このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2012年12月29日土曜日

動物行動学

以前、『私の山小屋日記』という書籍を紹介した。
この本は、著者である動物学者が山の中に籠って動物の行動を観察しながら過ごす日々について綴ったエッセイである。

このように、生き物を観察して習性を解き明かすような作品は、古くは『ファーブル昆虫記』や『シートン動物記』などがあるが、それをさらに動物の行動を科学的アプローチにより観察を深めることによって解明する学問が動物行動学だ。

登山をしていると、さまざまな生き物に出会う機会に恵まれるが、そのようなときにどのように振舞うべきなのかを知りたいという気持ちから、今年に入って動物行動学関連の書籍を読むことが多くなった。
そんな書籍をご紹介したいと思う。

まずは、動物行動学の元祖ともいえるコンラート・ローレンツ氏の『ソロモンの指輪』。


本書は、1949年に原書の初版が出版された。
僕はつい最近まで、本書のことをファンタジー小説か何かだと勘違いしていた。不明を恥じるばかりである。

ローレンツ氏はさまざまな生き物を放し飼いにして、その行動を観察し続け、その結果を時にユーモアを交えながら記述している。特に鳥や犬の記述が多い。
鳥の種類も多岐に渡るが、ニシコクマルガラスやハイイロガンの話は、非常に興味深く、心を動かされる。

次は、カラスつながりで、松原始氏『カラスの教科書』。


本書は、カラスに特化した動物行動学の本である。
カラスがどのような生態であり、どのような行動を取る生き物であるのかを400ページ近くの項数を費やして解説されている。
と書くとものすごく重たい大著のようであるが、実際は1ページあたりの文字数は非常に少なく、また、語り口も軽妙で、軽い気持ちで読み通せる。

次に紹介するのは、小林朋道氏『先生、~』シリーズ。

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!


先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!


先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!


先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!


先生、キジがヤギに縄張り宣言しています!


先生、モモンガの風呂に入ってください!


この一連のシリーズは、鳥取環境大学の教授である著者が、大学の敷地内外で観察調査を続けている生き物たちの話題を分かりやすく語っている本だ。
非常にハートウォームであり、ユーモラスな語り口に油断していると、思わず目頭が熱くなるような話が放り込まれてきて心を持って行かれてしまう。

このシリーズは完結したのかどうかわからないが、同じ著者による似たようなコンセプトの書籍も出版された。
それが『なぜヤギは、車好きなのか?』である。


本書では、『先生、~』シリーズにも登場する、鳥取環境大学で飼われているヤギたちの話である。やはり、動物行動学の見地から解説しつつ、やはり心を動かされるストーリーを放り込んでくる作品である。
著者は『先生~、』シリーズを経て、ストーリーテラーとしての腕を上げたようである。

なお、著者は非常に多作な方のようで、より学術論文に近い一般書なども多々出版されている。


このような動物行動学の本は、必ずしも山の生き物ばかりを取り上げているわけではない。
だが、このような書籍から丹念に山の動物の習性などに関する記述を拾い上げて学習しておくと、山の生き物に対するアンテナが鍛えられるに違いないわけで、山歩きがより豊かになるに違いない。

せっかく登山を趣味にするのであれば、少しでも自然に対するリテラシーを高め、たくさんのことを自然から学べるようになりたいものだ。


2012年12月22日土曜日

西丹沢登山詳細図

先日、東丹沢の登山詳細図が発売されたわけですが、いよいよ西丹沢の調査も開始されたようです。
(詳細はこちら

発売が楽しみでしかたない!

