遭難は怖い。登山をやってて何が怖いって、遭難して多くの人に迷惑をかけることが何より怖い。熊より怖い。
なので、僕の登山の信条は何よりも「遭難しない」である。人生においては既に遭難したも同然だが。
そんなわけで、僕としては数多くの遭難事例をできるだけ頭に叩き込むことによって、回避可能な遭難は確実に回避できるようになっておきたいという思いが強い。
そんな思いに応えてくれるのが山と渓谷社から出ているソフトカバーの単行本『ドキュメント ○○遭難』シリーズだ。このうち「道迷い」「気象」「滑落」の3作を著しているのが、羽根田治氏だ。
氏の遭難関連の作品の特徴は、遭難した本人(生還している場合)や関係者への聞き取り調査などを充分におこない、それを一般の読み手にも充分に伝わるように再現VTRのように表現している点である。
この手法は、時に「"物語"にしてはいけない」という批判を受けるそうだ。(『ドキュメント 生還 山岳遭難からの救出』「文庫版のためのあとがき」より。)
著者ご本人は「必要以上に脚色して物語にしているつもりはまったくない」(同上)とされている。実際、僕も読んでいて「脚色」を感じたことは無い。これが、氏の作品がそのへんのノンフィクション系ライターとの違いだ。
遭難は、気をつけるべきポイントがある程度絞られると思うのだが、それをリアルにイメージできなければ気をつけようが無い、というのが人間の脳みその限界だ。いわゆる報告書では、それがなかなか難しい。
逆に、人間の脳みそで充分にイメージできるように表現したものは、学習効果が高い。であるから、氏のような表現方法はむしろ推奨されるべきものだと思う。
『ドキュメント 生還 山岳遭難からの救出』で取り上げられている遭難話は、ド素人による遭難から玄人の遭難まで、バラエティ豊かなラインナップになっている。
なかでも、経験者である老人がリーダーとなって神奈川県の低山で道迷い遭難をした家族の話などは、パーティでの登山の悪い面が出ちゃってる典型例として、非常に印象深かった。
こういう本が今後もたくさん出版されると嬉しい。
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