このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2014年1月8日水曜日

山行記 : 2014年1月2日~4日 燕岳 2日目(燕岳登頂)



(この記事は「1日目(中房温泉まで)」の続きです。)


山の朝は早い。
が、比較的よく眠れたことで目覚めは良かった。
耳栓スゲー。

5:50、宿のスタッフさんから朝食の呼びかけがあり、さっそく食べ始める。

食べている際に、宿のご主人からブリーフィングがあった。
それによれば、今朝の燕山荘は、晴れ、風微弱、気温マイナス10℃とのこと。
それを聞いて、食堂に集まった宿泊客はどよめく。
そんなゴールデンウィークみたいなコンディションが、この厳冬期にありえるのか、と。
皆一様に浮き足立った。

食べ終わると早々に出発。
なんとしても今日は快晴のうちに燕岳に登頂して、念願の絶景を堪能するのだ。

6:36、中房温泉の宿を出る。
まだ空は夜明け前。

宿近辺は温泉の影響で地熱が高いため雪が無い。
なので、アイゼンは着けずに出発する。

登山口に着いたところで、アイゼンを装着する。
去年は雪が降り続いてボサボサだったのでアイゼン無しで出発したが、今回は昨日下山した人たちが踏み固めているだろうから、最初からアイゼンを着けておくのが正解だと判断したのだ。

手には先日購入したばかりの新品のZポール ウルトラマウンテンFLを持つ。
合戦小屋まではピッケルではなくトレッキングポールのほうが良いだろうと判断したのだ。
(その際の使い勝手についてはこちらの記事に詳しく記載しました。)

そして、6:52、いよいよ登山道に踏み入る。

ここから燕山荘まで、北アルプス三大急登の1つ・合戦尾根をひたすら登る。
登山道は思ったとおり、しっかりと踏み固められていて、アイゼンがよく効く。
去年とは大違いだ。これなら、燕山荘まで目標タイム(5時間半)を大幅に短縮できるかもしれない。

7:23、第一ベンチのすぐ手前でご来光を拝む。
この界隈は1日も2日も朝日は雲の向こうだったはずなので、実質的にこれが初日の出だ。
ありがたや、ありがたや。

7:29、第一ベンチに到着。
今年も1張のテントが立っていたが、こちらはさっさと通り過ぎる。

陽はどんどん高くなり、あたりは一気に明るくなり始めた。

急登の斜面にも陽光が反射して眩しい。

樹間からはモルゲンロートな八ヶ岳が見えたり。

8:01、合戦小屋への荷揚げ用ケーブルの下をくぐる。

ここを過ぎるとすぐに第二ベンチだ。
ということで、8:02、第二ベンチに到着。
登山口からここまででちょうど2時間。
まあまあ、か。

第三ベンチの手前ぐらいから、少しずつ樹林がまばらになり、視界が効くようになってくる。
すると、目に入ったのは表銀座の白き尾根。
この尾根を登るのはもうこれで4度目だが、過去3回は天気が悪くて眺望が無かった。
天気が良いとこんな素晴らしい眺めなのか。
感動で早くも泣きそうになった。

ちなみに、この写真だと分かりにくいかもしれないが、このとき手前に見える2392ピークの天辺あたりに飛行機雲が見える。
これは、僕が最初に気付いた時点ではもっとクッキリしていて長さもあったのだが、カメラを取り出しているほんの一瞬のうちに一気に薄れてしまったのだ。
その飛行機雲の消えっぷりだけでも、いかに空気が乾いていて雲の出来にくい状態かがうかがえる。これはもしかしたら、午後まで快晴が保つかもしれない。

第三ベンチの手前では、いよいよ富士山まで見えてきた。
この尾根から富士山が見えるなんて!
なんて日だ! 今日はなんて日だ!

8:34、第三ベンチに到着。

第三ベンチを過ぎると、遮るものの無い八ヶ岳が姿を現す。

空は青く、雪は白い。

9:15、埋もれた富士見ベンチを発見。
そしてなんと!
富士見ベンチから富士山が見えた!(写真では真ん中やや右)
「富士見」というぐらいだから、天気が良ければ富士山が見えるのかなぁと思っていたものの、シーズンを問わずこれまで見れたことが無かった。
本当に見えるんだ!と驚きと感動である。

富士山の左手には八ヶ岳、右手には奥秩父と、これまた雲海に浮かぶ厳めしい岩窟島のような佇まいで鎮座しているのが見える。

この場を離れて先へ進むのが勿体無いほどだが、この先にはもっと素晴らしい景色があるに違いないと、己の尻を叩く。

標高を上げるごとに木々がまばらに、またその背丈も低くなり、見晴らしが良くなってくる。
進行方向左手前方には常念山脈の尾根。

右手には、遠くにうっすらと雪をかぶった山が。妙高だろうか。

景色に目を奪われ心はウキウキするものの、なかなかの斜面に手こずり、体は次第に消耗していく。
無風な上に陽光が暖かく、念のためと思って少し着込んでいた僕は、体力を消耗しやすい状況にはあった。
とはいえ、もうすぐ合戦小屋に着くだろうし、その先は森林限界の上に出るので、また着込まなければならない。
それに、去年、合戦小屋で脱ぎ着した際に手袋を外してヒドイ目に遭ったことが脳裏から離れず、このまま行ってしまおうと考えた。
もはや、仮想ゴールデンウィークといった様相だ。

