このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2015年11月7日土曜日

山行記 : 2015年10月10日 奥秩父・乾徳山 岩と鹿

本当は、10月の3連休には東北に遠征して鳥海山に行くはずだった。
が、諸々の事情により夢と消え、3連休中は日帰り登山を1回するだけとなった。

その日帰り登山の目的地に選んだのが、乾徳山。
岩っぽい山をアスレチック気分で登りたいという、クライミング未経験な連れのたっての希望で、難易度が低く、かつ、岩を登った気分になれる山として選んだ。

乾徳山は公共交通機関でアプローチするとなると、意外にコースタイムがシビアな山である。
乾徳山登山口バス停の終バスはなんと16:08。
普通に歩けば余裕で間に合うのだが、のんびりしていると置いていかれる可能性がある。

できれば、終バスの1本前に乗って、途中下車で温泉に入っていきたい。
となると、さらに急がねばならない。

そんなわけで、連れ共々、足回りはトレランシューズにすることにした。
本来トレランシューズは岩場には不向きだが、乾徳山の岩場ぐらいならば問題ないだろう。


そんなわけで、6:30発の特急あずさで新宿を出発する。
レトロな車体の臨時列車だ。
この列車は我々が下車する塩山駅には停車しないので、大月駅での乗換えが発生する。

塩山駅に到着すると早々に、早足でバス停へ向かう。
ここでモタモタすると、バスに乗る長蛇の列の後方につかなければならなくなるので、席に座れなくなるのだ。
幸い、座席も確保でき、うつらうつらしながらバスに揺られる。
例によって前日にまったく寝付けず、睡眠不足での登山だ。果たして元気に歩けるのだろうか。

9時過ぎ、乾徳山登山口バス停で下車。

直近2回の登山でトイレに苦労しているので、大事をとってバス停近くのトイレに立ち寄るも、何も出ない。
2年前に乾徳山に来たときも、出発早々便意をもよおして苦しんだ経緯があるので非常に不安だったが、出ないものは仕方がない。諦めて出発することにする。
今回は携帯トイレも持参しているから、最悪の場合でも最悪の状況だけは避けられる。

9:20、出発。
しばらくは舗装路歩きだ。
2年前に来たときは、蘆屋道満に思いを馳せながら道満尾根を登ったのだが、今回は睡眠不足で気持ちが乗らず、徳和川沿いからアプローチした。

9:28、乾徳山前宮神社前を通過。

道端のマムシグサの実が熟れて、いい具合にグロい。

9:41、やっとトレイルに入る。

しばらくは退屈な針葉樹林帯。
見るべきもののない上り斜面だと、連れが黙々とペースを上げ出すので、つらい。

年老いたこっちの身にもなってくれー。
なんてことは意地でも口にできないので、変な汗をかきながら後を追う。

次第に周囲が広葉樹林になってきたころ、
銀晶水という水場が現れる。
この時期にしては、そこそこ出ているほうかもしれない。
せっかくなので、汗だくの顔を洗い、生き返った気持ちになる。

その後、地味な急登を経て、
10:10、駒止を通過。
こんなところまで上がってこれる馬ならば、この先の月見岩ぐらいまでは難なく行けそうだが、なぜここが駒止なのだろうか。

そして、再び現れる針葉樹林帯。
だが、この針葉樹林は長くは続かない。
すぐに広葉樹林となり、次第に岩が目立つようになってくる。
乾徳山といえば岩。
そんな乾徳山の気配が次第に感じられてくる。

10:30、錦晶水に到着。
けっこうジャバジャバ出ている。
ここから先に水場は無いが、そもそも今日の山行に必要な分の水は背負ってきているので気にしない。

錦晶水を過ぎると、いよいよ国師ヶ原だ。
国師ヶ原は非常になだらかな疎林で、気持ちの良い場所である。

10:36、国師ヶ原の分岐に到着。
ここをまっすぐ進めば月見岩。
左折するとすぐに高原ヒュッテがある。
用事は無いが、高原ヒュッテを覗いてみることにした。

その高原ヒュッテ、遠景の時点で早くも「あれ、こんなだったっけ??」となる。
どいうのも、去年の7月に来たときにはボロボロだったのに、明らかにキレイになっているのだ。
こんな看板まで付いていた。
しかも、「トイレ」?!
ここにはトイレは無かったはず。
おかげでどれだけ苦しい思いをしたことか。

驚いて中を見てみて、また驚いた。
すごくキレイだ。
「土足禁止」の標示がヤン車みたいだが、ここなら、むしろ積極的に泊まりたいぐらいだ。カーテンが無いから夜が怖いけど。

薪ストーブだけは年季が入っていた。前から有ったんだっけ??

