらない。

5:46、このルート最初の鎖場に差し掛かる。
全くもって大した鎖場ではないのだが、さっそく詰まる。
これではこの先が思いやられる。

すでにエラい人口密度だ。これだから混む山に混むタイミングで来るのはイヤなのだ。

稜線に出ると、前剱の先っぽが見えた。

5:53、2つめの鎖場。

5:58、一服剱に到着。

ここまで来ると、富山湾を一望できる。

一服する間もなく、目の前の前剱に向かって歩き出す。

去年は一服剱までだったので、ここから先は我々にとって未知の世界だった。
意外にも一服剱の北側斜面(前剱に向かって下る斜面)には草花の生い茂っていた。

初秋を感じさせるトリカブト。

アザミ。

野イチゴ。

草花を愛でながら、武蔵のコルに降りる。

コルから一服剱を振り返ると、意外と穏やかな顔つき。

前剱への上りに差し掛かるところには、浮石や落石に対する注意喚起のプレートが設置されていた。
実際、けっこう浮いてる石が多くて、足の置き場には慎重にならざるを得ない。

こうして急登をジリジリ登ると、
気付けばけっこう標高があがっている。
振り向けば一服剱は目線より下。

後立山の山々もよく見える。

前剱の手前で、大岩の脇を抜ける。
この大岩から、3番目の鎖場が始まる。
この鎖場は、大岩の脇を抜けたあと、稜線に上がるまで続く。

6:35、稜線に出る。

剱沢方面の眺めも最高。

ここから再び稜線を外れ、前剱のピークを目指す。


標高を上げると、同じ剱沢でも見え方が変わる。
見飽きない風景であることだけは確かだ。

6:40、前剱のピークのすぐ手前まで来ると、ついに剱岳が間近に見えた。
もうすぐあの頂に立てるのだ。
(と思ったが、ここからが長かった・・・。)

足元を見ると、下草は凍っていた。

6:42、前剱のピークに到着。
人多すぎ。

富山湾もしっかり見えた。

源次郎尾根のギザギザももう目の前だ。

ここまでは良いペースで来ているので、この先も何とかサクサクと進みたいものだ。
そう思いながら剱岳方面に向かうと、いきなりの渋滞。
いったい何をモタモタしているのかと思ったら、崖の向こうはこんなことになっていた。
なんだこれは。ひどい。
どうやら、前剱の門のあたりで詰まっている模様。
ここからは、随所で大渋滞に巻き込まれることになる。
1年で一番混む日に来ているのだからやむを得ないのだが、それにしてもゲンナリする。

6:58、やっとアルミの橋まで来る。
前剱のピークを出発して、たった数百メートルに15分以上もかかってしまった。

アルミの橋の下は、切り立った沢になっている。

アルミの橋を渡った後も、延々と待たされる。
前剱のピークから橋までが如何に短い距離であるかは、振り返るとよりハッキリ理解できる。
あのてっぺんから右下の橋まで、たったこれだけの距離に15分以上もかかったのだ。
ひどい。

その後、岩を回り込んで前剱の門に下るのだが、この下りの大したことない鎖場が渋滞の起点になっていた。
この程度の鎖場でモタモタするような人は明らかに訓練不足なので、前剱までにしておいて欲しいものだ。


この渋滞箇所から、カニの縦ばいが目視できるようになる。
やはりすごい渋滞だ。
列の終わりが岩陰に隠れてしまうほど。
うーん、あと30分ぐらい早く出ておけば良かったのだろうか。

渋滞の起点である鎖場を抜け、明らかに渋滞の原因となったであろう登山者を3名ほど抜かす。
そのうちの一人はもうこの時点ですでに、前かがみになって両手を膝についている。ここでバテる(もしくは心が折れる)ようであれば、これ以上進むべきではないだろうに。

尾根に出ると、大きなケルンが。

7:34、登山道が珍しく尾根の西側に付けられている箇所にたどり着くと、ここから平蔵の頭までベッタリと渋滞していた。
ここから平蔵の頭に取り付くまで、この日陰の登山道でひたすら待つ。
天気が良いのだけがせめてもの救いだ。

僕が待っている30分の間にもどんどん渋滞の列は伸びていく。
もはや最後尾がどこなのかも分からない。

8:05、やっと平蔵の頭に取り付く。

取り付き地点からは、ちょうど鹿島槍の姿が見えた。

平蔵の頭は足場に乏しく、鉄の杭に頼らざるを得ない。
平蔵の頭を乗越すと、今度は下り。
これは確かに渋滞するわなー。
下まで降りて見上げてみても、その感想は変わらず。
(なお、この平蔵の頭は、下山用のルートが別途つけられているので、交互通行する必要がない。)