2012年12月15日土曜日

『岳人』リニューアル

登山雑誌の中でも特にエスタブリッシュな『岳人』だが、今月号(2012年12月15日発売)から誌面を刷新した。

第一に、大幅にカラーページが増えた。が、定価は据え置き。
昨今の山ブームで、収益性が向上したのだろうか。

また、新しい連載陣もなかなか興味深い。
奥多摩の山岳救助隊・金邦夫さんによる、奥多摩遭難をテーマにした連載が始まったのが特に嬉しい。

あと、気のせいかもしれないが、『岳人』編集者であるサバイバル登山家・服部文祥さんが以前にも増して誌面に登場するようになったような。
とりあえず、本人の文章による、あの情熱大陸の舞台裏についての文章は、思わず口の端で笑ってしまう。

登山3誌のなかで『岳人』は一番じっくり読めるので、僕はとても好きだ。
今後も刮目したい。


2012年12月11日火曜日

ワンゲルガイドブックス『雪山エントリーコース』

山と渓谷社から一度に出版された雪山ガイド書籍の1つは、ワンゲルガイドブックシリーズの9番目『雪山エントリーコース』だ。


作りは他のワンゲルガイドブックシリーズと同様、TIPSを散りばめつつ、主としてはコースガイドが掲載されている。

だが、内容的には同じタイミングで出版された『雪山登山』のほうが懇切丁寧だし、内容を豊富に感じたため、本書は物足りなさを禁じえない。価格はほぼ同じなのに。

「エントリーコース」というくくりの方がキャッチーなのだろうけど、それよりもやはり、同じ山域でくくっての冬山登山ガイドにするなど、シリーズとしての一貫性も欲しかった。
うーん、、、


2012年12月9日日曜日

野村仁 『雪山登山』

昨年までは、雪山登山に関する書籍なんて、ほんとに数冊もないぐらいで、特に雪山登山のコース紹介の本なんて2冊ぐらいしかなかたのではないだろうか。

それが、今年は山と渓谷社が固めて一気に3冊も出版された。
そのうちの1冊が『雪山登山』である。


本書は雪山登山のコース紹介にとどまらず、雪山の歩き方の技術について懇切丁寧に掲載されている。

これまでは雪山登山は山岳部や山岳会などで先輩から手ほどきを受けるものとされていたわけだが、最近は、山ガールブームで登山に目覚めた人たちがさらなるステップアップを目指す傾向があるようで。
それはそれで怖いわけだが、僕も山岳部にいたのは高校のときなので雪山登山の手ほどきは受けていない。(残雪期に吹雪かれたことはあったが・・・。)
これまでコツコツと独学を続けてきたのだが、体系的にまとめられた本書は、再確認のためには非常に役立った。


これを書いている今、新潟は冬の爆弾低気圧に覆われてドカ雪が降っているという報道が・・・。
年末年始、大丈夫かなぁ。。。
寒いの嫌だなー、、、



2012年12月8日土曜日

星野秀樹 『雪山放浪記』

雪山。晴れれば天国、吹雪けば地獄。
これを書きながら見ている明日の天気予報も、日本海側はガッツリと雪が降るとのこと。
寒い寒い。

そんな雪山に登る楽しみを綴ったエッセイとコース紹介を収録した本が『雪山放浪記』だ。


著者の星野秀樹氏は山岳カメラマンであり、本書にも素敵な写真がふんだんに掲載されている。
それだけでも本書を読む価値があるのだが、コース紹介と共に盛り込まれたエッセイがまさに珠玉。
読んでいるうちに、雪山に行きたい気持ちと、行きたくない気持ちとがどんどん膨らんでくる。

雪山に行って、あの凛とした空気と澄んだ景色を心ゆくまで味わいたいという思いと、寒いなぁ、怖いなぁという思いがせめぎ合って、心が乱れる。

年末年始の登山、どうしようかなぁ、、、


2012年12月3日月曜日

燕山荘の冬季営業

そろそろ年末年始の燕岳登山に向けて燕山荘の予約しなきゃなーと思っているところに、燕山荘から冬季営業のお知らせが届いた。

山小屋のCRM活動って、意外としっかりしてるよね。
けっこう学ぶべきところもあるかも。

2012年12月2日日曜日

筋肉疲労にアーモンド?

テレビを見ていたら、トレーニング時の筋肉疲労を軽減するには、トレーニング後30分以内にアーモンドを20粒食べると良いそうな。
アーモンドには抗酸化作用のあるビタミンEが多く含まれるそうで。

で、今日、10km走った後にさっそく食べてみたんだが、、、、




アーモンド20粒ってけっこう大変だぞ。



しかも、多分カロリーが200kacl弱ぐらいあるんじゃないのか?
10km走ったぐらいじゃカロリーの過剰摂取になっちゃうんじゃないのか??