そして、トイレ。
トイレそのものを写すのは自粛するが、ピッカピカのバイオトイレになっていた。
「※菌床にはそば殻を使用しております。(アレルギー対策)」
の一文が泣ける。
そばアレルギーの人は、この程度の接し方でも反応が出てしまうのだろうか。気の毒すぎる。

なお、連れはここに来たのが初めてなので、感動が全く共有できない。
「きれいですねー(棒」
ぐらいで終わってしまう。

ちなみに、一昨年の9月に撮影した高原ヒュッテの姿がこちら。
ほぼ廃墟である。
程度としては、雲取ヒュッテ(雲取山荘ではなく、だいぶ昔に廃業した方)と同程度かそれ以下のコンディションだった。
それが、いまや僕の自宅よりもキレイかもしれない。

そんな感動覚めやらぬままに、再び山頂へ向けて出発した。

月見岩への一本道をたどる。

10:47、「前宮跡」という道標が現れる。
こんな道標あったっけ??
とりあえずその場所を見てみると、祠があったと言われても違和感は感じない程度に開けていた。
現在、前宮と呼ばれる建物はバス停からちょっと入ったところ(本日9:28に通過)に建っている。それが以前はここにあったということなのだろうか。
特に謂れなどは掲示が無かったので、詳細は不明。

これ以上何の情報も得られそうにないので、先を急いだのだが、先行する連れの後を追ってすぐ、道に違和感を感じた。
おかしい、この道はこんなに不明瞭な踏み跡じゃなく、明確な登山道だったはず。
連れを呼び止めて周囲を見渡すと、50mほど東側に、ちゃんとした登山道があった。ルートロスだ。

とはいえ、踏み跡もあるし、致命的ではなかろう。
一応、進行方向右手にある登山道を意識しながら、月見岩までこのルートを登り詰めてしまおうと判断した。

が、これがなかなか荒れた感じで、歩きやすくはなかった。
月見岩と同じぐらいの標高まで来ても、まだ登山道に合流しない。
振り返ると、霞の向こうに富士山が浮かび上がっていた。

登山道との合流点直前、こんな岩が現れた。
これは、人為的に積み上げられたものだよな。こんなの、自然現象だったら何かイヤだ。

結局我々が登ったルートは、月見岩から北西に200mぐらの場所に出た。
眺めは良い。

もともと月見岩で昼飯の予定だったので、すこし戻ることにはなるが、月見岩に向かった。
11:04、月見岩に到着。
せっかくなので、ボルダリング的に登る。

月見岩の周辺は、開けた草地になっていて、見晴らしが良い。
この草地には、扇平という地名がついている。扇状地のように広くなだらかな傾斜地だからだろう。

月見岩のてっぺんから見た乾徳山の頂上は、いつもと変わらぬ穏やかな表情だ。
この見た目からは、あんなに岩っぽい山だということは見て取れない。

月見岩の岩陰で行動食を食べつつ10分ほど小休止。

再び歩き始めると、先ほど我々が登山道に合流した地点のすぐ近くに、「手洗岩」という道標があるのに気付いた。
岩の窪みに水が溜まって、神社の手水のようになっている。
だから「手洗石」なのか?
そもそも、去年来たときには、こんな道標は無かった。
この青地に白字というフォーマットの道標は、この後も度々見かけることになる。そのいずれも、これまで見たことの無いものだった。おそらく、最近になって整備されたのだろう。

11:19、扇平から再び樹林帯に入る。
ここからが乾徳山の本番だ。
否が応でもテンションが上がる。

扇平から樹林帯に入ってすぐあたりの景色が、乾徳山の登山道周辺の景色としては最も好きだ。
高原ヒュッテの正面に広がる高原のような風景も好きだが、こちらの野趣満点な樹木の佇まいのほうが心惹かれるのだ。