次はいよいよカニの縦ばいだ。

平蔵のコルを通り、
8:16、カニの縦ばいの渋滞最後尾に到着。
ここから平蔵の頭を見ると、ひどい険しさに唖然とする。

次第に稜線の東側にはガズが出てきた。

8:29、渋滞の流れが改善されるわけもなく、便秘3日目のような重苦しさを感じて列の後方を見遣ると、平蔵のコルまで列が伸びていた。
平蔵のコルなんぞで待たざるを得ない皆さんは大変だろうな、と思いながらも、こちらは広いテラスのような場所で、足を投げ出して待つ。
陽気もいいし、暇だし、うっかり寝落ちしてしまいそうだ。

それにしても、今どき人気ラーメン店のピーク時だって、ここまで並ばんのではないだろうか。
並んだ先には、ラーメンどころか岩しか無いというのに。
9月の3連休とは、モノ好きが一堂に会する行事が北アルプスなどの各所で開かれる日なのだと改めて認識した。

9:00、やっと列が水平方向ではなく垂直方向に伸びているところまで来た。
下から見ると、かなり隙間なく鎖に取り付いているように見えて、怖い。
こりゃ、登っている時に上から人が落ちてきたら避けようが無いな。

ここで改めて連れの2人に、カニの縦ばいでの緊急回避に関してリマインドする。
  • 悲鳴や「ラク!」という声を聞いたら、上は見ず、両手で鎖にしがみついて体を引き寄せ、顎と脇を締めて投影面積を小さくすること。
  • 石や人が落ちてきても避ける余裕は無い(避けようとして下手に動けば自身が落ちてしまう)ので、上記姿勢で踏ん張るしか無い。
  • 逆に、石を落としたり、自分が落ちたりしないよう、細心の注意を払うこと。
9:08、いよいよ本日の核心部である。
アドレナリンが溢れ出して、耳から吹き出してしまいそうな勢いだ。
散々焦らしやがって、コノヤロー!

このカニの縦ばい、確かに言うだけのことはある。
実際登ってみると、ホールドも足場も岩に求めることが難しく、僅かにホールドになりそうな岩があっても、人間の考えることは皆同じようで、皆が持つから磨かれてツルツルになってしまっており、フリクションゼロ。
必然的に鎖に頼らざるを得なく、三点支持もクソもない状態になってしまう。
特に、カニの縦ばいの上半分はこれが顕著で、写真を撮る余裕は無かった。

さすが、陸軍測量部の猛者が登れなかった岩(って、多分この辺だと思うのだが)だけのことはある。舐めてはいけない。(cf.『剱岳 点の記』)



核心部を抜けて下を見ると、渋滞が平蔵の頭まで伸びていた。ひどい。

ここからは鎖も無く、ただひたすら三点支持で岩をよじ登る。


9:26、カニの横ばいへの分岐に到着。
平蔵の頭が遥か下に見える。

カニの横ばいも既に渋滞。

ここから山頂までは、一息。

だんだん近づいてくる山頂。

ついに山頂の祠が見えた。

9:45、剱岳の山頂に到着。

山頂から見た源次郎尾根。
足元から源次郎尾根が伸びているこの感じ。
ガスが出てしまっていて少し残念ではあったが、ついにここまで来たかと感慨ひとしおである。

記念写真の列(ここも渋滞)に並び、連れと3人で写真を撮る。
目的は達成した。

さて、あとは下山であるが、連れの2人は、なんとかして今日中に東京に戻りたいという。
元々の計画では雷鳥沢キャンプ場でもう1泊して、明日の朝一で帰京というスケジュールを立てていただ、もしサクサク行けた場合には本日の帰京も有り得るという留保事項付きではあった。
問題は、渋滞にハマったおかげで、本日中の帰京が可能なペースではなくなりつつあったということだ。

連れの2人は、あくまで最優先は安全登山であり、それでもなお室堂からの交通機関の時間に間に合えば帰京する旨を伝え、急ぐあまりに安全登山を忘れがちになりそうな2人を押さえつける。


9:55、下山開始。
山頂滞在時間はたったの10分だった。
こんなに焦って下山するのは勿体無いなぁ、と思いつつ、連れの2人の意向を容れて、本日の帰京に向けて努力することとする。