うーむ。。。

今泉吉晴 『わたしの山小屋日記』

『わたしの山小屋日記』というエッセイシリーズが、「春」「夏」「秋」「冬」という4冊が出版されて完結した。

わたしの山小屋日記 「春」

わたしの山小屋日記 「夏」

わたしの山小屋日記 「秋」

わたしの山小屋日記 「冬」

本書でいう「山小屋」とは、登山でお馴染みの営業小屋ではなく、本書の著者個人が住まう、山の中の庵をいったところだ。

山小屋は、奥秩父と岩手の2箇所にある。
本書では、その2箇所の山小屋での動物達の観察記録がエッセイ調で記されている。
動物学者である著者はさすがの観察眼であり、だからこその本書なのだろう。

ムササビやらリスやら鳥やらアカネズミやら、そんな動物たちとのふれあいのある日々。
羨ましくて仕方がない。



2012年12月1日土曜日

購入&インプレッション : inov8(イノヴェイト) 「Race Pac 16」

大きめ容量のトレラン用ザックは、サロモンのスキンプロを使っていたが、どうしてもショルダーハーネスの長さが合わなくて背負いにくさを感じていた。
なんとかならんものかと悩んでいたが、ODBOXでinov8の安売りをしていたので、RacePac16を買ってしまった。


今メインで使っているグレゴリーのルーファスは、本体重量がけっこうあるので、大容量のほうは諦めてRacePac8を買うか悩んだが、なぜか8の背負い心地がしっくりこず、16のほうはすばらしい背負い心地だったので、16を購入した。

背面には大きなメッシュポケットがついているので、何を入れるかは自分次第。たぶん、上着か何かを無造作に入れるんだろうなと。

本体上部には大きめのポケットが1つある。

メインのファスナーは大きく開けられて荷物の出し入れがしやすそう。

背中側がこんな感じ。

ウェストのハーネスには右側だけポケットが付いている。左側は簡易なパッドだけ。

背中の当たる部分は当然の如くメッシュ。
パッドも入っているので背負いやすい。

16リットルの容量で、こんなにいろいろ付いて、なんと480gという軽さ。

これだけ容量があって軽ければ、冬の低山でも着替えや上着を入れて走りに行ける。
夏場なら、ツェルトなどを入れて泊まりがけのトレランだって可能だ。
考えただけでウキウキする。

さらに快適にするために、アドオンのボトルホルダーと小さいポケットも併せて購入。

ボトルポーチは、ボトルも付属しているが、普通の500mlペットボトルの方が出し入れしやすそう。

小さいポケットはケータイとかジェルとかを入れる程度のサイズ。

本体に取り付けるとこんな感じになる。

これらのアドオンは、ショルダーハーネスに付いている専用アタッチメントパーツで上下を接続し、さらにマジックテープで固定するので、走ってもズレたりブレたりしなさそう。

ハイドレーションは別室になっており、専用のジッパーから入れる。

近いうちに使ってみて、感想を追記したいと思う。


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(2012.12.2追記)

3kg程度の荷物を入れて、ボトルポーチも付けて、10kgほど試走してみた。

ボトルポーチに500mlペットボトルを入れて走っても、ブレはそれほど気にならない。
荷物の重心も、ちょうど肩甲骨の間に有るような印象で非常に快適。

身長166cm、体重50kg台の僕にも気持ち良く背負えたので、ザックの背面サイズに悩む人でも快適なのではないだろうか。


加川淳 『3時間を切るためにぼくがしたこと』

登山にかまけてマラソンのトレーニングをすっかりサボっていたために、先週の富士山マラソンでコテンパンにやられたので、少し走ることを意識しなければイカンだろうと。

そんなわけで読んでみたのが『3時間を切るためにぼくがしたこと』。


いや、サブスリーなんか狙ってないし、そんなタイムは夢想だにしていないのですが、読みやすそうだったからつい魔が差して読んでしまったのです。。。

著者は、完全に普通の市民ランナーだが、中学・高校では陸上部だったそうな。
で、ちゃんとマラソンを始めたのは29歳から。
そこから10年でサブスリーを達成し今に至る、という話。

