アイスクライミングというと、ジムでのクライミングしか経験のない僕にはいささかハードルが高いのだが、赤岳鉱泉では初心者向け体験講習もあるので、僕のような未経験者でも手を出すことができる。
ということで、今回はレンタカーで美濃戸登山口まで移動。
9:50、美濃戸口の八ヶ岳山荘に到着。
ここの駐車場にレンタカーをとめて、先を目指す。
駐車場代は1泊2日で1,000円。
準備をして、10:07、いよいよ出発。
林道は、それなりに雪が融け残っていて、場所によってはカチカチの氷になっている。
やはり、車を美濃戸口に駐車したのは正しい判断だった。僕らが乗ってきた日産マーチでは、確実に立ち往生してしまっただろう。
とはいえ、林道歩きはやはり退屈だし、地味に上り坂なのでウンザリする。
そんな僕らを横目に何台も四駆の車が林道を登っていくのだが、そんな車の1台が僕らの脇に止まり、
「乗ってくか?」
と声をかけてくれた。
神は居た!!
ありがたく同乗させていただく。
聞けば、その車の主は先週もこの辺りに来ていて、今回は赤岳主峰を登るとのこと。いかにもベテランといった感じだ。
赤岳山荘の駐車場まで乗せていただき、その先はまたトボトボと歩き始める。
10:45、美濃戸山荘に到着。
ここで、先行する高校山岳部風の10人程度の団体に出会う。
引率2名、その他高校生といった感じだ。
僕が高校生の頃は冬山登山は禁止されていたものだが、最近はOKなのだろうか。もちろん、山岳部によっては昔からの伝統で冬山登山をするところもあるようだが。
ここでアイゼンを装着した。
ところどころで地面が露出していたものの、カッチカチの氷に覆われている部分もあり、ここでアイゼンを付けたのは正解だった。
このところの陽気で、融けたり固まったりを繰り返しているのだろう。
おかげでアイゼンがよく効く。
雪の残り方は、まるでゴールデンウィークのように少ない。
これ、赤岳鉱泉に着いてみたら「アイスキャンディ融けちゃいました」みたいなことになってないだろうな・・・。
嫌が応にも不安が増す。
11:44、堰に到着。
ここから先は、関係者の車も入ることはできない。
いよいよ登山道の始まりだ。
登山道沿いの積雪も、ほんの少しずつだが増していく。
標高を上げるごとに赤味を増していく北沢の川床。
木道はすっかり露出して、アイゼンでズタズタになっていた。
12:16、大同心が遠くに姿を現した。
それにしても、赤岳鉱泉までこんなに遠かったっけ?
寝不足が祟って、ペースが全然上がらない。
12:36、横岳も見えてきた。
ここまで来れば、もうすぐ赤岳鉱泉に着くはず。
12:45、立入禁止の看板の向こうに、
ついにアイスキャンディの威容が姿を現す。
回り込むと、数人のクライマーが登っていた。
これに明日挑戦するわけだ。ドキドキする。まさに初夜の気分だ。
赤岳鉱泉で宿泊手続きをおこない、いったん荷物を下ろす。
僕たちは大広間に通されたのだが、この日は見事に満員のようで、布団がずらりと並べられていた。
とはいえ、1人1畳程度の空間は確保されており、寝るのに困るということではなさそうだ。
それでも、小屋泊初心者である連れの後輩は、
「マジっすか。これしかスペース無いんすか。」
と驚いていた。
後輩よ、これでもマシなほうだぞ。
荷物を置いたら、小屋の前にあるテーブルで昼食タイム。
アイスキャンディが見える場所に陣取って、鍋料理を開始した。
メニューは寄せ鍋。
材料は以下のとおり。
- 市販の寄せ鍋スープ
- 鳥もも肉 400g
- 白菜などのカット野菜 3~4人分
- 冷凍の海鮮ミックス(むきエビ、イカ、なんかの貝など)
- 長ネギ 2本
- うどん 3玉
後輩が腹ペコ野郎なので、2人なのにこのボリューム。
なので、このためにわざわざ24cm径の深底のフライパンを担いできた。普通のクッカーじゃ、この量は入らない。
ストーブは寒いところでも安定した火力を維持できるアルコールストーブ。
五徳は、普段使っている小さなものでは24cm径(しかもハンドル付き)に対応できないので、VARGOのアルミニウムウィンドスクリーンを無理やり風防兼五徳として使用。
