(この記事は「計画概要と0日目」の続きです。)
山の朝は早い。
今日だってそうだ。そのはずだった。
だから、ちゃんと4時過ぎには起きた。
でも、気持ちが萎えていた。
窓の外を見ると、まだ日は昇っていなかったが、晴れているのは分かった。
それでも気持ちは振るわなかった。
山に行くのがメンドクサイ。。。
宿の部屋でテレビを見ながらゴロゴロしてしまう。
八方尾根のゴンドラは朝6時から運行を開始するので、5時40分には宿を出るつもりだった。
なのに、5時を過ぎても準備が全く進まない。
なんとか山に行かずにダラダラ過ごせる口実は無いものかと、そればかりが頭の中をグルグルと巡り巡る。
が、結局何も思いつかず、6時20分、何かに背中を無理矢理押されるようにして宿を出る。
宿の前から、白馬鑓ヶ岳と杓子岳が見えた。
普段なら、こんな山の姿を見たら気分が盛り上がるはずなのに、どうにもならない。
わざわざ有給休暇を貰ったのに、バチが当たりそうだ。
6:41、ゴンドラリフトアダムの乗り場に到着。
受付で片道リフト券と荷物券を買う。
15kg以上の荷物から荷物券が必要だそうだ。
登山届も出し、ゴンドラリフトに乗り込む。
いよいよ出発してしまった・・・。
すぐにゴンドラリフトは終着点に付き、アルペンクワッドに乗り換える。
リフトに座っていると、地面が思いのほか近く、草花が足先に触れる。
たくさんの花が咲き乱れていて、少し気持ちが上向いた。
終着点で降りると、右手には白馬三山。
すばらしい山容だ。再来年あたりに行こうと心に決めた。
次に乗るのはグラートクワッド。
2~300mほど歩く。
その途中には、花々が咲く鎌池湿原が広がる。
なんという素敵な風景。
こういう場所を観光して満足する人間でありたかった。
今の僕は、キレイなだけでは満足できなくなってしまっているのだ。
グラートクワッドを降りると、そこからいよいよ自分の足で移動することになる。
登山道は、有り体に言って、すげーーー混んでいた。
そうか、ここから八方池までは観光地だった。そりゃ日曜だし、日帰りの観光客で賑わうのは当然だ。(後で知ったが、八方尾根はこの時期、曜日に関係なく混むようだ。)
準備運動をして、尾根に上がる。
白馬三山は稜線部分だけが雲から顔を覗かせていた。
さあ、出発だ。
まだエンジンがかからないものの、引き返す理由も見当たらない。
巡礼のような稜線の列に加わり、唐松岳を目指す。
7:20、展望の利く場所に出た。
ここが地図のどこに当たるのかよく分からないが、この場から見える山々についての案内板が2つ立てられていた。
新潟など、東側。
白馬方面。
どっちも何にも見えやしない。
とほほ。。。
雲行きは残念だったが、登山道は十分に手入れが行き届いている。それだけに、スニーカーで来ている人も多いし、特にそれに違和感を感じるような道でもない。
もちろん、登山道が整備されているというだけのことでこんなに人がたくさん訪れるわけではなく、やはり混雑するには理由がある。
それは、非常にたくさんの花々だ。
ハクサンシャジン。
シモツケソウ。
オオバギボウシ。
オヤマソバ。
シナノオトギリ。
ダイニチアザミ。
クガイソウ。
キンコウカ。
イワシモツケ。
クルマユリがちょっと小ぶり。
タテヤマウツボグサ。
ヤマブキショウマ。
ワタスゲ。
ニッコウキスゲ。
ミヤマアズマギク。
タカネマツムシソウ。
タカネナデシコ。
イブキジャコウソウ。
本当にたくさんの花々が迎えてくれて、気持ちもだいぶ上向いていった。
ただ、あまりにたくさんの花の写真を撮りすぎて、歩行のペースは全く上がらなかった。
やはりこの時期の北アルプスは花がキレイで幸せだなぁ。
