このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2013年1月7日月曜日

山行記 : 2013年1月2日~4日 燕岳 [2日目] 中房温泉~燕山荘



(この記事は「[1日目] 中房温泉まで」編の続きです。)



冬だろうと、山の朝は早い。

中房温泉の朝食は6:00からだ。
食事を取りながら、食堂のテレビで天気予報を見る。新潟や石川が大雪、長野はやや小降りの雪の予報。
ということは、燕岳のあたりは普通に雪が降るだろうと考えたが、風の強さが分からない。
とりあえず、合戦小屋まで行って考えることにする。そこまでなら、怪我や遭難のリスクは小さいし、合戦小屋からなら時間的にも十分に中房温泉まで引き返せる。
唯一の心配事はトレースが夜のあいだに埋まっていないかだが、その場合はラッセルしてみて考えよう。

そんなわけで、7:00に宿を出発。
雪はやっぱり降っているが、勢いはやや弱い。

7:06、登山口。

この日の日の出は7:00なのだが、谷間なので晴れていたとしてもまだ太陽は見えない時刻ではないだろうか。
『枕草子』でいうところの「冬はつとめて」とは、まさにこの状況か。
気温は、手元の温度計で-8℃ぐらい。

まだこの時点ではアイゼンを付けなかった。
どうせアイゼンの歯が引っかかるような雪質ではないだろうし、滑落するような場所もしばらく無いだろうから。

合戦尾根の最初のランドマークは第一ベンチ。
無雪期ならば登山口から30分でたどり着ける場所だが、合戦尾根のなかで一番傾斜がキツい区間でもある。(あくまで主観としてだが。)

登山口を出て5分、早くもサラサラの雪に足を取られはじめる。


深みにハマる、ということではなく、傾斜が急なところでは、サラサラの雪が積もっていると足場が確保できずに、まるでアリ地獄のようにズルズルと滑ってしまうのだ。

それでも、そのまま粘ること30分、さすがに無理と諦めてアイゼンを装着。
まだまだ全然第一ベンチまでたどり着けず。


相変わらず雪はシンシンを降り続けるも、トレースが分からなくなっているようなこともなく、急斜面でジタバタしなくてはならないという1点を除いては非常に快適だ。
それにしても、こんなサラサラの雪を歩くのは初めてなので、スピードが思うように上がらない。
少し焦る。

7:56、第一ベンチ到着。

登山口から50分もかかってしまった。
先が思いやられる。

第一ベンチでは、テント泊している人がいた。
僕が通りかかると、通気口からこちらを見ている様子だったので挨拶をした。

ちなみに、雪の深さはこんな感じ↓。

ちなみに、無雪期の第一ベンチの看板はこんな感じ↓。

まだまだ積雪は大したことない、というところか。

再びトレースを追って第二ベンチへ。
なんの変哲もない雪のトレースを歩くだけの緩やかな登りなので、楽。

8:29、第二ベンチに到着。

雪が、第一ベンチより深くなっている。
気温はまだ-8℃のまま。

再び歩き出し、第三ベンチを目指す。

9:11、第三ベンチ到着。

道標はほとんど埋まっていた。
この先、道はどんどん雪深くなっていく。

次のランドマークは富士見ベンチ。
が、行けども行けども富士見ベンチの道標にたどり着かない。
地形としては、このあたり↓が富士見ベンチのはずなんだが・・・。

行けども行けども、道標が見つからない。
そんなにモタモタ歩いているつもりはないのにたどり着かないということは、場合によっては燕山荘到着を諦めて引き返さなければならないかもしれない。
心が折れそうになる。

おっかしーなー、、、この石より手前に富士見ベンチがあったような気がするんだけどなー。。。

すると、その先で出会った下山者にすれ違いざまにざまに
「もうずぐ合戦小屋ですよ、がんばってください」
と声をかけられる。

え。

びっくりして問いただした。
「え! 富士見ベンチはどこ行っちゃったんですか?!」

すると、その下山者が言うには、富士見ベンチの道標はおそらく雪に埋まってしまっていたのだろうと言う。

マジか!

