このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2012年10月24日水曜日

山行記 : 2012年9月29日~ 美濃戸、赤岳鉱泉、硫黄岳 【2日目】 赤岳鉱泉~硫黄岳~美濃戸口

(この記事は「【1日目その2】 赤岳鉱泉の夜」編の続きです。)


山の朝は早い。

赤岳鉱泉の朝食は6:00からだった。


夕食に比べてシンプルな感じではあるが、朝食はこれぐらいサラっとしているほうが僕にとってはちょうどいい。

今日のルートは、

赤岳鉱泉→硫黄岳→横岳→地蔵の頭→行者小屋→美濃戸口

を予定していたが、気象情報と我々の歩くスピードを掛け合わせて考えた場合、とてもじゃないが稜線を歩くのは自殺行為になりかねない。
台風は容赦なく近づいてきているので、台風の到来が先か我々の下山が先かの戦いと言っていい。
そこで、硫黄岳ピストンのみで完了することとした。


もろもろの準備を終えて、6:45、出発。
まずは小屋の目の前にある分岐を北に向かう。


歩き始めて10分もしないうちに、大同心への分岐に至る。


当然ながら、大同心は一般ルートではない。
それどころか、岩がもろいらしいが、岩ヤの人はフリーで登っちゃうようだが、当然、僕のような登攀初心者には無理。
ルートの入口にはロープが張られ、注意書きまで掲げられている。


言われなくても入りません。
時間に余裕があったら岩壁の下までは行ってみたかったけど、それも今回はお預け。

6:59、ジョウゴ沢に出る。


ここにもロープが張られ、注意書きが掲げられている。


うん、立ち入らない立ち入らない。

ジョウゴ沢を渡ったあたりから、次第に登山道に岩が増えてくる。


ハシゴと階段の中間のような場所も。


急登というほどではないものの、そこそこの斜面がつづく。

しばらく登ると、次第に木々の間から赤岳や横岳が垣間見れるようになってくる。
そうして見えた阿弥陀岳↓。


空はやや雲が多いものの、概ね青空が見える好天といったところ。
まさにこれこそ擬似好天というヤツで、あと数時間後には雨が降りだしても不思議は無い。ちゃんと気象情報をキャッチアップしていなかったら、台風が迫っているとは俄かに信じがたいぐらいの好天だが。

8:20、赤岩の頭の直下に出ると、急に見晴らしが良くなる。
そこからは、阿弥陀岳、赤岳、横岳が一望できた。


目指す硫黄岳もよく見える。


それにしても、こんなにいい天気が一気に崩れるなんて、理屈では分かっているし、それに従って行動計画を立てているが、感覚的にはピンと来ない。


冬山などで擬似好転につられて行動してしまい、天候の急転により遭難してしまうというケースをよく聞くが、そういう人たちが擬似好転につられてしまう気持ちがよく分かった。恐ろしいことだ。

このあたりからはハイマツ帯となる。(だから見晴らしが良いのだが。)


8:28、赤岩の頭と硫黄岳との鞍部に到着。


画像の奥に見える小さなピークが赤岩の頭だ。

でも、この分岐の標識をよく見ると、


「ここは赤岩の頭」と書いてあった。
うーむ、ここは鞍部なのだから、「頭」ではないだろうに。。。

赤岩の頭の反対側には、本日の目的地である硫黄岳がそびえる。


硫黄岳の断崖絶壁に沿って、ケルンが等間隔に建っているのが見える。
2週間前に横岳方面から登った時には、あのケルンを目印にして歩いたのだが、こうして見ると、なんというギリギリのところに建っているのかと唖然とする思いがした。

さて、そんな硫黄岳に向かう前に、赤岩の頭のピークに立つ。


「赤岩の頭」という名前は、なんとなく、江戸時代の東海道の小さな宿場町を仕切っている任侠一家の親分を連想させるような気がして、なんとなく親しみが持てる。
思わず、ドスの効いた声で「赤岩のぉ~」と呼びかけたくなるのは僕だけではないはずだ。(少なくとも、ツレは同意してくれた。)

その赤岩の頭の西側はモクモクの雲海。この雲が台風につながっているのだろうか。


左下に写っているのが峰の松目。

北側もモクモクの雲海。


真ん中に猫耳のように突き出しているのが、東西の天狗岳。

阿弥陀岳の向こうもモクモク。


赤岳鉱泉も眼下に見える。(写真右下)


赤岩の頭からの展望は、思ったよりも非常に爽快で、八ヶ岳にそれほど思い入れの無い僕でも虜になりそうなほどだった。
ひとしきり堪能したところで、いよいよ硫黄岳を目指す。


鞍部からは、しばらくザレ場が続く。


右手には常に阿弥陀岳、赤岳、横岳のトリオ。


なんともイカメシイ。

硫黄岳も十分イカメシイ山で、こんな岩場を通り、


こんな岩場を抜け、


山頂手前の広場に出る。
広場には、用途不明の小屋と、


山頂であるかのような標識が立っている。


正確には、ここが山頂ではないのだが。

ここには2週間前にも来ているが、あの時この場所はただの通過点に過ぎなかった。
改めてここをユル登山の目的地としてみると、見晴らしの良い素敵な場所であると感じる。

遮るものがないためか、風が強いのは2週間前と同じだ。

硫黄岳山荘に降りる稜線と、その向こうの雲海から頭を出している奥秩父の山々。


稜線をたどると、そこには横岳、赤岳、阿弥陀岳。


硫黄岳の爆裂火口の大絶壁。


東西の天狗岳とにゅう。


「にゅう」という不思議な名前の由来についていろいろ調べてみたのだが、どうも稲ワラのことを「にゅう」と呼ぶらしいことが分かり、それがこの断崖絶壁の名前の由来であるとする説があることも分かった。
が、なぜ稲ワラという意味の名前をこの断崖絶壁に与えたのか。その答えをネット上には見出すことができなかった。
そこで、しばらく考え1つの考えに至った。