非常に読みやすく、1時間で読める手軽さだが、内容は示唆に富んでいる。
トレーニングの組み立て方や、モチベーションの保ち方など。

モチベーションの保ち方の一つとして紹介されていたのが、SNS活用だ。
ジョグノートという市民ランナーたちのSNSを活用して、他のランナーたちを自然に意識することで、ダレそうになるのを回避しているそうだ。

実は僕もジョグノートを使っているのだが、実際、手軽に自分の練習記録もつけられるし、他のランナーたちによる情報発信も参考になるものが多く、テーマを絞ったSNSの利便性を強く感じるサイトだ。
が、僕の場合あまりにも練習しなさすぎて、恥ずかしくて最近使っていない。。。ううう、、、、



角幡唯介 『アグルーカの行方』

以前、探検家でノンフィクション作家である角幡唯介さんの書作を何冊か紹介してきたが、その角幡さんの最新刊である『アグルーカの行方』は、これまでとは少し趣が変わり、山ではなくて北極圏が舞台だ。


僕は寒いのが苦手なので、アラスカの山だの北極探検だの南極マラソンに行く人達の気が知れないのだが、せっかくの角幡さんの著書なので、出版される早々に読んでみた。

タイトルになっている「アグルーカ」。聞きなれない言葉である。
それは何を意味するのか。
答えは、序章に入る前のページに、端的に記載されている。
(僕はその記述に気付かずに読み進んだため、かなり後になってからその意味を知るまで、いろいろなことを脳ミソの棚に上げっぱなしにしておかなければならなかった。)

19世紀、この「アグルーカ」と呼ばれた男を含むイギリスの探検隊が北極圏で全滅、その理由は現在でも明確になっていない。
その「アグルーカ」の足跡を辿る旅を描いたのが本書だ。
旅といっても、荷物を満載したソリを人力で引っ張っての徒歩での旅だ。
しかも場所は北極圏。読んでるだけで底冷えする。

本書の後半には、その旅の途中の様子を写した写真が掲載されている。
そういう本の作りになっていると、僕の悪い癖で先に写真を見てしまうのだが、いきなり目に飛び込んできたのは男性の口から真っ赤なツララが垂れ下がっている写真だった。
その男性こそ、著者だ。
本文を読み始めて早々にその理由は書かれていたのだが、正直なところドン引きだ。こんな目には絶対に遭いたくない。。。


本書には僕にとって、随所に発見が散りばめられていたが、それらの中で比較的小さなトピックを紹介すると、極地で肉体労働(つまり、ソリを引きながらひたすら歩くとか)をする場合、1日の摂取カロリーが5000kcalでも足りないという事実に驚いた。
5000kcalだってたいへんな量なのに、それ以上の食料を持ち歩くなんて想像もできない。


本書を読んでも極地探検に行きたいとはとても思えなかったが、雪山登山にも通じるところがあり、非常に示唆に富んだ内容であった。
もちろん、読み物としても非常に読ませる作品であり、さすがだなぁと唸る次第だ。


なお、著者本人は、本書が書店で一般書扱いではなく登山コーナーに置かれていることを嘆いていた。(本人のブログより)


ちなみに、『考える人』2012年11月号に掲載されている著者と沢木耕太郎氏との対談で、本書の構成に関する著者の意図なども披露されているので、興味のある方は是非。


2012年11月26日月曜日

2012年11月25日 第1回 富士山マラソン

僕は基本的に、富士山を見ると得した気分になる。
登山の最中でも、新幹線や飛行機の中からでも、富士山を見るのが好きだ。

だが、年に1日だけ、富士山をみるとゲンナリする日がある。
それが河口湖マラソンの日だ。
河口湖マラソンには毎年参加しているのだが、フルマラソンを走るという憂鬱さを反映して、富士山を見てもゲンナリするのだ。

その河口湖マラソンは昨年で36回を数えていたが、今年から「富士山マラソン」に名前を変え、コースや大会運営仕様を大幅に変えて開催されることとなった。
開催日程は河口湖マラソンと同じく11月下旬、JRAのジャパンカップと同日に開催される。

