(この記事は「計画概要」の続きです。)
山の朝は早い。
山に出かける日も、例外なく早い。
そして、その早さを呪わしく思い、山行をキャンセルしてこのまま昼過ぎまで寝ていたいという誘惑に強く駆られる。
いつもだ。
登山という趣味を持ったことを何よりも後悔する瞬間である。
そんなネガティブな感情をなんとか押さえ込み、黙々と支度をして出発する。
7:00ちょうどの新宿発スーパーあずさ1号に乗り込む。
車内はガラガラだ。
松本駅で大糸線に乗り換え、穂高駅に向かう。
去年は、車内にチラホラと登山者らしき姿を見ることができたのだが、今年は自分の他に同じ車内には登山者が見当たらない。
今日は本当に入山者が少ないのかもしれない。
穂高駅から宮城ゲートまではタクシー。他の登山者が見当たらなかったので、割り勘もできず一人で乗り込んだ。
10:42、宮城ゲートに到着。
ここから12km、標高差700mの林道歩きの始まりだ。
身支度を整え、10:50に出発。
その間、他の登山者を目にすることはなかった。
ここから先は、特に面白いことを期待できるわけでもない、長い長い林道歩きだ。
考えただけでウンザリする。
きっと、この時期の燕岳を目指す登山者は、皆同じ思いだろう。
が、考えてみると、これは良いことなのかもしれない。
というのも、もし仮に中房温泉までバスか何かで送迎されるとなったら、技量や体力の無い登山者が北八ヶ岳散策と同じ感覚でホイホイ来てしまうかもしれない。そんな心構えでは、いくら燕岳とはいえ、きっと事故が起きてしまう。
そういう意味では、このクソつまらない林道歩きは、ちょうど良いフルイの役目を果たしているのではなかろうか。
とはいえ、曇天模様の空の下、ダラダラと登り続けるのは心が踊らない。
路面は、去年に比べて雪も少なく、歩き始めてしばらくはアスファルトが露出している部分も多かった。
11:17、有明山の黒川沢ルート登山口を通過。
この時点で、気温は手元の温度計で3℃ぐらい。
暖かい。
そりゃ路面の雪も溶けるわなー。
11:23、残り10kmの標識を通過。
このあたりから、雲の切れ間から少しずつ青空が見えるようになってきた。
が、それはまだ稀で、雪をまとった樹林は白と黒のモノトーンの世界のまま。
11:39、残り9kmの標識を通過。
このあたりから、アスファルトの路面が露出している部分はほぼ無くなるものの、それでも雪の量は多くない。
が、こんな浅く積もった雪の上に、スノーシューの足跡が続いていた。
却って歩きづらいんじゃないかと思うのだが、もしかして後続のために踏み固めてくれているのだろうか。
11:57、残り8kmの標識を通過。
このあたりから、雲の切れ間が大きくなりだした。
有明山の稜線も、クッキリと見えるようになってくる。
12:06、玉垂トンネルに入る。
去年はここでアイゼンを装着したのだが、今年は路面の凍結も無いため、アイゼンを着けずに進む。
トンネルを抜けると、有明山の稜線が青空をバックに広がっていた。
思っていたよりも、天気の回復するタイミングが早い。
これでは明日まで保たないのではないのかと、少し不安になった。
が、やはり天気が悪いよりは良い方が気分も良いので、退屈な林道歩きの励みになった。
12:16、残り7kmの標識を通過。
このあたりで、手元の温度計が0℃を指す。
12:19、観音峠を通過。
観音峠を過ぎると、遠くに白い稜線が見えてきた。
燕から餓鬼へと続く稜線の一部かな。
12:32、残り6kmの標識を通過し、洞門に入る。
同門を抜けると、よりはっきりと白い稜線が見えるようになる。
明日の燕岳に対する期待と、このまま天気が保つのだろうかという不安がない混ぜになるも、嫌が応でも気分が盛り上がる。
猿渉沢洞門の下には、大きなツララが氷瀑のようになっている。
12:47、猿渉沢洞門に入る。
12:53、残り5kmの標識を通過。
13:02、信濃坂第五発電所を通過。
12:13、残り4kmの標識を通過。
だいぶ雪がパサパサして、トレースのついていないところは歩きづらくなるものの、しっかりトレースがあるので問題無い。
凍結もなく、アイゼン無しでさくさく歩ける状態だ。