肝心の登山道のほうは、岩がゴロゴロした登山道だけでなく、きれいに木道が敷設されている箇所も多い。
標高を上げていくと、次第に雪渓なども姿を現す。
7:55、八方山のトイレに到着。
7:57、第2ケルン(息ケルン)に到着。
この第2ケルンの別名である「息ケルン」は、かつて遭難死した「山本息」氏に捧げられたものであることから付けられた名前のようだ。
僕はどうもケルンを見るたびに、心が沈む。
心なしか、近くのクルマユリも俯き加減だ。
もっとも、クルマユリは全て俯き加減ではあるのだが。
8:05、今度は八方ケルンに到着。
これが顔に見えてしまうのはシミュラクラ現象によるものだろうか。
8:13、八方池が見えてきた。
が、視界はすっかりガスに覆われ、その向こうの白馬の峰々も薄らシルエットが見えるだけだった。
近づいてみると、池の様子ははっきり見えるようになる。
残念ながら、白馬の稜線は見えない。
8:16、唐突に現れる石仏。
8:17、第3ケルンに到着。
その先の小ピークを越え、さらに尾根を上る。
八方池を過ぎると、観光客の姿がめっきり減り、しっかりとした登山装備の人がほとんどとなる。
花は相変わらず色とりどりに咲き乱れていた。
時より顔を見せる白馬三山と、
不帰ノ嶮。
再来年あたりの課題だな。
ヤマホタルブクロ。
8:36、唐突に樹林帯に突入する。
樹林帯といっても、樹木の背丈はそれほど高くない。
それでも人の背丈よりは高い樹木が多く、風が遮られるので急に体感温度が上がった。
樹林帯の中でも花が美しい。
クルマユリも、標高の低いところよりも発色が良い。
シモツケソウとタテヤマウツボグサ。
ニッコウキスゲもこのとおり。
たまに樹林が途切れると、五竜方面の稜線が見えたり見えなかったり。
来し方を振り返ると、戸隠方面へと広がる雲海。
ミヤマアズマギク。
ミヤマキンバイ。
サンカヨウかな?
アカバナイチゴ。
オオヒョウタンボク。
イワイチョウ?
ナナカマドってこんな可憐な花を咲かせるんだ!
そうこうするうちに、9:19、目の前に大きな雪渓が現れる。
これが扇雪渓だろうか。
たくさんの登山者が休んでいるのは、一時の涼を求めてのことだろう。
この雪渓を過ぎたあたりから、ヤマハハコを見かけるようになった。
9:29、樹林を抜けて、丸山が見えてきた。
ここからは、この日一番の白馬三山が見えた。
丸山に向かって再び樹林を歩く。
ゴゼンタチバナ。
ウサギクサ。
9:34、丸山への最後の上りに差し掛かる。
チングルマ。
コイワカガミ。
振り返れば妙高、戸隠。
9:48、丸山に到着。
写真を撮りすぎてかなりタイムロスしているので、先を急ぐ。
チングルマの花が終わったあと。
カミキリムシかっこいい。
10:00、いよいよ唐松岳が見えた。
花、花、花。
タテヤマリンドウ。
ハイマツには松ぼっくりが付き始めていた。
アカモノ。
いよいよ唐松岳が近づいてきた。
背後には八方尾根が続いている。
ウサギクサ。
コイワカガミとチングルマ。
主稜線に上がる直前、登山道は急に岩場になる。
下を見ると、なかなかの高度感。
こんな岩っぽいところでも、斜面に花は咲く。
ミヤマキンバイの花畑だ。
左はチングルマ。右はアオノツガザクラ。
チシマギキョウ。
岩っぽい道。
ここを回り込むと、唐松岳頂上山荘が見えてくる。
10:57、唐松岳頂上山荘に到着。
この山小屋のテント場はこんな感じ。
うーん、狭い。
けど、眺めがとんでもなく良さそう。
さて、僕はといえば、ここはあくまで通過点。
山小屋で山バッヂを買い、ザックをデポして山頂を目指す。
なんだか、山小屋から山頂までの距離感が燕岳に似ている。