10:04、カニの横ばいの渋滞の最後尾に着く。
縦ばいを登ってきたときよりも、横ばいの渋滞が伸びていた。
恐るべし、剱岳。

実は、縦ばいよりも怖いという評判もある横ばい。
そこに至るまでの道のりもなかなか険しい。

10:31、いよいよカニの横ばいに突入。
ここは、最初の一歩目の足場が見えないのだが、足場自体はしっかりしているので、探りつつ慎重に渡る。
途中で振り返って足場を撮影しようとしたが、あまり上手く撮れず。お察しください。

10:32、横ばいの終点に到着。

すぐに垂直なハシゴが現れる。

ハシゴを下りると、小さな掘っ立て小屋が見えてくる。
それがトイレだ。
が、素通りする。

10:38、平蔵のコルに出る。カニの縦ばいへの渋滞は、まだまだ健在。

渋滞を脇をすり抜け、平蔵の頭へ向かう。

10:45、平蔵の頭を登り始める。

頭を乗越し、
上りルートの渋滞の皆様に見守られながら下る。

上りルートの渋滞は、相変わらず長いまま。

10:54、ケルンに到着。

11:00、前剱の門に差し掛かる。

前剱に登る。
登る。

11:13、気付いたら前剱のピークにいた。
あれ、、、下山ルートではピークを巻くはずだったのに。。。
とはいえ、登っちまったもんは仕方がない。
下山を急ぐ。

前剱の南側斜面からは、剱沢がよく見える。
が、この時は濃いガスが湧いて、半分ほどを覆い隠していた。
前剱から一服剱までの下り斜面では、よく登山者がコケて怪我をするそうなので、慎重に歩を進める。

11:46、一服剱に到着。

ここまで来れば、危険箇所はもう無い。
気を抜いてはいけないが、ひとまず安心である。

すぐに剣山荘も間近に見えるようになる。

11:59、剣山荘に到着。

多少の渋滞と前剱の道間違えのことを考え合わせても、もうちょっと早く歩きたいところだったが、やむを得まい。

さて、ここまで来て、僕がエンストを起こす。
おそらく、連れの二人をここまで無事に連れ帰れたことに対する安堵感で脱力してしまったのだろう。
もはや、剱沢を登り返す気力も残っているか怪しい状態となった。

それでも、少なくともテントまでは帰らなければならないわけで、ゆるゆると進む。

12:26、なんとかテント場にたどり着いた。

が、休む間もなくテントを撤収。
30分でパッキングを終え、再び出発。
なんで山に来てまでこんなに忙しなくしなきゃイカンのだ。。。

どうにも足が重く、ぼっくりぽっくりしか歩けず。
剱沢をゆるゆると登る。

13:47、剱御前小舎に到着。
ペースが上がらないと言っても、コースタイム1時間のところを47分で歩いてるんだから、文句は言わせない。

ここで、10分の休憩。
オレンジジュースを購入し、飲み干す。

次は雷鳥沢目指してひたすら下るルートだ。

立山方面は、山頂付近がややガスっているものの、概ね良好な天気。
が、こんな素晴らしい景色を十分に堪能することもままならないほどに、連れの2人の「今日中に帰京」プレッシャーが強く、フラフラになりながらも先を急がなくてはならない。

まったく、こんなに素晴らしい景色を楽しまずして、何の登山か。

しかも、疲労を押してのハイペースで、九十九折になっている登山道でうっかり足を踏み外して3mほど滑落してしまった。
登山パンツは破れなかったものの、左大腿部を擦りむいてしまった。急ぐとロクなことが無いのだ。


14:51、雷鳥沢の橋に到着。
コースタイム1時間10分のところ、53分で歩いたのだから、文句は言わせん。

ここでまた10分休憩。

ここから室堂までが、最後の登りとなる。
ここまできての階段の上りが、登山者たちを苦しめるのだ。

実は室堂~剱岳のルートの中での、一番の難所なのではないかとさえ思える。

まずは、雷鳥沢キャンプ場を抜けると、最初の階段が現れる。

地獄谷の向こうには、大日岳が見える。

雷鳥沢のキャンプ場も次第に小さくなっていく。

この後、息も絶え絶えになりながら火山ガス攻撃をしのぎ、繰り返される階段のアップダウンに耐え、吐きそうになりながらも、15:57、室堂のターミナルに到着した。

トローリーバスの係員に、
「16時のバス、出発します! 走ってください!」
と急かされ、この状態で走れというのかと呪い殺しそうになりながらトローリーバスに駆け込む。

こうして、僕の剱岳登山は終わった。


(「総括」につづく)



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