そうなると、俄然自信が湧いてくる。きっと上まで行ける!
実際、そこから10分もしないうちに、ついに合戦小屋が見えてきた。

合戦小屋は、半分ぐらい雪に埋まった状態だった。

小屋前の広場と荷揚げ用のケーブル。

これが夏にスイカを食べた場所と同じだとは、とてもピンと来ない。
ちなみに夏だとこんな感じ↓。(少し寄りの画像だが。)
(2011年7月撮影)

強風に煽られるような天候ならここで引き返すつもりだったが、どうやら大丈夫なようだ。
このまま燕山荘まで問題なく行けると判断した。

さて、そんなわけでここからは風を遮るものがほとんどない尾根歩きとなる。
夏ならまだまだ樹林帯なのだが、今の季節は背の低い樹木が全部雪の下になってしまって、風を遮ってくれるほどの密度は無い。
なので、ここからはさらに防寒対策をしなければならない。

上半身は、ここまではウールのベースレイヤーとハードシェルだけだったが、ハードシェルの下に薄手のフリースを着込む。
もちろん、フリースを着るためには、アウターであるハードシェルを一度脱がなくてはならない。
気合一発、ハードシェルを脱ぎ、フリースを着て、もう一度ハードシェルを着る。
とても寒い・・・。

さらに、頭にはニットキャップを被っていただけだったのを、バラクラバも身につけた。

加えて、ゴーグルも装着。

この時、グローブを装着したままではフリースが着れないため、ほんの1分程度素手になって作業をしたのだが、そのあと10分程度、指先がギンギンに痛み、まさに厳冬期の北アルプスの厳しさを身をもって味わった。
本当に凍傷になるかと思った。。。

そんなトラブルはあったものの、なんとか身支度を終え、再び登り始めた。

写真の暗さからも察していただけると思うが、天気はずっと悪いまま。

降っているのか、それとも積もったのが風に舞っているのか分からないが、唯一露出している鼻と唇に雪が容赦なく叩きつけられる。
僕の持ってきたバラクラバは薄手のものなので、鼻や口に穴が空いておらず、鼻や口を覆うと苦しくて歩けなくなるのだ。
しくじった。

次第に、まばらだった木々も稜線上からすっかり姿を消し、風を遮るものが何も無くなった。

それと同時に、ルート上はサラサラの雪ではなく、クラストした場所が大半を占めるようになった。

写真で見ると薄暗い感じだが、僕自身は黄色いゴーグルをしていたため、肉眼で見える風景は真っ黄色だった。
そのゴーグルもうっすらと内側が曇り、視界が効かないほどではないにしろ、雪面の微妙な凹凸が見えにくくなってきた。
ルート上はクラストしていてアイゼンがよく効き、非常に歩きやすいのだが、少しでもルートを外すと股のところまでハマってしまう。視界が悪いながらも、慎重に見極めながら歩かなくてはならない。

まばらな枯れ木の枝に雪が吹き固まっているのが、やけにキレイに感じた。
もはや写真では背景に同化して、わけが分からないな・・・。

こうして小さなピークを2つ越え、12:06、いよいよ燕山荘が視界に入ってきた。
写真だとよく分からないかもしれないが、真ん中のピークの上に建っているのが燕山荘だ。

ちなみに夏はこんな感じ↓。

このあと夏道だと、ここから燕山荘の直下をいったん北側に巻いて、燕山荘と燕岳の間から稜線に出るのだが、なんと冬場は、燕山荘に向かって直登し、夏ならば展望台として使われている場所のすぐ脇に出るのだ。

さすがにこの急登(というか、夏の印象ではほぼ崖)には、無造作にフィックスロープが垂らされていた。
が、こっちはアッセンダーどころかハーネスすら持ってきていないので、どうしたらいいのか分からない。せっかくなのでロープを持って登ろうとしたが、滑って無理。
仕方がないので、ロープを全く使わずに、ピッケルで登った。その方が確実で安全な気がする。

この急登を登りきり、冬季小屋の入口あたりまでたどり着いた瞬間、稜線の向こうからの西風をまともに食らった。

そう、これが最後の洗礼なのだ。

一瞬にして鼻の穴の中まで凍り、軽くパニックになる。
このままでは鼻が凍傷になってしまう! 鼻が真っ黒になってしまうのはイヤだ!
慌ててバラクラバで鼻まで覆うと、今度は息苦しくて無理。
バラクラバを上げたり下げたり、手で顔を覆ってみたりしながら、なんとか燕山荘の入口前までたどり着く。

12:52、燕山荘に到着。

残念ながら、燕岳の姿はガスと舞い散る雪の向こう。

こんな寒い強風の中でアイゼン脱いだりモタモタするのはイヤだなーと思っていたら、他の登山者たちがアイゼンを穿いたまま入口を入っていく。
まさか、と思って中を覗いてみると、なんと土間にベニヤ板が敷かれていて、アイゼンで入っても大丈夫なようにしてくれていた。
さすが燕山荘。心の底からありがとう!
遠慮なく、アイゼンのままで入らせていただく。

こうしてこの日の行程は終了した。


(「[2日目 その2] 燕山荘にて」編へつづく。」)

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