山荘を出てすぐ、ザレた斜面には、高山植物の女王・コマクサが群生していた。
やっぱりこの時期に来て良かった。
あいにく、五竜岳は雲の中。
それにしても、ずいぶん岩っぽい稜線だなー。
唐松岳山頂へは、単調な登山道がつづく。
やはりここにも、チングルマ。
眼下には唐松岳頂上山荘。
11:22、唐松岳山頂に到着。
すげー混んでる。
5月ぐらいの丹沢・塔ノ岳の山頂以上に混んでる。(例えが分かりにくいが。)
日本海(富山湾)もバッチリ見える。
五竜方面への稜線。
このあと歩くルートだ。
不帰ノ嶮への稜線。
おっかねー。
剱・立山方面。
なーんも見えねー。
とりあえず、山小屋に戻ろう。
また来た道を引き返す。
山小屋手前で、ミヤマクワガタの群生を発見。(昆虫ではない。)
行きには気付かなかったが、なかなかのものだ。
11:43、唐松岳頂上山荘に到着。
自販機で、よく冷えたオレンジジュースを購入。
五臓六腑に染み渡る。
オレンジジュースなんか好きでもなんでもないのに、この一杯のために生きているような気分にまでさせる美味さだ。
本当はここでカレーライスも食べたかったのだが、雲の状態も決して楽観できるものではなかったため、先を急ぐ。早々に本日の宿泊地である五竜山荘にたどり着き、なんとしても雨が降る前にテントを張ってしまいたかったのだ。
11:50、唐松岳頂上山荘を出発し、五竜山荘へと稜線をたどる。
ハクサンフウロ。
ハクサンフウロとミヤマキンバイの花畑。
稜線には僅かながら、シャクナゲの花がまだ残っていた。
11:55、棒が挿してあるケルンのようなものの横を通る。
避雷針か?
この下を通るようになだらかな登山道が付けられていた。
12:03、急に物騒な看板に行き当たる。
「ストックは片付けて 両手を空けて 慎重に!!」
おおぅ、、、なんだこれは。。。
呆然としていると、通りすがりの年配の男性が、
「ここ、けっこう険しい鎖場らしいよー」
と言って、僕を追い越していった。
嗚呼、、、そういうことか。。。
今日はそんなに険しい場所は無いと思っていた。。。下調べ不足だ、、、
全く心の準備が出来ないまま、鎖場へ取り付く。
と、初手からこんなに足場の小さいところを通過しなければならない。
身の危険を感じる。
そのあと、鎖を手すり代りに長いヤセ尾根を歩き、
仕上げにこんなところを下る。
雨の日には絶対に通りたくない。
そして、延々と伸びる稜線。
稜線上からスリ鉢状になった谷と、その向こうの剱・立山を望む。
肝心の山頂が見えない。
このまま険しい稜線を歩かされるのかと思ったら、
ギザギザの稜線ではなく、西側斜面をトラバースするように道が付けられている。
が、ホッとしたのも束の間、12:20、タチの悪い鎖場が現れる。
どう「タチが悪い」のかというと、
足場が狭いばかりでなく、谷側にすごい角度で落ちている。
こんなもん、足場じゃないだろ。
こんな場所にも花は咲く。
この鎖場を回り込むと今度は、
鎖はあれど、もはや足場が無い。
一休さんのトンチのようなルートだが、どうやら頭を捻るのではなく、フィジカル勝負でいくしかないようだ。
それとも、一休さんならトンチでなんとか出来るのだろうか。
岩ばかりの稜線だが、咲く花は可憐だ。
イワツメクサの儚げな姿に癒される。
相変わらず、稜線の東側はガス。西側からは強風。標高の高いところは雲。
すっきりしないお天気だ。
剱・立山も雲の中。
いつ雨が降ってもおかしくないので、先を急ぐ。
稜線は、アップダウンを繰り返す。
難易度の低い鎖場も、繰り返し登場する。
12:37、どうやら岩稜を稜線に忠実に超えなければならないことに気付く。