9:58、合戦小屋に到着。
合戦小屋のケーブル基地も雪に埋もれている。

それにしても暑い。短時間とはいえ、やっぱりさっき脱いでおけば良かった。
そう思いながらも、この先はさすがに薄着ではまずいので脱ぐわけにもいかず、トレッキングポールをピッケルに持ち替えて再び出発した。

なお、ここまで500mlの水のペットボトルをザックのサイトポケットに入れておいたのだが、全く凍らず。むしろ、キンキンに冷えてて美味い。
本当にここは厳冬期の北アルプスか?

合戦小屋から合戦沢ノ頭までは、距離は短いものの、なかなかの急登だ。
無雪期はこの斜面をツヅラ折り状に切り返しながら登山道が付けられているのだが、雪のある時期はひたすら直登。
しかも、ここのトレースは踏み固められるどころか、斜面が急すぎて下山する人がズルズル滑るようにして歩くので、全く雪が締まっていない。そのためアイゼンも効かず、登るときにもズルズルと滑りながら登らなければならない。
この合戦尾根ルートで僕が一番嫌いな場所だ。

この尾根をじわりじわりと登っていくと、なんと常念山脈の尾根の向こうに槍ヶ岳の穂先が見えてきた。
こんなところから槍ヶ岳って見えるんだ?!
今までの僕の山行は何だったのだ!

ショックを受けつつ高度を稼ぐ。
やっと直登が終わったあたりで、燕山荘の姿が遠望できるようになる。
(写真では分かりにくいが、画像左側に1本だけ立っている松の木のすぐ右側にある。)
画像一番左の小高いところが合戦沢ノ頭だ。

あとは何度かアップダウンを繰り返しながら、分かりやすい稜線を辿るだけだ。
稜線にはクッキリとトレースが付けられている。

燕山荘に近づくごとに、どんどん槍ヶ岳もその姿を顕にしていく。
最初は肩、次に東鎌と、焦らすかのように少しずつ、それでいて確実に。
なんて風景だ。

僕の前にも、僕の後ろにも、視界には人ひとりの姿も無い。
そこには、北アルプスの景色と僕だけだった。
この北アルプスの大きな風景と、僕はたった一人で対峙した。
圧倒されるばかりだ。
立ち止まり、立ち尽くし、そして涙が込み上げて来そうになった。
誰にも邪魔されずに雄大な景色と納得いくまで対峙できるのは、単独行ならではの贅沢だろう。


10:55、燕山荘の手前、最後の小ピークに立つ。
目の前には燕山荘と、その先に燕岳。

振り返れば、八ヶ岳、富士山、奥秩父山塊。その手前には、安曇野の町並みも。

北側にも山々が広がる。奥に見えるのは妙高か。

槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、そしてそこから切れ落ちる大キレット。
西岳、大天井岳、東天井岳、横通岳、常念岳、前常念岳。
1つ1つの名前を読み上げるだけでも、気持ちが高ぶる。

見とれるばかりで歩みが止まる。
こんなに景色に見とれながら歩いては滑落必至だ。が、前に進まないわけにもいかない。
いよいよ燕山荘直下の急登に差し掛かる。
この急登は、無雪期にはただの崖だ。積雪期だけ、ここが道となる。
昨年はこの急登がひどいバサバサの雪で、アイゼンが効かず、ピッケルをダガーポジションにして登りきった。木屋側でもフィックスロープを垂らして登山者の助けとしていた。
が、今年は雪がしっかり締まっていてアイゼンがよく効くためか、普通に歩いて登れた。そのためか、フィックスロープも用意されていなかった。

この急登からの眺めも素晴らしい。
まさに絶景だ。

11:38、無事急登を登りきり、燕山荘の裏に出る。

稜線に出ると、槍ヶ岳の北鎌が丸見えだ。
昨年はここに立った途端、飛騨側からの突風に煽られて一瞬にして鼻毛が凍ったのだが、今年はやや風はあるものの温暖で、身の危険を感じることはない。

11:43、燕山荘前に到着。
登山口を出てから4時間50分。去年は6時間だったので、大幅な短縮だ。

燕山荘前から見た燕岳の写真を1枚。
昨年はついに見ることのできなかった、雪の燕岳だ。

(たまたま小屋の前に居た山岳ライターの方に、自分の姿を入れて写真を撮ってもらったが、そっちはブログにはアップしないのです。)

シャッターを押してくれた山岳ライターの方と少し立ち話をして、小屋に寄らずにそのまま山頂へ向かった。
せめて荷物だけでも小屋に置いていけば良かったと後からつくづく悔やんだが、この時はまだ無問題だと思っていたのだ。