次第に登山道にゴツゴツと岩がむき出しになってくる。


岩のサイズも次第に大きくなっていく。


もちろん、そのまま岩がエスカレートする一方ではなく、土のトレイルも現れる。
ここまで標高を上げると、すっかり紅葉が美しく色付いていた。

しかし、またすぐに岩場になっていく。


11:38、急登を登った先には、
髭剃岩がある。

髭剃岩は、真っ二つになって狭い割れ目が生じている大岩である。
割れ目の幅は50cm程度だろうか。
人が横向きになってようやく歩ける程度の幅しかない。

「髭剃岩」と呼ばれる、このような形状の岩はけっこう方々にある。
カミソリのような鋭利さがあるわけでもないのに何故そのような名前が付くのか疑問に思っていたのだが、どうやら、このような狭い割れ目を歩くと、その岩壁に髭が擦れてしまう(それぐらい幅が狭い)ことを表しているらしい。

割れ目の向こう側には、
広がる眺望。
道満山方面もよく見える。
下は断崖絶壁。

ちなみにこの髭剃岩、横から見るとこんな感じ。
断崖絶壁っぷりがよく分かる。
なお、この横顔が拝める場所も非常に眺望がよく、扇平を眼下に一望しつつ、
遠くに富士山も拝める。

そして、この髭剃岩から先は、いよいよ乾徳山名物の岩登りが始まる。

そして、11:53、カミナリ岩登場。
いや、これがカミナリ岩っていう名前だってことも、今回初めて知った。
そもそも、元々そんな名前ついていたのだろうか。
たしかに節理が斜めに走る様子は稲妻っぽく見えないではないが、けっこう無理やりなんじゃなかろうか。

さらに畳み掛けるようにして、鎖場が続く。
この鎖場の岩は角が丸くなっていて滑りやすく、注意が必要だ。
去年7月、雨の中登った際には、鎖無しでは登るのに不安を感じたほどだった。

この鎖場を登りきると、目の前には岩壁が屹立している。
初めて来たときは、「まさかこの岩壁を越えるのか?」とビビったものだが、実際はこの岩を巻く。
この大岩にも名前が付いているようだ。
雨乞岩。
この岩に雨乞していたのだろうか、それとも、この岩に登って雨乞していたのだろうか。
後者なら、雨を乞わないのも命が危ない(と昔の人は考えていただろう)が、乞うのも命がけ、といった感じだ。

11:58、今度は「胎内」という道標が現れる。
この岩が「胎内」なのだろうか。
それとも、この近辺をまとめて「胎内」と呼んでいるのだろうか。

というのも、雨乞岩からこのあたりまでは、岩の回廊とも言うべきような、登山道の両側を岩で囲まれる地形になっているのだ。
それが産道を連想させているのだとすれば、このあたりの場所を指して「胎内」と呼ぶことも首肯できる。
(結局答えは分からないが。)

その先も岩場はあるが、三点支持が必要になるような場所は山頂直下まで無い。

ちなみに、このあたりで抜きつ抜かれつとなったリア充系男女7~8人程度のパーティに対し、僕は妬みからのイライラを募らせた。
随分楽しそうやのぅ自分ら!なんやねん!どないやねん!

なにせ僕は、生まれてこの方一貫して非リア系なのだ。

が、乾徳山がすごいのは、そんなイライラを吹き飛ばしてくれる場所があることだ。
登山道からちょっと逸れたところにある断崖絶壁からの眺めがそれだ。
この断崖絶壁から見えるのは、遮るもののない遠望だ。
煩悩に起因するイライラなど、洗い流される気分だ。
これだから登山はやめられない。

12:07、いよいよ山頂直下の一枚岩に到着した。
鎖を使わずにトレランシューズでこの岩を登るのは、ソールの固い靴で登るのよりも当然難易度が増す。
クラックに足を突っ込んで登るのだが、やわらかいトレランシューズでは引っ掛かりが不安定で、気をつけて踏ん張らないとホールドしきれないのだ。

僕らの前に登っていく登山者たちは皆、ハナから鎖に両手でぶら下がり、鎖をたぐるように登るのだが、鎖が長いために体を左右に振られて、非常に危ない登り方をしている。
あくまで鎖は補助であり、全体重を鎖に預けるような登り方をしてはいけないのだ。

そんなわけで、クライミング経験の無い連れに対して手本となるような登り方をしている登山者がおらず、僕が登って手本を示さざるを得なかった。
本当は、下からのほうがバックアップしやすいのだが、、、(足を置く場所を指示したりとか。)