もちろん、大会の名前が変わっても、憂鬱な気持ちは変わらない。

今年も、富士山を見てゲンナリする日がやってきた。
その日の早朝、河口湖駅前からは皮肉なほどに美しい富士山を見ることができた。

心は沈んだまま。お得感は無い。42kmも走りたくない。
特に今年は、秋の間ずっと登山にかまけて走るトレーニングをサボっていたので、とてもじゃないがフルマラソンを走れるような体づくりはできていない。
走ったら多分膝とか壊す。

しかも、気温は氷点下。なんの耐寒訓練なんだ、いったい。

事前に選手に郵送で送られる『参加のご案内』には、「レース直前 セルフチェック項目」が記載されているのだが、そのうちの1つに
「走る意欲充分です」
という項目があった。正直なところ意欲は非常に希薄なので、参加を取り止めてもいいですか?

さて、今回から参加賞は走る前から引き換えることができるようになった。
しかもその引換所はスタート地点ではなく、河口湖駅前。
なので、スタート地点に向かう前にさっさといただく。

今回の参加賞は、Tシャツとサングラス。

Tシャツは、河口湖マラソンの時の仕様と全く異なる、ややシェイプされた黒いメッシュ地ボディだった。
サングラスの方は、なんとSWANS。

もちろん、お店で売ってるようなものに比べてややチャチな印象は否めないが、トレランのときの目の保護にはちょうど良さそうな色と形だ。

参加賞を貰ったら、いよいよスタート地点へ。
フルマラソンの部は、河口湖マラソンのときと同じスタート地点だった。
ちなみに、河口湖マラソン時代にあった10kmと28kmの部は無くなり、富士山マラソンでは河口湖1周コース(18km)というのが新設され、そちらのスタート地点はいきなり河口湖大橋のたもとからだ。

スタート地点といっても、参加者が大人数のため、スタートラインから長い長い列でゴッタ返しである。
うらめしいまでの青空と、スタートを待つ選手たち。
この時点でまだ気温は氷点下。

スタート前には、ゲストのトークもある。
河口湖マラソン時代から引き続き、有森裕子さんとデンジャラスの他、今回は瀬古利彦さんと菅原文太さんが来ていた。

8:15、はるか前方でスタートの号砲が鳴る。
じわりじわりと動き出す人の波。

スタートしてしばらくは、人がゴッタ返して自分のペースで走ることが難しい。
はるか前方まで人のうねりが続いている。
やっぱり富士山が見えてもお得感は無い。

今回は全くのトレーニング不足のため、ペースをいつもより抑え目にして走る。
ただただ淡々と、景色や参加者を眺めながらの長い長いジョギングのつもりで。

しばらくすると、河口湖1周の選手たちのコースと合流するポイントを迎えた。
フルの選手も18kmの選手も一緒クタになって走っていると、前方から
「ふぉーーーっ!」
という、やたらテンションの高い叫び声が聞こえてきて、それがすごいスピードで近付いてきた。
その正体は、選手たちとは逆方向に対向車線を走る有森裕子さんだった。
ものすごい前傾姿勢で、ものすごいスピードで走りながら、参加者ひとりひとりとハイタッチして突っ走っていった。
その姿に思わず笑みが溢れる。
いい仕事っぷりだ。

河口湖畔はすっかり紅葉のハイシーズンで、モミジが特に濃く色付いていた。

山に行くとモミジなんて見れないから、これはこれでうれしい。
これがマラソンでなければもっと楽しかったろうに。

さて、昨年までの河口湖マラソンは、河口湖を2周するという地味に精神を蝕まれるようなコース設定だったのだが、富士山マラソンでは河口湖と西湖を巡るコースに変更になった。
西湖なんて行ったことがないので、どんなコースなのだろうか。

と思っていたら、河口湖から西湖に向かう場所、おおよそ20km過ぎの地点で、標高にして80m程度の渋い坂が現れる。
走力の無い者は、ここで心が折れる。
僕のようなのんびりペースで走っている人達は皆、軒並み歩き始めた。
僕にとっては、上り坂は勝負どころなので、ペースを落とさずにそのまま突っ込む。いったい何人抜いたか分からない程、面白いように抜き去ることができた。