13:21、信濃坂のピークに到着。
このピークを越えると、この日の行程でほぼ唯一の長い下り坂が現れる。
復路でこの坂を登ることを考えると、ちょっと憂鬱になるが、今この瞬間だけでいえば、延々続いた登りの後なので、ちょっとリフレッシュできる。
13:29、残り3kmの標識を通過。
ここまで来ると、中房川の流れのすぐ近くを道が通っている。
この林道は無雪期しか車両の通行が認められていないのだが、その車両通行可能期間でも、連続雨量が80mmを超えるか、時間雨量が25mmを超えた場合に通行規制がかかる。
この周囲の山々で降った雨がこの小さな川に全て流れ込むことを考えれば、それだけの雨が降れば簡単にこの辺の道路は冠水してしまうに違いない。(あくまで僕のアテ推量だけれど。)
いよいよ天気は素晴らしく回復し、この頃から空は完全に青一色となった。
厳冬期の北アルプスでこんな空を拝むことができるとは、なんとラッキーなのだろう。
どうかこの天気が明日の夕方ぐらいまでは保ってくれかしというエゴイスティックな願いをひたすら念じながら歩いた。
道端には小さな雪だるま。
この天気じゃ日差しが暑かろう。
13:49、残り2kmの標識を通過。
天気が良すぎて、今が厳冬期だということを忘れそうになる。
この頃から尿意にせっつかれながら歩くことになる。
道端で立ち小便というのもあまりお行儀の良い話ではないので、中房温泉まで我慢しよう。
14:10、いよいよ残り1kmの標識を通過。
14:11、合戦小屋への荷揚げ用ケーブルの小屋を通過。
自動車が2台ほど停まっており、小屋の中からは人の気配がした。
燕山荘のスタッフがベースキャンプ代わりに使っているのだろうか。
14:15、有明荘通過。
ここまで来ると、中房温泉はまさに目と鼻の先。
到着したら、混む前にさっさと風呂に入ってしまおう。温泉。温泉。その前に、トイレ。
そればかりを脳内でリフレインさせながら黙々と歩く。
14:22、登山者用の最後の駐車場の入口前を通過。
ここに「登山口迄約1km」という看板が立てられているのだが、その斜め向かいには、宮城ゲートから延々と小刻みに距離を提示してくれていた標識があり、そこには「0.5km」と書かれている。
この「0.5km」は、登山口のちょっと手前にあるロータリーまでの距離と思われるので、駐車場入口に書いてある「登山口迄約1km」という表示との不整合は必ずしも大騒ぎするほどの誤差ではないと思うが、それでもあまりスッキリはしない。
14:33、ついに中房温泉のロータリーに到着。
これで、標識の数字としては0kmとなる。
が、中房温泉の建物はまだこの先数百メートルのところにある。
引き続き歩く。
登山口前を通過し、
14:37、中房温泉の宿に到着。
所要時間は約3時間45分。
あれ、去年より遅いぞ。。。
これじゃ明日が思いやられる。
投宿するとさっそく風呂に入った。(その前にもちろんトイレに行ったわけだが。)
この中房温泉の宿にはいくつかの風呂があるのだが、今回は本館にある大湯という風呂に入った。
内風呂と露天風呂が用意された大湯は、内湯にも外からの光が大いに差し込む造りで、その名に反してあまり広くはないが快適な風呂だ。
風呂から上がり部屋に戻ると、相部屋の人が到着していた。
もちろん初対面なのだが、そこはこんな時期にわざわざ林道を12kmも歩いてここまで来た物好き同士。山の話などをしながらのんびり過ごす。
夕飯はこんな感じ。
この日の宿泊客は全部で35人。
大晦日は150人も泊まっていたそうだが、年も明けてひと段落したこのタイミングでは客の数も落ち着いているようだ。
これなら燕山荘も去年同様、僕が泊まるタイミングでは空いているに違いない。
この食事の際、懐かしい人との再会を果たした。
昨年ここで相部屋となった2人だ。
今回はその2人は大人数で来ていたため、1年間のお互いのトピックなどを軽く話すに留まったが、なんとも嬉しいことだ。
その日は食後部屋に引き払って、翌日の快晴を願いつつ、21時に就寝。
(「2日目(燕岳登頂)」につづく)
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