うん、てっぺんに人がいるものね。
その後すぐ、この岩稜の基部に到着。
ルートを示す矢印が、やっぱり上を向いていた。嗚呼・・・。
12:40、ピークまで来た。
タカツメクサに癒される。
ピークの向こう側は、岩ではなくザレた急斜面だった。
コケないように気をつけて歩く。
登山道は引き続き稜線をトレースしている。
相変わらず、五竜岳は雲の中。
岬のような崖沿いを通り、
稜線は続いていく。
タカツメクサやチシマギキョウ、
ヤマハハコなどが尾根道を彩っていた。
12:53、一瞬だけ東側のガスが切れて、隙間から下界が少しだけ見えた。
こんな一瞬なのに、里心が湧き上がる。
どうも今回は、何故だか山に集中できない。
展望もイマイチななか、黙々と稜線を歩く。
トウヤクリンドウ。
エゾシオガマ。
13:06、稜線の東側が断崖絶壁になっていたが、
ここを大きく西側に巻く。
廻り込むと、引き続き稜線。そして、引き続き五竜は雲の中。
13:22、今度は稜線の西側が崖になっていた。
崖の下には、雪渓の残る大きな沢。
きっとこの沢は餓鬼谷へと繋がり、黒部川に流れ込んでいるのだろう。
キヌガサソウ。
13:35、白岳がだいぶ近づいてきたように感じる。
右のとんがって見える山が白岳。
中央奥のなだらかな山は西遠見山ではないだろうか。
とすると、写真左手の方に伸びる稜線は遠見尾根だ。あの尾根を下ると、白馬五竜スキー場に下りられる絶好のエスケープルートだ。
白岳の手前のピークに差し掛かるあたりのガレ場で、ちょっと変わった注意書きを見つけた。
確かにこの辺りにはコマクサが点々と咲いていた。
日本語の達者なコマクサも居たものである。(違う
(残念ながら、撮影した写真はどれもピントがひとくズレていて掲載できず・・・。)
白岳へは稜線を上がらず、東側斜面をトラバースするように登山道が付けられている。
大天井の登山道を思い出させる、直線的な登山道だ。
このトラバースの上りを廻り込んだところに、遠見尾根と主稜との分岐がある。
14:17、その分岐に到着。
左に行けば白岳山頂。右に行けば五竜山荘。
分岐の下を覗き込めば、五竜山荘の屋根が見える。
まだ天気は保ちそうなので、白岳の山頂を覗いてみる。
山頂に何人か人影があったが、特になんという山頂でもなさそうなので、行かなくていいやと。
これまでたどって来た稜線もよく見えた。
14:26、五竜山荘に到着。
テント場はこんな感じ。
思ったより空いてて助かった。
山荘の周りには、クルマユリが咲き乱れている。
東側の斜面には大きな雪渓。
山荘で手続きをして、さっそくテント設営。
今回もスーパーメガUL1。
テント場は谷側に向かってやや傾斜している。
水はけを考えると傾斜が必要なのは分かるが、谷側にズルズルと落ちそうで怖い。
ペグダウンをしっかりしておく。
設営が終わったら、一休み。
飲み終わってもまだ夕飯には早い。
酔い覚ましにコーヒーを飲む。
なお、水は小屋で1リットル100円で分けてもらえた。
この後は、有り余る時間を、ゴハンを食べたり読書をしたりしながらのんびり過ごした。
こんな時間の使い方は、下界ではなかなかできない。
至福。
と思っていたら、なぜかオカリナの音色がずーーーっと流れ続けている。しかも、高音部になると必ず音程がハズれるという、音痴なオカリナだ。
なぜこんなところでオカリナを! しかも、上手いならまだしも、こんな微妙な・・・。
幸い、日が暮れてからはその音も止み、静かなテント場となった。
(「2日目 五竜山荘~五竜岳~キレット小屋」につづく)
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