その先すぐ、文化洞トンネルを抜けると、目の前には西湖が現れる。

生まれて初めての西湖だが、特に思い入れも無いので、感慨は無い。

そのまま西湖の北岸を西に向かうと、古民家が現れた。

左上のほうに写っているのが十二ヶ岳。このすぐ先に登山口がある。

そのまま西に向かい、西湖の湖畔に沿って折り返すように南岸を走る。
この南岸がは日の光が当たらず、しかも西湖からの冷たい風が吹き付けてくるので、体の左半身(西湖に面している方)の体温がどんどん奪われて痛みすら感じるようになる。
しかも、30kmあたりからバテでしまい、ペースがグンと落ちているので発熱量も少なく、体が冷える条件が見事に整っているわけだ。

そんな南岸から見た、西湖と十二ヶ岳。

もう西湖をはやく切り抜けて、はやく河口湖に戻りたい。
そればかりを考え、気持ちは急くものの、足がついてこない。
トレーニング不足をうらめしく思いながらも、まさに身から出た錆。

エイドで食べたバナナを吐きそうになりながら、どうにかこうにか文化洞トンネルに到着する。
ここを抜ければ、坂を下ってすぐに河口湖に出られる。

その下り坂の途中に35km地点がある。
この時点でもう完全に膝が痛くて、確実に壊れた感があった。
残り7kmをなんとか左足1本で持っていこうと四苦八苦しながら坂を下っているときに、

「スピード落とせ」

の看板が目に入った。これは天啓なのか・・・?

見通しの悪い下りのカーブだから、ドライバー向けに掲示されている看板なのだと思うのだが、なんかもう「歩いたっていいじゃない」という、神の赦しの言葉にも、悪魔の囁きにも思えた。

坂を下りきったころには、右膝の痛みが耐え難くなっていた。
痛いだけならいいのだが(いや、良くないが)、完全に踏ん張りが効かなくて、右足に体重をかけると膝がカクンと折れ曲がってしまうのだ。そう、まるで「膝カックン」をやられたみたいに。

そうなると、いよいよ本格的に左足1本で走るしかない。
もちろん、左の前腿に大きな負荷がかかってしまい、パンパンにパンプしてしまう。
汗も鼻水も涎も垂らしながら、歩いてるんだか走ってるんだか分からないようなスピードで、右足を引きずるようにして進んでいると、「残り5km」の看板が目に入った。

看板には「by有森裕子」と書かれたメッセージが。
細かい文言は忘れたが、「ここまで来たんだから、笑顔で頑張れ」的なことが書いてあって、思わず目頭が熱くなる。
完全に心が弱っている証拠だ。

ここから先、もうずいぶん前に抜いたはずの人たちにバンバン抜かされている。
僕を置き去りにする、見覚えのあるたくさんの後ろ姿。
きっと、白骨街道でマラリアと飢えに倒れた兵士たちも、同じような光景を見ていたに違いない。

残り1km。
他の選手たちは皆、ラストスパートを始めた。
こんなところでスパートできるんなら最初から頑張れよ、こちとら歩くのもままならない状態だっつーのに!
と、僕を抜き去る背中に八つ当たりをしたくなる。
我ながら、スポーツマンシップもなにも有ったもんじゃない。

この最後の1kmの長いこと長いこと。
これまでのマラソンのなかで、一番長い1kmだった。
そんな1kmも、よろよろしながらなんとか終えて、ゴール。
正式なタイムは分からないが、手元の時計では明らかに自己ワーストを更新した。

僕はいったい、河口湖くんだりまで何をしに来たのだろうか。。。
得たのは、疲労と吐き気と痛みと虚しさだけだった。
トレーニングを積むことなくフルマラソンを走るというのは、きっとこういうことなのだろうと思った。


帰り支度を整え、出店で美味しい串焼きを食べて、心を落ち着かせてから新宿行きのバスに乗り込んだ。

こうして僕の今年のフルマラソンは終了した。


2012年11月16日金曜日

山行記 : 2012年11月10日 筑波山 日帰り


野郎3人で紅葉の筑波山へ。

登山経験がほぼ皆無ながら、百名山に強い憧れを持っていて、僕よりも百名山のカタログ的知識が豊富という不思議なメンバーを交えての日帰り登山だ。
僕にとっても初めての筑波山なので、けっこうワクワクである。

