このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2013年8月3日土曜日

山行記 : 2013年7月28日 富士山 登山未経験者をつれて

僕は、富士山に登ったことが無かった。
「富士山に登らないバカ、二度登るバカ」とよく言うが、僕は登らないバカだったわけだ。

正直、登山の対象としての夏の富士山には何の魅力も感じることなく、もし自分が富士山の山頂に立つことがあれば、それは冬富士か富士登山競走だけだろうと思っていた。
それまでは、バカ呼ばわりされても富士山に登る気は無かったのだが、勤務先の同僚に連れて行ってくれと頼まれてアテンドすることになった。
いや、僕も行ったことないんだけど。。。

計画自体は富士山が世界遺産の予備審査に通る前、去年の段階からしていたものなので、世界遺産登録については正直関心が無かった。
むしろ、世界遺産に認定されてしまったことで、去年にも増して混んでしまうだろうことに、ただただ憂鬱な気持ちしか湧いてこなかった。
地元の皆様には申し訳ないところではあるけれども。


メンバーは僕の他に3名(男1、女2)。すべて勤務先の同僚だ。
メンバーたちは登山経験が皆無か、それに近い状態。特にそのうちの1人(女性)は、あまり運動経験も無く、体力に自信があるようでもないので、非常に不安を感じての出発となった。

ルートの選定においては、吉田口と富士宮口の2択で迷ったが、全くの初心者を引率するということを考え、山小屋の多い吉田口を選んだ。イザという時に逃げ込める場所があるというのは、大変に心強いものだ。(自分ひとりだったら、こんなことは考えないのだけれども・・・。)

ただし、吉田口といえば、他の登山道と比べてケタ違いに登山客の多いルート。
実際に、去年の統計では、他の登山道の登山客が数万人に留まる中、吉田口だけ20万人を超えているようで、文字通りケタが1つ上だ。

そんな激混みルートの、激混みの山小屋に泊まるのだけは絶対に避けたく、他のメンバーも山頂でご来光を見たいわけではないようなので、朝5時に五合目でご来光を見てから登り出すというスケジュールで行程を設計した。


前日 : 17時頃、富士山駅到着。富士山駅近くのホテルに投宿。
当日 : ホテルを4時に出発。タクシーでスバルライン五合目へ。そのまま山頂までピストン。帰宅。


行動時間は、大きく余裕をみて、最大14時間と考えた。が、そもそも14時間かかっても下山できない状態というのは、もはや完全に遭難状態と言えるだろう。
とはいえ、なにしろ登山未経験者を引き連れての山行であるし、僕自身、標高差1,400mを1日で上って下るというのは経験が無いので、時間が読めない。はたしてコースタイムからどれぐらいオーバーするものなのか、全く分からない。

そんな不安を胸に、前日の夜は21時に消灯。
が、例によって全く寝付けないままに日付が変わる。

3:00、起床。
全く寝た気がしない。

シャワーを浴び、朝ごはん用に買っておいたコンビニのおにぎりを口にするも、全く胃が受け付けない。
これは先が思いやられる・・・。

荷物をまとめ、メンバーのうち2名にテーピングを施す。

4:00、迎えに来たタクシーに乗り込む。
まだ空は暗い。

自動車の往来は非常に少なく、スバルラインに入った後は更にそれが少なくなった。

どんどん数字が大きくなっていく料金メーターを見ながらハラハラしている僕をよそに、タクシーは軽快にスバルラインを進む。

途中からタクシーが何故かセンターラインを跨いで走るようになった。
シカなどが道路に飛び出してきた時に避けやすいようにしているのだろうか?などと推測をしていたら、真っ直ぐな道で運転手が急に右にハンドルを切り、道路脇の岩壁に激突しそうになった。
運転手が慌ててハンドルを元に戻し事なきを得たが、センターライン上を走ったりしていたのも含め、居眠り運転が原因だったのだ。
まさかタクシーが居眠り運転をするとは。。。そのリスクまでは想定していなかった。不覚である。

そんな九死に一生を得つつ、4:45、スバルライン五合目に到着。

まだギリギリ日の出前だった。
気温は手元の温度計で13℃ぐらい。
山頂には、ちょっと嫌な雲がかかっている。
そんなに荒れないとは思うが、あまり遅い時間になると夕立が来そうな気もする。
早く下山できるに越したことはない。

4:55、ご来光。

山頂にかかった雲も、ちょっとだけ赤くなる。

ひとしきりご来光を堪能したら、準備運動をおこなう。
登山前の準備運動は常に重要なのだが、特に富士山を五合目から登る場合には非常に重要である。
というのも、たかだか1時間程度で、標高700m程度の下界から、標高2,305mのスバルライン五合目まで来てしまうのだから、標高に体が慣れていない。本来ならばこの標高差に体が慣れるまで1時間以上五合目に滞在したほうが良いのだが、今回のスケジュールではそこまでの時間的余裕もないので、準備運動を入念におこなうことで少しでも早く体を標高に慣らすようにするのだ。