今は稲刈りといえばコンバインで行い、刈り取ると同時に脱穀まで行って、同時に稲ワラは細かく切り刻んで田んぼに撒く、という一連の動作を一気に行う。
しかし、何十年か前までは、稲を刈り取ったら脱穀する前に稲を束ねて干す工程があった。
干し方はいろいろあるが、最も一般的なものの一つとして、このような干し方がある。
この様子に似ているから、断崖絶壁に「にゅう」という名前を与えたのではないか。完全に当て推量だが。

閑話休題。

広場でしばしの休憩を取り、持参したクリームパンを食べる。
やっぱり山の上で食べるクリームパンは美味い。

さて、台風も近づいているので、あまりのんびりもしていられない。
2週間前に寄れなかった硫黄岳山頂を踏んで下山したい。

というわけで、爆裂火口を回り込むように東に向かう。

火口沿いの登山道はロープで囲まれている。


アップダウンやGPSの情報などを確認しながら、山頂を特定したところろ、どうやらこのへんのようだ。


周りに山頂を示すような標識等は見当たらない。でも、これより先は下り斜面になるので、ここが2,760mの標高点と考えるのが良さそうだ。
近くには祠もあるし。


この地点から爆裂火口の反対側の断崖絶壁を見ると、こんな感じ。


硫黄岳をたっぷり堪能し、あとは美濃戸へ下山するだけだ。
10時ちょっと前に下山を開始した。

山頂から降りるタイミングが、大量の山ガールのツアー登山と同じタイミングになってしまい、恐縮しながら20人程度追い越す。こんなに大量の山ガールは八ヶ岳でないと観測できないことだなぁ、とつくづく思った。

10:15、赤岩の頭との鞍部に到着。振り返って硫黄岳に名残りを惜しむ。


この素晴らしい天気も、あと3時間と持つまい。

木立の紅葉は、登りの時よりも下りの時の方が目に入る。


今朝登った道をひたすら降りて、11:15、赤岳鉱泉到着。


少し早いが、昼ごはんにすることにして、ビーフカレーを注文した。
そのビーフカレーは、味は良かったのだが、ボリュームがちょっと物足りなかったのと、肉の姿がほとんど確認できなかったのが残念だった。
もし昨晩の肉と同じものを使っているのだとすれば、煮込んだら溶けてなくなるのは当然だと思われる。

さて、小屋でご飯を食べている最中、何度もヘリコプターが荷揚げにやってきた。
灯油を運んだり、資材を運んだりしていたのだが、その中でも特にテンションが上がったのが、どうやら赤岳鉱泉名物のアイスキャンディーの資材と思われるものを荷揚げしていたことだ。


アイスキャンディーとは、食べ物ではない。
冬の赤岳鉱泉に作られる人口氷壁である。(参考リンク
もう冬支度なのだなぁ、と思うとワクワクする。次に来るときには、きっとこの資材で立派にアイスキャンディーがそびえ立っていることだろう。

それにしても、ヘリコプターかっこいいなー。小学生のようにはしゃいでしまった。


昼ごはんとヘリコプターを堪能して、12:00、美濃戸口に向けて出発した。
出発に際しては、あたりはもうすっかり雲で覆われていて、かなりヤバそうな状態になってきた。


だいたい時刻とくもの動きが予想通りの展開なので、自分とツレの足が予想どうりに動いてくれれば雨が降り始める前に美濃戸口に着けるはずだ。そこまで考えてのスケジュールを立てたつもりだ。

そんなわけで、前日に通った沢沿いの道をスタスタと歩く。
やっぱり雨雲との競争はなかなか気持ちの急くものではあるけれども、一歩一歩を雑に踏み出して捻挫などしてしまっては元も子も無い。こんな時こそ、慎重に歩くことを心懸ける。

さて、いよいよ美濃戸山荘手前の林道終着点まで辿りついたところで、年配の男性と若い女性の2人連れに出会った。父娘だろうか。
2人は今から赤岳鉱泉に向かうようで「赤岳鉱泉まではどのぐらいかかりますか」と尋ねられた。
今からまさに台風が来るというタイミングで山に入るのか! 大丈夫なんだろうか。

天気はどんどん雲が厚くなる一方だが、時よりくもの隙間から日差しが溢れることもあった。
そんな日差しが、標高を下げて気温が高くなってきた我々にはちょっと暑く感じた。樹林帯だし。



13:30、美濃戸山荘に到着。
休憩をしている時間は無いけれど、どうしてもソフトクリームだけは食べておきたかったので購入。


食いかけを撮影したのではなく、ヘナっとなっているだけです。
このソフトクリームを食べながら先を急ぐ。

といっても、あとはダラダラとした林道歩き。
登山靴での林道歩きは、やっぱり別なシンドさがある。

特に見るべきものもなくただただルーチンワークのように歩き続けて、14:24、ついに美濃戸口に到着。


到着と同時にポツポツと雨粒が落ちてきたので、急いで八ヶ岳山荘に入る。

すると、すぐにものすごい土砂降りが始まった。ぎりぎりセーフ!


15時にタクシーが迎えに来てくれるので、それまでコーヒーを飲んで余裕をかます。


なんという完璧な計算。そして、なんという完璧な晴れ男。
自分自身に酔いしれ、雨を眺めながらコーヒーをすする。

こうして僕の赤岳鉱泉のコース下見登山は無事終了した。








・・・・わけではなかった。


(つづく)

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