登山にしてはノンビリで、秋葉原発10:00のつくばエクスプレスで出発。
実のところ僕は、つくばエクスプレスに乗るのは初めて。テンションがあがる。

つくばに到着すると、もうかなり遅い時間帯の上に臨時便も頻繁に出発しているのに、まだバス乗り場は長蛇の列だった。
なんと直行便もある。

さすが紅葉時期の観光地。ナメてたら痛い目に遭うぜ。

バスに乗り込んでいざ筑波山へ。

よく整備された、民家もロクにない広い道を走るバス。
車窓からは筑波山がよく見えた。

筑波山は事実上の独立峰と言っていいだろう。
周りはだだっ広い関東平野に囲まれ、ただただ平地が広がっているだけ。
それが「西の富士山、東の筑波山」と言われる所以だろうか。

今回の計画では、つつじヶ丘までバスで行き、そこからおたつ石コースを登って女体山へ。その後男体山に登って、御幸ケ原コースを下山する予定だ。
が、途中からバスが全く前に進まなくなった。紅葉渋滞にハマったのだ。
そうか、世の中の気軽な低山では、この時期は山に行く前に渋滞にハマるんだった。失念していた。。。

その後、時計の針は進めども、バスは一向に進まず、到着時刻の見通しも「あと2、3時間はかかる」という運転手さんの話。新幹線だたら東京から青森まで行けちゃうよ!
そんなわけで、つづじヶ丘どころか、筑波山神社のもっと手前、観光案内所で下車した。
予定を変更し、御幸ケ原コースを登ることにする。下山のことは、山頂に着いてみてから考えよう。

まずは観光案内所から筑波山神社を目指す。
やっぱり観光地だけあって、歩いている人の数も多い。

歩き出して15分程度で、筑波山神社の鳥居前に到着。

もう時刻は12時半を回っていたので、ここで昼飯にすることにした。
鳥居の前にあった食堂に入る。

メンバーの1人が筑波にゆかりのある人間だったので、名物は何かと聞くと、つくばうどんだと言う。
たしかに、メニューに一番デカく載っているのがそれだった。

素直にそれを注文した。
出てきたのがこれ。

たしかに写真のとおり。

で、なぜこれが「つくばうどん」というのかというと、

「つ」・・・つくね
「く」・・・黒い野菜
「ば」・・・バラ肉

という、ただの無理な語呂合わせだった。
しかも、黒い野菜の内訳は、ゴボウ、里芋、しいたけ。しいたけって野菜??

まー、美味しかったので良しとする。

食い終わった時点でもう13時。
あああ、ノンビリしすぎた。
さーて、登るか。

山門をくぐり、

神社にお参り。
どうか今月末のフルマラソンで好タイムが出せますように。

本店の横では、ガマの油売りが実演していた。

やっぱり筑波といえばガマの油だよなー。


もうここまでで十分満喫した気分になり、山に登らずに帰ってしまいそうになる。
いかんいかん、今日は筑波山に登りに来たのであって、神社にお参りに来たわけではないのだ。

ということで、神社の境内を抜けて、ケーブルーカー乗り場へ。

といっても、ケーブルカーに乗るわけではなく、その横の登山道を登る。
ケーブルカーの駅の周りは見事なモミジの紅葉。こんな立派なモミジの林は、山の中では見られない。

駅を出発するケーブルカーの写真を撮ったら、

いよいよ登山道に入る。

この時すでに13:16。なんと遅い取り付きだろうか。

我々がルートに選んだ御幸ケ原コースは、登山道の3分の1~半分ぐらいが丸太の階段になっている。

階段を登る登る。

13:40、御幸ケ原と筑波神社の真ん中ぐらいに到着。

ここは、ケーブルカーがすれ違うポイントで、唯一複線になっている場所を見ることができる。

下ってくる「もみじ」号。

上がっていく「あおば」号。

すれ違いを見れたので、満足して先に進む。

このあたりから次第に立派な杉が何本も現れる。

奥多摩あたりの杉材の植林というよりは、佇まいの非常に太い幹の杉が、雑木に混じって何本も生えているのだ。
やはり信仰の山なので、神木といったところなのだろうか。

御幸ケ原コースの後半は、非常に山っぽい。

傾斜も急で、観光地だからと舐めてかかったらひどい目に遭いそうだ。
実際、今回の連れのうち登山経験がほぼゼロのほうのメンバーは、全身汗ダクになって、次第に足が止まるようになってきた。