5:11、スバルライン五合目を出発。

泉ヶ滝までは概ね平坦な道が続き、北東方面の眺望が良い。
雲海が低く連なり、夏の早朝を感じさせてくれる。

雨が降ったらとても滑りそうな石畳を抜け、
5:24、泉ヶ滝を通過。
この分岐を右に向い、六合目を目指す。
ちなみに、左に行くと、佐藤小屋のある吉田口五合目に至る。

5:42、安全指導センター(六合目)に到着。
ここで登山者に対してルート詳細を掲載したチラシを配布していたのだが、これが非常に分かりやすい図解で、初心者にも安心な内容だった。安全登山のための努力に頭が下がる。

この六合目の分岐は、下山時にうっかり吉田口五合目に向かってしまいそうになるポイントだ。(と、近くにいた団体に、ガイドさんが説明していた。)
注意すべきポイントとして記憶に刻む。

山頂方面を見ると、やはり雲はかかったまま。
あの雲、なんとかならんかなぁと祈る。

六合目を過ぎてすぐ、メンバーの1人が体調不良を訴え始めた。
思ったよりも早いタイミングでの不調に、早々に下山しての富士急ハイランド行きというプランBが脳裏をかすめた。

が、いったん休憩を取り、大きく深呼吸を繰り返してもらいつつ、酸素缶の酸素を吸い尽くすつもりで吸い込んでもらうと、幸いにも持ち直した。
また、念のため、イブプロフェン系の頭痛薬も飲んでもらった。『ハイキング・ハンドブック』に、高山病にはイブプロフェンが一定の効果をもたらすと書いてあったので、人数分持参しておいたのだ。

ここでメンバーに対して、改めて以下の点を周知した。
  • ゆっくり歩くこと。
  • 歩きながら深く呼吸をすること。気を付けないと呼吸が浅くなって、酸素不足になりやすいので注意すること。
  • 酸素缶は大量にあるので、休憩の度に遠慮なく吸うこと。

酸素は大量に持参し、無駄にたくさん吸ってもらえる状態にしたのが奏功した。
これ以後、僕は5分に一回、メンバーに対して
「ゆっくり歩いて! 深呼吸!」
という呼びかけを繰り返すことになる。

再び歩き出した我々の向かう先には、七合目の山小屋が次第に迫ってくる。
七合目のには7軒の山小屋が、登山道に沿って縦に並んで建っているのだが、近付くにつれてその姿は、まるで山腹に築かれた砦のように見えてきた。

その砦、もとい、山小屋を目の前にして、岩場が現れた。

吉田ルートは林道みたいな道を延々と歩くものだと思っていた僕には、この岩場がちょっと意外に感じたのだが、このあとむしろ、岩場歩きの方が多くなってくる。

6:57、七合目最初の山小屋である花小屋に到着。
ここでトイレ休憩。
トイレ使用料は200円也。

富士登山といえば金剛杖だが、富士山の山小屋ではその金剛杖に小屋ごとのオリジナルの焼印を入れてもらえる。
僕も調子に乗って富士山駅で購入した金剛杖を持ってきていたのだが、この花小屋で最初の焼印を入れてもらった。200円也。

ここからの眺めは、やはり眼下に雲の絨毯。
下界はちょっと雲が多めの模様。
雲の向こうに、おそらく奥秩父の山々だろうと思われる影がうっすらと見えた。

花小屋を後にし、日の出館、七合目トモエ館を通過して、7:23、鎌岩館に到着。

花小屋から90mほど標高を上げた。いったん立ち止まり、メンバーに酸素を吸ってもらう。

7:29、富士一館に到着。
いったん立ち止まるも、すぐにまた歩き出す。

ゴリゴリっとした岩場を登り、次の山小屋である鳥居荘が近付いてくる。

ところで、この写真を見ても分かるとおり、僕らのすぐ前を大量の登山者が歩いている。
これは、ほとんどがツアー登山の団体さんで、僕らの前後にはそれぐらいの規模のツアー客が4団体ぐらいいた。
これらの団体は微妙にペースが遅く、最後尾に追いつくと必ず、引率しているガイドが
「お先にどうぞ」
と言ってくれる。
が、団体は足を止めるどころかペースも落とさない。
その横をなんとか短時間に追い抜かなければならないこちらとしては、正直キツイ。
ガイドにしてみれば後ろに付かれるのはイヤなのかもしれないが、4団体が連なっているところを追い越す身にもなって欲しいのである。