華奢なので、フライパンの重さに耐えられるか不安だったが、慎重に使ってなんとか無事故で切り抜けた。もちろん、使用後には歪んでいたが。
で、ここで気が付いた。
フライパンだからフタが無い。
いくらこの時期にしては暖かいとはいえ、外気は5℃ぐらい。フタが無いと、煮立たせるためのエネルギーロスも大きい。果たして、持参した300mlのアルコールで事足りるのだろうか。
不安を抱えながら、着火。
寄せ鍋スープが煮立つのをじっと待つ。
・・・・・・・・・。
やっぱり、なかなか煮立たない。
うーむ。。。
しばらくして、フライパンの底にじわじわと気泡が現れてきた時点で、しびれを切らして鶏肉を投下。
その後もしばらく待つ。
全然煮立たない。
本当に食えるようになるのだろうか。
不安でいてもたってもいられなくなった後輩から、白菜などの野菜をブチ込んでフタ代わりにするという提案がなされる。
あまりフタにはならないような気もしたが、特に代案も無いので、それに従う。
僕は以前から、この年若い後輩に強く押されると、つい従ってしまうのだ。
きっと、槍ヶ岳の北鎌尾根で遭難死した加藤文太郎もそういうタイプだったに違いない。
で、結果、
寄せ鍋には見えなくなる。
ビジュアル的には間違いなく寄せ鍋以外の何かにしか見えない。
だが、しばらくすると、だんだん美味そうになってきた。
鶏肉に火が通ったようなので、食べてみる。
むむ、美味い!
予想に反して見事に美味である。
どうやら、加藤文太郎にはならなくて済んだようだ。
そのあとは、アイスクライミングの準備に勤しむベテランたちを尻目に、2人でひたすら食い続けた。
後輩の視線の先にはアイスキャンディ。僕の視線の先には大同心。なかなかのシチュエーションでの寄せ鍋だ。
あらかた食べた後に、締めのうどんをブチ込む。
ちょっと味が薄いような気がしたので、塩を少し加えてみる。
すると、
うん、ジャスティス!
これぞ大正義である。
先程まで曇天模様だった空が、なぜか青空に変わっていくというオマケまでついてきた。
陽光が心地よい。
そうして、うどん3玉を食い終わってみたら、燃料のアルコールはほぼ使い切った状態になっていた。
まさにギリギリセーフ。
食べ終わると、満腹になった後輩が眠いと言い出すも、それでも中山展望台には行きたいと強く主張するので、手早く後片付けをして中山展望台を目指す。
15時頃、出発。
行動予定は1時間半。
赤岳も見える。
出発してすぐの雪には落書きが。
こういうこと書くヤツはどこにでも居るんだなぁ。。。
きっと自己表現の仕方を知らないのだろう。
昨年9月に訪れた際にシカに出会った場所。
その先には、なにかの動物の足跡が。
蹄の跡じゃなさそうだから、ウサギかなぁ。
15:26、視界が開けて大同心と横岳が見えた。
空が青い。
今年に入って、泊まりがけの山行ではいつも吹雪だったので、こんなに青空だとどうすればいいのか分からなくなる。
15:35、中山展望台直下の分岐から見た大同心。
全体的にもうほとんど雪は無く、大同心に至っては全く雪が見当たらない。
本当にゴールデンウィークのようだ。
15:48、中山展望台に到着。
昨年9月の写真と見比べると、1mぐらいは積雪が残っている感じだ。
中山展望台は、2,300mちょっとの標高にもかかわらず「展望台」の名前がついているだけあって、非常にすばらしい眺めが堪能できる。
阿弥陀岳。
赤岳と中岳。
横岳。
大同心。
大同心と硫黄岳。
遠くには南アルプスも。
赤岳の手前には、行者小屋が見える。テントも何張か見受けられる。(写真ではちょっと分かりづらいかもしれないが、真ん中に行者小屋が写っている。)
地蔵ノ頭からのハシゴがあるであろう辺りも、ほとんど雪が消えていて、これなら容易に行き来できそうだなーと。
いつまでも見飽きないこの景色を、ただただ堪能し続けていたら、横岳から月が登った。
なんかもう、フルコースだな。
いつまでもこの景色を眺めていたいが、夕飯の時刻が17:30からなので、ぼちぼち来た道を引き返して赤岳鉱泉に引き返す。
後ろ髪引かれまくりだが、致し方ない。
(「1日目その2 赤岳鉱泉の夜」編につづく)
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