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2012年10月2日火曜日

山中俊治 『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』

ちょっと前の話になるが、ロンドンオリンピックで両足が義足のランナー、オスカー・ピストリウスが陸上男子400mと陸上男子4×400mリレーに出場した。
南アフリカ共和国の代表として。

初めてオスカー・ピストリウスが走るのをテレビで見たとき(たぶん北京オリンピックの頃だったと思う)、両足が義足でこんなスプリントができるのかと、雷に打たれたように衝撃を受けた。
誤解を恐れずにいえば、凛としたカッコ良さにものすごく惹かれたのである。

その衝撃を同じように受け、しかもその衝撃を自分の仕事につなげたのが山中俊治氏である。
氏はプロダクトデザイナーとして長く第一線で活躍され、その後慶応義塾大学の湘南キャンパス(通称:SFC)にて教鞭をとられている。

SFCで教鞭をとられるにあたり、産学共同での義足制作プロジェクトを立ち上げられ、学生たちとともに取り組んでこられた。その軌跡をまとめたのが『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』である。


本書では、陸上競技用の義足にデザインを持ち込むという著者の挑戦が描かれているのだが、まだまだ発展途上段階であることが読み取れる。
だが、僕個人としては著者の考え方には大いに賛同する次第だ。

特に、生身の足に似せた義足よりも、義足自体をカッコ良くすべきという考え方には、得たり!という気持ちでいっぱいだ。

本書を読みながら、おそらく、義足で生活する人の中でも、スポーツをやろうという人は少数派なのではないかと想像した。
健常者だって、日常的にスポーツをしている人が多数派だとは言い切れないが、それにしても義足ユーザーに占める割合よりは大きいだろう。
なぜそうなのか。そこには、経済的、肉体的なハードルもあるだろうし、そもそもスポーツができるということ自体思い付かない人もいるのではないか。

本書に登場するヘルスエンジェルスという義足アスリートたちの団体のように、指導者や支援者がいる環境で活動できる人たちはごく僅かなのかもしれない。そういったものが存在することすらも知らない人たちは、それだけで機会を損失していると言ってもいいだろう。
こういう活動を盛り上げていく方法は無いものか。


ところで、本書でも取り上げられているが、産学共同プロジェクトの難しい点として、学生がどんどん卒業することにより、取り組むメンバーが非常に流動的になってしまうということが挙げられるだろう。民間企業で言えば、4年離職率がほぼ100%という、ブラック企業並みの定着率の悪さである。
なかなか産学共同プロジェクトの成果が実社会にフィードバックされるまでに至らないケースが多いのは、このような構造的な問題によるのかもしれない。


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