後で聞いたら、僕の連れ達は、ガイドに「お先にどうぞ」と言われて団体を追い越す僕の後ろ姿に
「おい!!」
とツッコミを入れたくて仕方がなかったそうだ。大変申し訳ないことをした。

閑話休題。

7:46、七合目最後の山小屋である東洋館に到着。
ちょっと休憩したかったのだが、布団が干してあって座れない。
それでも、なんとか場所を見つけて連れを休ませる。
北西方向には、富士山の稜線ギリギリのところに、南アルプスの端っこを見ることができた。

八ヶ岳も、雲の上に小島のように浮かんでいた。

この場所の標高は2,910m。
あれに見える八ヶ岳の最高峰(赤岳:2,899m)よりも高い場所なのだ。

ひとしきり休憩し、酸素缶で体に酸素を行き渡らせたら再び登り始める。

ここから先は、より険しい岩場になる。

こういう風景を見ると、やはり富士山は火山なのだなぁと再認識する。
北アルプスや奥多摩の岩場とはまるで様子が異なっている。

しばらく歩き、8:22、八合目最初の山小屋である太子館に到着。
標高は3,100m。
僕にとっては人生初の3,000m越えである。

ところで、上の写真でも分かるとおり、富士山の山小屋は、小屋の中での休憩をさせてくれない。(宿泊客はチェックアウト後も、その小屋に限り休憩をすることはできるようだが。)
実は七合目の花小屋で焼印を押してもらう際も、中に入って小屋番さんに声をかけたら、即座に
「外でお願いします」
と、追い出されてしまった。
その時は小屋番さんがゴハンを食べているところだったので、それで外に促されたのかと思ったが、この頃になると、小屋の中に入れるのは小屋に泊まった人だけなのだということを次第に理解し始めた。
こうなると、雨の日などは休憩を取るのも地獄だろうなぁと想像する。

次の山小屋である蓬莱館への道も、見事に岩場。
そして渋滞。
ここは道が狭いので、追い抜くこともできない。

8:44、蓬莱館に到着。

ここで休憩を取りたかったが、団体に先んじたいばかりにノンストップで進む。

次の山小屋である白雲荘には、9:07に到着した。
白雲荘の標高は3,200m。
日本で2番目の標高の南アルプス・北岳(3,193m)を越えた。
ここから先は、日本では唯一富士山でしか体験できない標高となるわけだ。

9:24、八合目最後の山小屋である元祖室に到着。

ベンチに据え付けられた看板には「海抜 3,250m」の文字が。

ベンチからの眺めは、モコモコの雲海。
ピーカンとはいかないものの、青空の見える天気の下で登山ができるのは、大変ありがたい。

ここで、メンバーと皆で記念撮影をしたのだが、そのシャッターを押してくれた男性は、連れがなかなか上がってこないと言って心配顔だった。まさに、それぞれの富士登山。

ひとしきり休憩をして、いよいよ本八合目に向かう。
登山道からも、僅かながら残雪が見えた。

9:51、本八合目トモエ館に到着。

このあたりで、いよいよ僕も、酸欠になり始めた。
頭痛も吐き気も無いのだが、クラクラし始めたのだ。
ちょうど、やたらと人口密度の高い部屋に入れられた時に酸欠で気が遠くなるような、そんな感覚だ。
とはいえ、筋力的にも体力的にも問題ないので、酸素を吸うことで容易に復活した。

その一方で、六合目で体調不良を訴えたメンバーは、イブプロフェンの効果なのか、やたらテンションが高くてニコニコだった。
イブプロフェンって、そういう効果もあるんだっけ???

本八合目を出ると、いよいよ岩場がきつくなる。
すぐ上には御来光館も見える。
まさにこのあたりが胸突き八丁。メンバーに声をかけ、慎重に足場を選ぶように注意を促す。

10:18、八合五勺の御来光館に到着。

この山小屋を過ぎると、あとは山頂まで山小屋もトイレも無い。
メンバーに水の残量とトイレを確認して、再び歩き出す。

この頃から、ガスが上昇気流に乗って斜面をどんどん上がっていくようになった。
ちょっと前に一瞬だけ山頂の雲が晴れたのだが、もはや再び山頂はガスの中。眺望は期待できそうに無い。無念だ。

