このブログで紹介している登山ルートの状況は、現在の当該ルートの状況を保証するものではありません。
山行に先立っては、必ずご自身での情報収集を怠らず、安全な計画を心がけてください。

2012年3月30日金曜日

熊野古道・大峯奥駈道について

紀伊半島・熊野の世界遺産は、「熊野三山」、「吉野・大峯」、「高野山」の3つの霊場と、これらを結ぶ「熊野参詣道(熊野古道)」、「大峯奥駈道」、「高野山町石道」といった参詣道からなっている。
それを総称して「紀伊山地の霊場と参詣道」ということで、世界遺産に登録されている。

で、 漠然とこの参詣道を歩いてみたいと思ったのだが、いわゆる「熊野古道」も「高野山町石道」も、わりと整備された道のようなので、いまひとつテンションが上がらない。
それに対して「大峯奥駈道」というのは、標高こそそれほど高くないものの峻嶮な厳しい山道で、しかも今でもここを歩くことが修験者の修行として行われているという。全行程歩きとおすとしたら、なかなかタフな旅程になるようだ。

そうなると、俄然「大峯奥駈道」に興味が湧いてきた。
 そこで、実際のところどのような道(場所)なのかを勉強しようと思い、片っ端から本を読んでみた。


まずは、森沢義信『大峯奥駈道七十五靡』。




















本書では、大峯奥駈道全行程および、その周辺に広がる参道、麓の村などに至るまで、事細かに言及されている。
その範囲は、現在の地理的環境から、歴史、逸話、修験者の修行に至るまで包括的にカバーしている。この一冊で大峯奥駈道の概要を知ることができるのではないか、というほどの充実ぶりだ。

実際に、「山と高原地図」と照らし合わせながら本書を読み進めてみたのだが、地図に載っていないような情報まで満載で、非常に奥が深い。

あとがきで著者は本書について
この本は奥駈道の研究所でもなければ入門書でもなく、紀行文でもなければ登山の案内書でもない、焦点のさだまらない、結局、奥駈道への思い入れだけが強い内容になってしまった。
と振り返っているが、いやいやどうして、このような謙遜には当たらない充実した内容だ。
まさに「思い入れ」の強さが、これほどの本を書き上げさせたのだろう。
読み手のモチベーションにもよるが、僕にとっては本書が最初の一冊で良かったと、心の底から感じている。


次に、藤田庄市『熊野、修験の道を往く 「大峯奥駈道」完全踏破』。





















本書は、大峯奥駈道を踏破する修験者の修行に密着取材した紀行文である。
これがまた激熱!
客観的な随行取材ではなく、自ら修験者としての修行をおこないながらの突撃取材である。ジャーナリストはかくあるべし。
前述の『大峯奥駈道七十五靡』では、修行内容そのものに対する記述は多くないので、本書で以って修行の内容や雰囲気感などを知ることができた。
修行の様子を知りたいのであれば、本書が最初の一冊であると良いかもしれない。
素直に感動した。

また、体験型突撃取材だけあって、大峯奥駈道の生々しい状況もより感覚的に伝わってくるので、僕のような登山者にとっても『大峯奥駈道七十五靡』を補完する意味で非常に有用であると思う。


次は、前田良一『大峯山秘録 花の果てを縦走する』。
















本書はすでに絶版になっているようで、古書で手に入れて読んだ。
本書の前半は前述『熊野、修験の道を往く 「大峯奥駈道」完全踏破』と同様、随行取材による紀行文で、後半は大峯奥駈道にまつわる話を取材したルポルタージュと随筆である。

で、何がスゴイかって、本書の取材は熊野が世界遺産に認定されるはるか昔、1980年代半ばのバブル経済真っ只中で行われたということである。
実は、大峯奥駈道の南半分は、わりと最近になって近世以前の山道を復活させたもので、近代に入ってからは本来のルートとは異なるルートをたどっていたようである。
本書では、その南奥駈道復活前のルートをたどっての修行であり、世界遺産認定にわく前の様子を伝えてくれる貴重な資料である。

また、本書以降の大峯奥駈道関連の書籍に登場する「鬼マサ」こと岡田雅行さんという並み外れた怪力を誇った強力(=ガイド兼ボッカ)の存在を掘り起こしたのも本書である。

「鬼マサ」は大正時代に、 大峯奥駈道の釈迦ヶ岳の山頂まで、今もその山頂に立つ仏像を単身で担ぎあげた豪傑であるが、その名は歴史に埋もれていた。
それを、当時を記憶する人々に丹念に取材し、掘り起こして本書に載せているのだ。これは非常に意義のあることで、こうした無名の人によって歴史が作られていくということがよく分かる作品になっている。

絶版にしておくのは大変惜しい。


次は、銭谷武平『大峯縁起』。




















大峯の山々に関する単発の話がもろもろ集められている。
ただ、著者の専門が農学のためか、山の話ではなく植物や昆虫などの話ばかりで、登山家にとってはあまり・・・。


最後に、銭谷武平『大峯今昔』。




















今回取り上げた書籍の中で最も直近の2012年3月の出版。
前述『大峯縁起』と同じ著者なので、作品の方向性も同じ。


この5冊を読んでみて分かったのは、大峯奥駈道を6泊7日で歩くのは、それなりに難しそうだということと、デジカメのメモリー対策を考えておかないと、最初の2日ぐらいでメモリーがいっぱいになってしまうぐらいに、いわくのある場所がたくさんあるということだ。
非常にアホな結論だが、実はとても重要なポイントで、わざわざ東京から行くのだから、そのような瑣末な情報こそ非常に重要だ。

とても歩きごたえのあるルートなので、今から楽しみだ。



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