小屋前の階段を下りると、テント場に1張だけテントが立てられていた。
夏ならそこは登山道だが、冬だから問題ないのだろう。
しっかり風対策もされているが、どっちにしても寒そうだ。

少し燕岳に近づくと、「これぞ燕岳」という写真が撮れる。

この先、ルートがなだらかなうちは背中の荷物も気にならなかったのだが、アップダウンがあるとザックの重さが蓄積した疲労と共に押し寄せてくる。
荷物を置いてくれば良かった。。。
思わず燕山荘のほうを振り返る。
腹減ったなぁ。。。

この道は、飛騨側からの風をモロに受ける場所だ。
朝の時点では無風だったようだが、現時点ではそこそこ強い風が吹いている。
風速10m/sまでいかないだろうが、都心では滅多に体験できない程度には強い。
アウターシェルのフードを被って歩く。

11:54、イルカ岩に到着。
最近イルカ岩を形成する花崗岩の風化が進んでモロくなっているそうで、燕山荘では、イルカ岩に登らないように呼びかけているようだ。

イルカ岩から5分ほど歩いたところからは、遮るもののない槍ヶ岳ビュー。
北鎌の下のほうまで丸見えである。

起伏の小さい場所はほぼ終わり、いよいよ燕岳最後の斜面に取り付く。
振り返ると、燕山荘は小さくなり、左手奥には八ヶ岳、富士山、奥秩父が見えている。

12:19、メガネ岩に到着。
メガネ男子である僕は、これを見るたびいつも違和感を覚える。
これは、メガネではなく、舞踏会とかで身に付ける仮面に近いのではないかと。

メガネ岩を見下ろしつつ、北アルプス南部の山々を俯瞰する。

その先は、無雪期には階段になっている斜面を登る。
ここが地味に怖い。
転倒して滑落制動を失敗すれば、尾根の西側の切り立った斜面に落ちていく滑り台のような地形。
幸い風は斜面の下から上に吹き抜けているので、いくらか恐怖感を和らげてくれる。

この斜面を登りきり山頂直下に回り込むと、深い風紋が雪面に描かれていた。
普段からの風の強さがうかがい知れる。

12:33、山頂に到着。
2度目の挑戦でようやく冬の燕岳の山頂に立つことができた。

山頂から北側(餓鬼岳方面)に伸びる尾根。

南側(表銀座方面)に伸びる尾根。

槍ヶ岳。

裏銀座の山々。

ずーっと見ていたい風景なのだが、風が強くてそれどころではない。
腹も減ったし、箱根駅伝のゴールも気になる。
ということで、山頂滞在時間は2分。早々に下山を開始する。

13:06、燕山荘に到着。

チェックインすると早々に、チキンカレーを注文した。
このチキンカレーを食べるのも、今回の山行でなすべきことの1つだ。
昨年、ビーフカレーを食べていたら、他の登山者からチキンカレーがいかにオススメかを力説されてちょっと悔しかったからだ。

たしかに食べてみると、ビーフカレーを食べている人間を前にチキンカレーが如何に旨いかを力説したくなる気持ちがよく分かる。
骨付きチキンが2つ入っているのだが、それの身離れが非常によく、ホロホロの柔らかい肉にはしっかりと旨みが凝縮されていた。たしかにこれは美味い。
さすが燕山荘の食事だ。

カレーを食べ始めたところで、休憩室のテレビに映された箱根駅伝では、東洋大学が1位でゴールした。これで東洋大が往路復路両方を1位でゴールし、完全優勝を成し遂げた。めでたい。


その後夕食までは、持参したキンドルで読書をしたり、そのまま寝落ちしたり、知り合いの客などと四方山話をしたりなどして時間を潰す。
こののんびりした感じが、山の楽しみの一つでもある。どうしても下界にいるとセカセカしてしまってイカンのだ。

17時半、夕食。
相変わらず美味い。安定のクオリティだ。

食事をしていると、オーナーの赤沼さんが現れて、食堂に集まった客に向かってスピーチを始めた。
内容は、新年の祝賀、宿泊のお礼、そして冬山登山の諸注意だ。
僕はこれまで何度か燕山荘に宿泊しているが、オーナーの赤沼さんを拝見するのは初めてだった。運がよければ赤沼さんの演奏するホルンを聴けたりするらしいのだが、この日はそれは無かった。

赤沼さんはスピーチの最後に
「少しではありますが、お酒を皆様にご用意しております」
とおっしゃって、日本酒を供してくれた。

思えば、年末は雑事や登山準備に追われ、お屠蘇気分になれるタイミングが全くなかった。
それが、今日全ての目的が達せられ、やっと落ち着きを得た。
そのタイミングでのこの振る舞い酒は、まさに僕にとってのお屠蘇である。
目出度いかな、新年。


その後は寝床で消灯まで読書。
残念ながら夕方以降雲が出てきてしまって星空は見られず。


(「3日目(下山)」つづく)

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