八合五勺を出発すると、すぐに九合目が見える。

九合目の鳥居は木製で、そのひび割れに無理やり小銭が突っ込まれていた。
なんの願掛けをしているのか知らないが、ビジュアル的にはちょっとキツイ。

この頃には、ガスで遠景は一切見えなかったが、周囲を見渡すのには不都合が無い程度。
安全登山には全く問題のないコンディションだった。

黙々と岩場を歩き、最後の階段を一気に登る。

山頂直下には、33回登頂した人が奉納した碑が建てられていた。
「2度登るバカ」どころではない。アッパレだ。

11:19、吉田ルートの頂上である久須志神社に到着。
所要時間6時間ちょっと。ほぼコースタイムどおり。
思ったより全然早い到着だった。

感極まるメンバーたち。
もちろんここでも記念撮影だ。
一方僕は、みんなを無事に下山させることで頭がいっぱいだった。

とりあえず、神社にお参りをして、お守りを購入。
売り子さんに
「山で遭難しないお守りはありますか」
と聞いてみたのだが、そんなピンポイントなお守りは無いとのこと。なので、厄除けのお守りを購入した。

神社のすぐ横には、富士山頂のお鉢めぐりの案内板が。
非常に分かりやすい案内板で嬉しい。

神社の先には売店が立ち並んでいる。
もちろん、山頂全体がガスの中。

適当にベンチに座って、持参したランチを食べる。
4人が普通に座れるぐらいには、ベンチは空いていた。
それもこれも、団体を追い越して山頂にたどり着いたからだろう。

ここで、テルモスに入れて下界から担いできたホットコーヒーをみんなで飲む。
やはり山でのコーヒーはことのほか美味い。

ごはんを食べて人心地ついたところで、火口を見に行く。が、
なーんも見えん。

しかも、火口から上がってくる空気が異常に冷たい。
ランチをとったベンチのあたりは手元の温度計で10℃をちょっと下回る程度だったが、ここはそれより3~4℃は確実に低い。

それでも、ガスが貼れるのを待っていたら、一瞬だけ晴れる瞬間があった。
その際に撮った剣ヶ峰方面。
同じく、白山岳方面。

よく見ると火口にはまだ雪が少し残っていた。そりゃ、空気も冷たいわけだ。

ここで、お鉢めぐりをするかどうか、メンバーと相談。
誰ひとりとして剣ヶ峰に執着する者がおらず、すでに満足した様子だったので、お鉢めぐりは蛇足であると判断し、このまま下山することにした。

下山ルートは途中まで須走ルートと共有。
途中、七合目にトイレはあるものの、売店や山小屋は一切無い。
このため、山頂で水を一本買い足した。

12:10、下山開始。

下山ルートは、歩き始めると早々にザレた広い道が延々と続き、踏ん張りがきかない。
これが有名な砂走りか?と思いながら、重力に身を任せて下る。

砂煙がひどいので、タオルで口と鼻を覆うものの、そうするとメガネが曇って歩きづらい。
タオルを着けたり外したりしていたら、だんだん喉がいがらっぽくなってきて、鼻水も止まらなくなってきた。
恐るべし、砂煙。

また、変化の少ないザレた道をただただ下るだけなので、すさまじく飽きる。
苦痛なので、うっかり自分のペースで飛ばしてしまい、気付くと連れがはるか後ろにいたりする。
これを繰り返し、ただただ黙々と下山する。
心の底から嫌気のさす作業だ。
もういいかげん八合目ぐらいまで降りただろうと思って道標を見ると、まだまだ全然上のほうだったりして、ゲンナリしたり。
これだから富士山はつまらない、、、と、ブツブツ言いたくなる。
頂上までは変化に富んでいて面白かったんだけどなぁ。

しかもこのザレ場の砂礫は、ただの砂礫じゃない。
軽石の砂礫なので、言うなれば、ずーーっと靴底を軽石でこすっているようなものだ。
靴底がすり減りそうでとても嫌だ。けっこう高い登山靴なのに。。。

そんな退屈さや砂礫と戦いながら、13:34、なんとか七合目の公衆トイレに到着。

すでにみんなヘトヘトだ。それに、ちょっとペースを上げすぎたかもしれない。
ここでいったんトイレ休憩をとり、再び歩き始める。

13:58、六合目の少し手前で、五合目までの乗馬を促す人たちが現れる。
ものすごく心惹かれるが、自力下山を己に課し、歩き続ける。

14:09、六合目の安全指導センター前を通過。

こんな標高の低いところまでガスに覆われていた。
おかげで、下山時は景色なんて全然見えやしなかった。

六合目を過ぎたあたりから、徐々に雲の下に出始めた。
次第に下界が見えてくる。

帰ってきたという実感が、じわじわと湧いてくる。
が、まだここはゴールではない。
最後まできを抜かないで歩き続けないと、あらぬところでコケたりするので注意が必要だ。

14:38、スバルライン五合目に到着。

その後、15:10の富士山駅行きのバスに乗って下山。
バスに乗ってすぐぐらいに大粒の雨が降りだし、晴れ男の面目躍如であった・

(おわり)






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