御幸ケ原まで500mぐらいに迫ったところで、男女側の水源の看板が現れる。

御幸ケ原まで400mぐらいに迫ったところで、小さな祠が現れる。

御幸ケ原まで300mぐらいに迫ったところからは、丸太の階段がびっしりと敷き詰められていて、最後の苦難を我々に与える。

この階段で、登山経験がほぼゼロのほうのメンバーは、3分ごとに休憩を要するようになってきた。
たしかにこの階段は、普段運動していない人間にとって心が折れる景色だろう。

14:37、御幸ケ原に到着。
なかなか眺めが良い。

ここには、ケーブルカーの駅がある。

この駅の2階部分はレストランになっており、しかも、じわりじわり回転して、席に居ながらにして全方位の景色を楽しめるようになっている。

福島県側に移動すると、そこは広場になっていた。
すごく混んでいる。

こちら側からの眺めは非常にすばらしく、思わず声を上げるほど。

景色を堪能したら、まず男体山の山頂を目指す。

山頂への途中には、テーブルとベンチが置かれた眺めの良い場所がある。
そこからの展望。
画像左側奥に見えるのは霞ヶ浦。

14:58、男体山の山頂に到着。

この祠、正面に回るとこんな感じ。

祠の前からの眺め。

山頂の裏手には測候所があるのだが、これがなんともお化け屋敷風。
使ってるんだろうか??


時間もかなり遅くなってきているので、さっさと男体山を下り、今度は女体山の山頂を目指す。

女体山の山頂への途中には、ガマ石という奇岩がある。
このガマの口に当たる部分に小石をうまく乗せることができれば幸せになれるそうな。
たくさんの人が群がって大騒ぎしながら小石を投げ上げていた。
もはや運動会の玉入れ状態。

もちろん僕も試してみた。


・・・やっぱり僕は幸せにはなれないらしい。うん、知ってた。


気を取り直して山頂を目指す。

女体山の山頂直下から男体山を望むと、少しずつ夕暮れが迫っていた。

15:36、山頂手前の祠に到着。

ここから山頂までが凄まじい渋滞。混んでてなかなか山頂にたどり着けない。

山頂方位盤にたどり着くのに5分かかった。
それにしても、見たこともないぐらいシンプルな山頂方位盤だ。

山頂からの眺め。

三角点。

標識は混みすぎて写真が撮れず。。。

再び御幸ケ原まで下りたところで、もう16時を過ぎてしまった。
自分だけなら、ヘッドライトも持ってきているので走って下山するのだが、連れがいるのでケーブルカーで下山することにした。

となれば、せっかくなので茶屋に寄ってビールだろ、と。

そんなわけで、きのこ汁とビールで一息つく。

茶屋からはケーブルカーに並んでいる人々の列がよく見えるのだが、いつまでたっても一向に列が短くならない。
そうこうしているうちに、外はすっかり暗くなってしまった。
夜景がこれまたスバラシイ。
iPhoneのカメラでは、これが限界。

ケーブルカーの列に並ぶこと30分。
やっと乗ることができた。

そのままケーブルカーで下山して、本日の登山は終了。

まー、マッターホルンでヘリタクしたイモトアヤコさんが非難されるなら、こういう山の遊び方も非難されるんだろうね。
つまらんことだ。


筑波山は、最も低い百名山で、しかも観光地ということで舐めていたが、なかなかどうして良い山だった。
登山道は短いながらも登り甲斐のある急勾配だったし、景色も良い。
渋滞さえなければ、年に1回ぐらい来たいところだ。