ヘトヘトになって赤岳天望荘にたどり着き、寝床に案内されると、そこは既に満員御礼をうかがわせる雰囲気だった。
何せ、2段になっている大部屋の寝床にはびっしりとシュラフが敷き詰められ、一人に割り当てられたスペースはわずか幅50cm!
幅50cmということは、畳1枚に2人ということである。
幸いにして僕は一番壁際のスペースを与えられた(山小屋側で場所を完全に指定されるのだ)ので、他の人に比べたら格段に居心地がいいに違いない。
実際、一昨年の夏に常念小屋で一畳に2人の割り当てで寝たときにはほとんど一睡もできなかったが、今回はなんとか睡眠を確保できた。
寝床がこんな状況なのだから、当然、就寝時刻まではこんなところに居られない。
そうだ、風呂に入ろう!
なんと赤岳天望荘には風呂がある。
もちろんそれほど大きなものではなく、五右衛門風呂で2人も入れば一杯になる浴槽だ。
洗い場も決して広くはないが、それでもお湯が出るので、汗を洗い流すには充分なはずだ。
(ちなみに、シャンプーやボディソープは使用禁止。当然だが。)
が、やっぱり考えることはみな同じのようで、風呂が激混み。
とても入る気がしないまま寝床に戻り、持参したボディシートで体を拭う。女性の視線は気にしないものとする。ゴメンナサイ。
ひととおり着替えも済んだところで、持参した本と手帳を持って、談話室に移動する。
赤岳天望荘には、談話室というスペースがあって、そちらでくつろぐ仕組みになっている。
そこもかなり混んでいて、上機嫌にお酒を飲んでいる団体や、2人の世界を作っているカップルなどでいっぱいだったが、なんとかスペースを見つけて読書に励む。
僕は、泊まりで登山をする場合には、必ず本を2冊以上持っていく。
特に単独行のときには、2冊読了することを義務として自身に課している。
今回持参したのは佐藤優と竹中平蔵の対談本『国が亡びるということ』と、川端康成の短編集。
『国が亡びるということ』は非常に示唆に富んだ良著ではあったし、対談本なので登山で疲れた状態でもすんなり読めた。
が、談話室で本になにやら書き込みながら熟読している様は、きっと他の登山者からは気持ち悪く見えたのではないだろうか。ゴメンナサイ。
なお、赤岳天望荘では、宿泊者に限ってコーヒーとお茶がフリードリンクで、宿泊手続きの際にカップが渡される。
心地よい疲れと、良著と、温かいコーヒー。至福のひとときだ。
18時になり、夕飯のアナウンスが流れる。
今日のように宿泊者が多い日は、夕飯のタイミングが何回かに分けられており、僕の回は18時だった。
赤岳天望荘の食事はビュッフェ形式で、何種類か用意されているおかずを好きなだけ食べることができる。(ただし、時間制限アリ。)
この日の夕飯はこんな感じ。
秀逸なのは、杏仁豆腐とミカンの缶詰のデザート。普通のよくある業務用という感じだが、疲れた体に優しい口当たりである。幸せを感じる。
こればかり大量に食べていた爺さんがいたほどだ。
夕飯を食べ終わって再び談話室で読書。
赤岳天望荘の消灯は21時なので、それまでは談話室でのんびりできる。
とはいえ、ヘトヘトに疲れていたので、20時ぐらいに引き上げることにする。
外に出てみると、ガスっていたのがウソのような、満天の星空。天の川までくっきり見える。
赤岳のてっぺんには山頂山荘のオレンジ色の光が見える。
なんとノスタルジックな気持ちになる風景であることか。涙が出そうになる。
20時。寝床にもぐりこんでも、明日以降の行程が不安すぎて眠れない。
もういっそのこと、明日は行者小屋経由で美濃戸口に下りちゃおうか。
赤岳山頂から天望荘に降りる途中で、一瞬ガスが晴れたときに見えた、行者小屋と赤岳鉱泉の屋根が脳裏から離れない。
あのルート、楽そうだったなぁ。
そんな考えが頭の中をグルグルする。
モンモンとしてしまい、どうにもならないので、手帳に泣き言ばかりを書き連ねる。
書いても書いても言葉があふれ出して、あっという間に4ページ。誠に情けない。
そうこうするうちに消灯となり、寝る他になくなってしまったので大人しく就寝。嗚呼・・・。
(「【2日目】 赤岳天望荘~縞枯山荘」編につづく)
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