ちなみに僕は、ここをトレランシューズで登るのは2回目だ。
前回はトレランシューズの中でも固いソールの荒地向けモデルだったので全く苦労しなかったのだが、今回は舗装路を走るのもストレスにならないような柔らかいシューズ(モントレイルのバハダ)を履いている。
果たして鎖を使わずに登れるのだろうか。

結果、1箇所だけ、柔らかいトレランシューズで登るには足の置き場を工夫しなければならないところがあったが、鎖に頼らずにそれほど苦労も無く登りきれた。

次は連れの番である。
後続に見守られながら、苦労してホールドを確保する連れ。
やはり、足の置き場の難しいところで詰まったので、鎖を使うよう声をかけた。

無事に連れも登りきり、12:14、乾徳山の山頂に到着。
山頂に立つ連れの顔は緩みっぱなしだ。
さきほどの一枚岩がよほど楽しかったようだ。

山頂からは、金峰山の五丈岩も目視できた。(写真中央やや左寄り)
その右手に見えるのは国師ヶ岳だろう。

甲武信ヶ岳も見えた。

ここでランチ休憩を取った。
さすがに山頂は冷え込み、汗冷えする。
食べ終わることにはすっかり体が冷えてしまった。

12:40、山頂を出発。下山を開始する。
下山は、来た道を引き返してもつまらないので、下山道を通ることにした。
そんなわけで、山頂を北側に下りる。

北側も思いっきり岩だ。

去年7月に来たときには、樹木が生い茂りすぎて下山道の入り口すら見つけることができなかったのだが、今回は10月だ。さすがに夏の間たくさんの人が歩いて、踏み固められているだろう。
と思っていたら、入り口にロープが張ってあった。
ここから入るのは間違いないのだが、こんなにハッキリとトラロープを張られると、もしかして途中で崩落とかしてるんじゃないかと不安になる。

ちなみにこの下山道は、「山と高原地図」の2012年版では実線になっているが、2014年版では破線になっている。
僕が歩いた2013年の時点でだいぶ道の怪しい箇所はあったのだが、それにしても、何の注意書きも無しに、まるでそこにハナから登山道など一切存在しなかったかのようにトラロープを張られると、そのロープをくぐってまで行こうとは思えない。
あのタチの悪い、濡れた逆層スラブを連れに味あわせたかったのだが、大事をとって来た道を引き返すことにした。


そんなわけで、12:48、再び山頂を通り、
巻き道の方を使って一枚岩の下に出る。
一枚岩の方はまだ登ってくる人がいたので、下るのは遠慮した次第だ。

13:14、扇平に出る。

月見岩にたどり着いたとき、先ほどは月見岩に登らなかった連れが、登ると言い出した。
一枚岩の興奮冷めやらぬ、といったところか。
結果、傾斜の緩いルートではなく、かぶり気味のルートで完登。
この時点ですでに僕よりも岩登りが上手いかもしれない。
やはり、大学時代に体育会系の部活動をしているほどの身体能力に加え、若さが兼ねそろっているだけあって、僕のことなど軽々と越えていく。

さて、このあと月見岩から国師ヶ原へ下りるわけだが、そこでシカの群れと出会った。

始めは2、3頭だったのが、
次第に数が増えはじめ、10頭以上にまで膨れ上がった。
しまいには、ひときわ体の大きい固体(今思えば角が無いからメスだったのだろう)が、こちらに執拗にガンを飛ばしてきた。
警戒している、というよりも、「やんのかゴラァ?! あぁ?!」と言いたげな目に見えたのだ。

相手はシカといえど、多勢に無勢。
こんな疎林では、突っ込んできたらスピードにも乗るだろうから、こちらも無事でいられる保証がない。

もはや気分は深夜のコンビに前。
たむろするヤンキーにめっちゃ見られながら店に入る時のような緊張感を味わいながら、相手(=シカ)を刺激しないように静かに歩く。
野生の中では、人間などかよわいものだ。。。(人間一般の話にすり替えたが、単に僕がビビリなだけかもしれない。)


13:32、国師ヶ原の分岐に到着。

ここから先は、逃げるように走って下った。
トレランシューズでよかった。

14:14、林道に合流。

14:35、乾徳山登山口バス停に到着。

下山に2時間。
まあまあといったところか。

こうして今回の登山は終了した。


なお、後日談だが、この岩場がよほど面白かったのだが、連れがマッターホルンに登ると言い出した。
非常に心配だ。


(完)



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