鏑木さんと言えば、日本のトレイルランナーで知らない人は居ない第一人者だ。
その鏑木さんが100マイルレースに掛ける思いを綴ったのが『アルプスを超えろ! 激走100マイル 世界一過酷なトレイルラン』だ。
すでに鏑木さんには何冊かの著書があるが、本書は100マイルレース、特にUTMBとUTMFに対する熱い思いで満たされている。
怪我との戦い、UTMF立ち上げの苦労話などから垣間見える鏑木さんのトレイルラン道ともいえる執念と誠実さは、とても僕のようなしょっぱい人間には真似することも叶わない。しかし、それでも強く心を打たれるものがあるわけで、ましてや、真摯にトレイルランに励んでいる方々は、鏑木さんの背中を見て刻苦鍛錬しているのだ。
さて、僕はトレイルランに関してはウンコ同然の最下層なわけだが、それでも、山ヤとして本書に乗っかって声を大にして言いたいことがある。
それは、本書の161~163ページにかけて力説されている、安全に対する配慮についてだ。
そこでは、山での身の安全は自らで確保しなくてはならず、そのための装備を欠かさずに持参することの大切さが語られている。
曰く、UTMFの第一回の時のことを振り返り、
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初の開催ということもあり、「装備チェックリスト」を公開すると、事務局にはランナーからの問い合わせが相次ぎました。どれも、「あれはだめなんでしょうか」「これだとだめですか」という言い方です。その聞き方こそ、いかにしてルールをすり抜けて荷物を軽くするか、に他なりません。そして彼らの言葉には、どこか自分が使うというリアル感が欠けていたのです。
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と述べられている。
そうなんです。
トレイルランナーの中には、山を舐めてるとしか思えないような軽装で走っている人たちがたくさんいるのだ。
最近も、あるランニング同好会のような人たちから、日の出山~御岳山を往復するという企画に誘われたのだが、その主催者からのメールに記載されていた装備リストには、エマージェンシーグッズは一切含まれていなかったし、雨具に至っては「雨が降ったら中止にするので、雨具は要りません」と明記されていた。
行動中に急に雨が降ることだってあり得ることだし、足をくじくなどの怪我だって付き物なのに、それについての考慮が一切されていないことに腹が立ち、僕は同行をお断りした。
もともと登山をしていた人ならば、ここまで山のリスクに対して鈍くない人が多いのだろうが、ロードからトレイルランに転向した人のなかには、極端にリスク感覚の鈍い人が多い。
ロードであれば、水でも食料でもコンビニですぐに手に入るし、疲れれば公共交通機関を使って帰宅すればいい。怪我などすれば、すぐにタクシーにでも救急車にでも乗れるのだ。
だが、山ではそんなわけにはいかない。どんなに大怪我をしても、自力で下山するか、救助を待たなければならない。
それは、観光客の多い高尾山や御岳山でも、一歩トレイルに入れば同じことだ。
あなたは、徒歩で1時間の山道を、骨折した足で下山できますか?
もしくは、走ることに特化した薄着のままで停滞して、救助が来るのを1時間とか2時間とか待てますか?
下界と山ではトラブルシューティングの在り方が全く違うのだということを、しっかり認識して山に入るべきだと強く思うし、強く訴えずにはいられないのである。
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